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最強獣人に転生したのに女王様エルフに調教されるオレの話  作者: ねこ丸


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第ニ十六話 ……弱すぎるぞ、おぬしら


 酒場の扉が背後で閉まると、朝の空気が改めて肌へ触れた。


 夜の冷えはまだ石畳の上に残っている。だが、空はもう暗くない。東の空が淡くほどけ、屋根の縁や看板の角がうっすら白んで見え始めている。遠くでは荷車の車輪が軋み、店を開けるために戸板を外す音が重なり、街全体がゆっくりと息を吸い込んでいた。


 その中を、グランはまっすぐ歩いていた。


 迷いのない足取りだった。


 立ち止まることはある。だがそれは、道を確かめるためではない。ほんの短く足を止め、顔を動かし、何かを拾うように空気を受けて、すぐまた歩き出す。その度に進む先はぶれぬ。大股で、重い体を少しも持て余さぬまま、どんどん前へ出ていく。


 ルシアはその横を歩きながら、何度目かになる疑問を口にした。


「おぬし、本当に分かっておるのじゃろうな」


 グランは前を向いたまま答える。


「分かってる」


 短い。


 短すぎる。


「それだけでは何も分からぬ」


「こっちだ」


 やはり同じだった。


 行き先を言わぬ。


 理由も言わぬ。


 ただ、自分の感覚へ疑いがないだけだ。


 ブレイクが少し前を歩きながら鼻を鳴らした。


「こういう時のこいつは、聞くだけ無駄だ」


「分かっておるが、聞かずにはおれぬのじゃ」


 ルシアが返すと、ブレイクは肩を揺らした。


「まあな」


 グランは二人のやり取りにも構わず、また一度だけ足を止めた。


 通りの真ん中ではない。建物の影がまだ残る場所だ。朝の早い時間帯ゆえ、行き交う人の数はまだ多くない。水桶を抱えた女が足早に通り過ぎ、干し肉を積んだ若者が肩の荷を揺らしながら曲がり角へ消えていく。その流れの中で、グランだけが一瞬だけ立ち、そしてまた前へ出た。


「何を見ておる」


 ルシアが問う。


「別に」


「別に、で済むなら苦労せぬ」


「いるかいないか見てるだけだ」


「それがどこで分かるのじゃ」


「分かるもんは分かる」


 話が進んでおらぬ。


 ルシアは息を吐いた。


 だが、否定もできぬ。


 あの商店の時も同じだった。理屈では何一つ通っておらなんだ。にもかかわらず、こやつは当てた。盗賊どもの潜む匂いを拾い、人目に紛れた巣の入口を見つけた。


 ならば今回も、と期待するしかない。


 期待するしかないという状況が、すでに少し癪だが。


 三人は表通りを進む。


 普通なら、盗賊の巣を探すとなれば路地の奥へ入る。人目の少ない裏道、崩れた壁、安い酒の匂いが染みついたあたりを当たるのが自然だ。


 だが、グランはそちらへ行かぬ。


 むしろ逆だった。


 道が少しずつ広くなる。


 建物の間隔が整う。


 表へ出る店の数も増え、積み荷を運ぶ者たちの服もいくぶん小綺麗になっていく。


 ルシアは周囲を見回した。


 見慣れた中心部の匂いが近づいてくる。


 焼きたてのパン。


 香草を積んだ籠。


 油の匂いをまとった商人。


 まだ完全には賑わっていないが、これから一日の商いが始まる場所の空気だ。


「……おぬし」


 ルシアの声が少し低くなる。


「そちらは」


 言いかけたところで、ブレイクも同じものに気づいたらしい。


「おい」


 低い声が重なる。


「そっちは中心部だぞ」


 グランは振り返らぬ。


「だからなんだ」


「だから、ではない」


 ルシアは眉を寄せた。


「盗賊の巣を探しておるのじゃぞ」


「知ってる」


「では何故そちらへ向かう」


「いるからだ」


 迷いがない。


 あまりにもない。


 街の裏か表か。人通りが多いか少ないか。建物の見栄えが良いか悪いか。そういうものは、こやつにとって本当にどうでもよいのだと、その一言だけで伝わってくる。


 ルシアは唇を引き結んだ。


 腹を括るしかない。


 ここで疑い始めても、歩みは止まらぬ。止めたところで、グランは聞かぬだろう。そして、その強情さには裏打ちがある。何を根拠にしておるのかは説明できぬくせに、こういう時だけは本当に外しにくい。


「ブレイク」


「分かってる」


 先に返ってくる。


「当たりを引いたらすぐ走る」


「頼む」


「おう」


 短い言葉だけで足りた。


 市長は市庁舎に向かった。信頼できる衛兵をすぐ動かせるようにしている。もしグランの勘が本当に当たりを引いたなら、ここから先は一気に動かねばならぬ。


 その時、三人の役目は分かれている。


 グランは先へ入る。


 ルシアはこやつを見張る。


 ブレイクは確定した時点で走る。


 それで足りる。


 やがて、通りの先に大きな建物が見えてきた。


 いや、一つではない。中心部には元々、大きな商会や取引所の建物が並んでいる。広い間口、立派な看板、荷の積み下ろしに使う横手の広場。アルトリアの金が動く場所だ。


 その中の一つへ向かって、グランの足がまっすぐ伸びる。


 商会だった。


 しかも、小さくはない。


 街でも名の通った大商会の一つだ。朝の準備が始まっており、正面では荷の数を改める者が声を張り、脇では帳面を持った若い男が忙しなく走っている。荷車も何台か止まり、表の扉はすでに開いていた。


 ブレイクが思わず足を止める。


「……本当にここがか」


 漏れた声だった。


 ルシアも同じ気持ちだった。


 だが、グランはそこで何の反応も示さぬ。建物の大きさにも、人の数にも、看板の立派さにも、目を留める様子がない。ただ、前にあると認識しただけの顔で、そのまま足を進める。


「待て」


 ルシアが低く呼ぶ。


 グランは止まらぬ。


「まだ確定ではなかろう」


「確定だ」


 即答である。


「どこがじゃ」


「中だ」


 そして本当に、そのまま正面から中へ入っていった。


 ルシアは歯を食いしばり、後を追う。


 ブレイクは一瞬だけ逡巡したが、すぐに追ってきた。


 店内は、客を迎える前の慌ただしさに満ちていた。


 棚の拭き掃除をする者。


 荷札を読み上げる者。


 奥から運ばれてきた木箱を積み直す者。


 皆、自分の仕事に追われている。通りへ面した大きな空間には、布、香料、乾物、金物、酒の瓶まで、扱う品がずらりと並んでいた。乱れてはおらぬ。商会らしい整い方だ。


 その空気の中へ、グランが何事もない顔で踏み込む。


 当然、視線が集まる。


 見慣れぬ筋肉質な獣人。


 その後ろにエルフと大柄な獣人。


 しかも足が迷っていない。


 ただの客ではないと、一目で分かる。


「すみません、今は準備中で」


 若い店員が慌てて近づいてきた。


 グランはその声の方をちらりと見た。見ただけで、足は止めぬ。乱暴に押しのけるのではない。ただ、自然に邪魔にならぬところを通り抜け、そのまま真ん中へ進む。


 ルシアがすぐ後ろから言った。


「構わぬ。おぬしらは仕事を続けよ」


 説明はしない。


 できぬ。


 ここで余計な言葉を重ねれば、知らぬ者まで巻き込む。


 店員たちは戸惑った顔で足を止めたが、グランの背中から漂うものが普通ではないのは分かったのだろう。誰も、力ずくで止めようとはしない。


 そのまま奥へ向かうかと思った矢先、グランが突然足を止めた。


 店の中央より少し奥。


 壁際だった。


 商品棚が並び、特に変わったところもない。石と木で組まれた、ごく普通の内壁にしか見えぬ。


 ルシアは一歩遅れて止まる。


「どうした」


 問いかけるより早く、グランの肩がわずかに落ちた。


 拳を握る。


 迷いがない。


 殴ると分かった瞬間、ルシアは思わず叫んだ。


「待て!」


 待たぬ。


 次の瞬間には拳が走っていた。


 轟音が店内へ響き渡る。


 壁が内側から爆ぜた。


 石の欠片と木片が飛び、粉塵が舞い上がる。棚に並んでいた小瓶がいくつか転がり落ち、奥で誰かが悲鳴を上げた。だが、その音よりも先に、開いた空間が目へ飛び込んでくる。


 通路だった。


 壁の向こうに、隠されていた細い通路がある。


 ルシアは目を見開いた。


 店員たちの動きも完全に止まる。


「な、なんだ……」


「壁の中に……?」


 彼らの声に、本物の混乱があった。芝居ではない。少なくとも、表で働いている者たちはこの通路の存在を知らぬのだろう。


 ルシアはすぐにそれを見抜いた。


 振り返り、まだ呆然としている店員たちへ向かって短く言う。


「騒ぐな。おぬしらはそのまま仕事を続けよ」


 声は低く、だがはっきり響いた。


「ここから先は関係ない」


 それ以上は言わぬ。


 だが十分だった。恐慌が少しだけ引く。誰かが走り出せば場は崩れる。だから先に空気を押さえる必要があった。


 グランはもう通路へ足を踏み入れている。


 止まらぬ。


 振り返らぬ。


 ルシアは小さく舌打ちし、その後を追った。


 ブレイクは入口で一瞬止まり、周囲を確認してから続く。


 通路の中は暗かった。


 表の店へ差していた朝の光が急に遠くなる。湿った石の匂い。閉ざされた空気。奥へ行くほど、人の出入りで擦れた壁の感触が濃くなっていく。


 そして、匂いが変わる。


 表の商いの匂いではない。


 汗。


 油。


 鉄。


 古い血。


 ルシアの鼻にすらはっきり届くようになった。


「……なるほどの」


 小さく呟く。


 こやつが迷いなく入った理由が、ようやく肌で分かる。表は整えられていても、中は隠しきれておらぬ。


 角を一つ曲がったところで、人影が飛び出してきた。


 短剣を握った男。


 迷いのない顔ではない。侵入者へ対処するよう命じられ、勢いだけで飛び込んできた顔だ。


「誰だ!」


 叫びと同時に突っ込んでくる。


 グランが一歩出る。


 拳が振られた。


 それだけで終わった。


 男の体が宙に浮き、壁へ叩きつけられる。鈍い音が響き、崩れ落ちたその男は動かなかった。生きてはいる。だが、もう立てぬ。


 もう一人が背後から飛び出す。


 グランは振り向かぬまま腕を伸ばし、襟首を掴んだ。そのまま床へ叩きつける。呼吸が詰まる音がして、短剣がころころと転がった。


 ルシアはそれを横で見ながら息を整える。


 速い。


 無駄がない。


 いや、無駄がないというより、相手があまりにも相手になっておらぬ。


 グランが短く言った。


「つまらん」


 すでに不機嫌だった。


 ルシアは肩をすくめる。


「当然じゃ。盗賊ごときがおぬしの相手になるわけがなかろう」


「いたらいいと思ったんだがな」


「何を期待しておるのじゃ」


 そう言いながらも、先へ進む。


 通路は一本ではない。


 少し先で枝分かれし、さらに奥へ続いている。隠し通路というより、もはや中に別の建物があるようなものだ。大商会の建物の中へ、こんな空間を抱えておったとは。


 そこへまた人影が現れる。


 今度は三人。


 うち一人は剣を抜き、もう一人は棒を持ち、残り一人は短弓を引き絞っていた。


「止まれ!」


 誰かが叫ぶ。


 だがグランは止まらぬ。


 一直線だ。


 矢が放たれるより早く間合いを詰める。剣を持った男の腕を払う。刃が宙へ飛ぶ。返す拳で腹を打ち抜く。男が折れたところへ、棒持ちが横から振りかぶる。グランはその棒ごと腕を掴み、引いた。男の体が前へ流れたところを膝で迎える。短く呻いて崩れる。最後の一人は弓を捨てて逃げようとしたが、肩を掴まれて壁へ叩きつけられた。


 一息だった。


 戦いと呼ぶには短すぎる。


 通路に転がる男たちの息だけが荒い。


 グランは不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「弱い」


「当たり前じゃ」


 ルシアが返す。


「おぬしは少し、自分を基準にしすぎる」


「じゃあ基準何にすんだ」


「知らぬわ」


 ブレイクがそこで低く言う。


「俺は戻る」


 ルシアは頷いた。


「頼む」


「奥に何かいたら、それが当たりだな」


「ああ」


 ブレイクは来た道を素早く戻っていく。今この瞬間から、衛兵の動きが要る。ルシアとグランだけで片をつけることはできる。だが、捕らえる手、押さえる手、表の顔を守る手は別だ。


 残った二人はさらに奥へ進んだ。


 通路は少しずつ広くなり、空気も変わる。人の数が増えている。気配が濃い。逃げ隠れするだけの者ではなく、奥を守るために立たされた者たちの気配だ。


 だが、それでも強くはない。


 前から二人、横から一人。刃が閃き、怒鳴り声が上がる。グランは正面から踏み込む。拳と蹴りだけで十分だった。最初の男が吹き飛び、次の男が顔面を打たれて回転し、横から飛び込んできた者は片手で掴まれて床へ沈む。


 ルシアは一人だけ、自分の方へ流れてきた男の腕を払った。短刀を握っていたが、その手首は甘い。払われた勢いで体が泳ぎ、そこへ足を引っかける。転がった首筋へ膝を当てれば、それで終わりだ。


「おぬしばかりにやらせておるわけではないぞ」


「じゃあもっと強いのやれ」


「そういう問題ではないわ」


 だが、ルシアも少し物足りなさを感じ始めていた。


 末端ではなく、中を守る者がこれか。数はいる。だが、質が低い。商会という大きな看板を背にしながら、肝心の中身がこれでは、むしろ情けない。


 やがて通路が開けた。


 奥に広い空間がある。


 表の商会からは想像もつかぬ広さだった。荷を積む場所、金を数えるための卓、酒瓶、武器、書き付け。ここだけで一つの拠点になっている。壁際には他より装備の良い男たちが立ち、その中央にひとり、やや上等な衣をまとった男がいた。


 空気が変わる。


 末端ではない。


 少なくとも、この場の中心にいる者だ。


 男が口を開いた。


「よくぞここまで来たな」


 ゆっくりとした、芝居がかった声だった。


 場を握っておるつもりなのだろう。奥へ招き入れた気でいるらしい。


「だが、お前たちが倒したのは四天王最弱の――」


 そこまでだった。


 横に立っていた幹部らしき男が、次の瞬間には吹き飛んでいた。


 グランの拳だった。


 言葉が終わるのを待たぬ。


 もう一人が剣を抜きかけ、蹴りで膝を砕かれて倒れる。三人目が後ろへ下がろうとするが、腕を掴まれ、そのまま頭から卓へ叩きつけられた。木が割れる音が響く。


 首領らしき男の目が見開かれる。


「な――」


 言葉が続かぬ。


 その間にも、残りが潰れていく。


 最後の幹部らしい男は、何か叫びながら突っ込んできた。気迫だけはあった。だが、それだけだった。グランの前へ辿り着く前に腹へ拳を入れられ、息を詰まらせたまま膝をつく。


 ほんの数拍だった。


 広い空間には、もう首領らしき男だけが立っていた。


 他は転がっている。


 呻き声だけが散っていた。


 グランが眉を寄せる。


「弱すぎる」


 本気で不満そうだった。


 ルシアは小さく息を吐いた。


「だから言うたであろう。盗賊なぞがおぬしの相手になるわけがなかろう」


「少しぐらいはやるかと思ったぞ」


「期待しすぎじゃ」


 首領らしき男は、まだ立っている。だが顔色はすでに悪い。自分の周囲で起きたことが理解できぬまま、足だけが辛うじて床を掴んでいるような有様だった。


 ルシアは一歩前へ出た。


「どうした。続けぬのか」


 軽く言う。


 男は口を開く。


 だが声が出ない。


 あまりにも一瞬で周囲が片付いた。何か見せ場めいたことを口にするつもりだったのだろうが、そのための空気も、間も、全部失ってしまっている。


 ルシアは肩をすくめた。


「少しは頑張るのじゃ」


「誰に言ってる」


 グランが横で不機嫌そうに言う。


「そちらじゃ」


「もう不機嫌だぞ」


「知っておる」


 ルシアは首領へ顎をしゃくった。


「おぬしがもう少し骨があれば、この大男の機嫌も多少は持ち直したのだがの」


 首領は何も言えぬ。


 言っている余裕がない。


 その視線が一度だけ、倒れた幹部たちへ落ちる。誰も立たぬ。誰も助けにならぬ。その現実だけは嫌でも分かったのだろう。


 グランが一歩出た。


 それだけで首領の肩が跳ねた。


 拳が振られる。


 それで終わった。


 男の体が吹き飛び、壁へ叩きつけられ、ずるりと崩れ落ちる。生きてはいる。だが戦える顔ではない。目だけが、信じられぬものを見るように揺れている。


 ルシアは天井を仰いだ。


「……終わったのう」


「なんだこいつ」


 グランが吐き捨てるように言う。


「弱すぎる」


 ますます不機嫌になっている。


 床に転がる幹部たちが、その声だけでびくりと震えた。今さら動けぬくせに、なお怯える。もはや完全に心が折れていた。


 ルシアはその様子を見て、少しだけ苦笑する。


「おぬしに見つかった時点で終わりじゃ」


 グランは納得していない顔だった。


「もっとまともなのはいねえのか」


「盗賊に何を求めておる」


「少しは楽しめるやつ」


「知るか」


 その時だった。


 遠くから足音が響く。


 複数。


 急いでくる足音だ。


 通路を駆ける気配と、金具の鳴る音。衛兵の装備だ。


 ルシアはようやく息を抜いた。


「来たか」


 グランはまだ不機嫌なまま振り返る。


「遅い」


 やがてブレイクが先頭で現れ、その後ろから信頼できる衛兵たちが雪崩れ込んできた。数は十分。表の人間へ余計な騒ぎを広げぬよう、選んで連れてきたのだろう。


 目の前の惨状を見て、衛兵のひとりが思わず足を止める。


 広間いっぱいに転がる男たち。


 割れた卓。


 呻き声。


 そして、その真ん中で腕を組み、不機嫌そうに立つグラン。


 空気が一気に張った。


 グランの苛立ちはまだ収まっておらぬ。そのせいで、立っているだけで周囲へ圧が漏れる。衛兵たちですら、思わず息を呑む程度には濃い。


「なんでこんなに弱い!」


 グランが吐き捨てる。


 その声に、首領も幹部も、衛兵までも肩を震わせた。


 ルシアは小さく額を押さえた。


「そこを今ここで叫ぶな」


「だって弱かったぞ」


「知っておる」


 ブレイクが肩で息をしながら苦笑する。


「お前、戦いを楽しみにしてただろ」


「してた」


「だろうな」


 衛兵たちがようやく動き出す。


 首領らしき男を起こし、幹部たちを縛り上げ、床へ転がる盗賊どもを一人ずつ拘束していく。呻き声が上がり、鎖の音が鳴る。首領は半ば意識が飛びかけていたが、グランが見下ろしただけでびくりと体を震わせた。


 もう戦う気はない。


 いや、最初から最後まで、まともに戦いになどなっておらぬ。


 ルシアはその有様を見下ろしながら、心の中でため息をついた。


 見つけるのは早かった。


 片付けるのはもっと早かった。


 だが、ここから先がまだ残っている。


 誰が何をしていたのか。


 どこまで繋がっていたのか。


 首領と幹部をただ連れていくだけでは足りぬ。


 その先をどうするかを考えねばならぬが、それはまた次だ。


 今はまず、この不機嫌な獣をどうにかして落ち着かせる方が先かもしれぬ、とルシアは思った。

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