賢者の事情
(彼女が入っていった)木のドアを、その時初めて木製であることに気付いたのですが、私はしばらく中を透視するかのように眺めていました。そうすれば何か合点がいくかのようにですが、当然見通すこともできず、音も聞こえてはきませんでした。
彼女とはここでお別れでは、と不安もよぎりました。
何度も約束を反故にされた苦い経験があるからです。そんなウソをつかさせる私が悪いのでは、と思い当らないわけでもありませんが、人の心を玩ぶようにして金を巻き上げるやり方は、まったくク*です。いや失礼、それにまた脱線したようです。
新たに今度は彼女はひどく警戒していたのではないだろうかと思い始めました。何かに怯えていたかもしれません。事情を説明することが許されていないのは誰からだったのでしょう。
欲に目がくらんで、判断が甘くなるということは私に関してはない、と信じたいのですが、むしろ問題は判断に過度の信頼を持ちすぎる傾向が私にあるのではないかとの懸念です。まあ、一般的に言えば、独善であり固陋です。実は、はっきり言って私が会社をクビになったのは、そこにあると指摘されていました。でもそんなことク*くらえです。失礼、本当に失礼しました。クビになったことを考えるとツイ興奮してしまうのです。
そういえば、と私は思い当りました。最初に面接官が「この会社はク*です」と言ったのはなぜだったのでしょう。明らかにあの会社は政府とつながっています。彼は、彼らに所属しているのですが快く思っていないのでしょう。私を面接するのも嫌だったのか、彼と彼女の関係はどうなのでしょう。
すると彼の言葉が不自然であったようにも感じられてきました。
「私には質問の答えがわからないようになっています」というのはどういうことだったのでしょう。その後の「正直に」ということばに注意が行っていたけれど、質問する人がその答えを知らされないということは何を意味しているのでしょう。明らかに何か裏がありそうです。彼は私にサインを送っていたのかもしれません。
いろいろ疑念が湧いてきて、木製のドアの向こうに、その秘密が隠されているのではというようにドアをにらんでいましたが、ふと私は彼女が言った「エース」というのが何で、どこにあるか探さなくてはいけないことを思いだしました。




