表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強獣人に転生したのに女王様エルフに調教されるオレの話  作者: ねこ丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/23

第十六話 やっと少しは殴りがいがあるな


 朝のグランディアは、夜の続きをそのまま引きずっているみたいだった。


 窓の外から人の声が絶えず流れてくる。通りを行く足音、荷車の軋み、どこかで鍋をかき回す音、朝から開いている屋台の呼び声。まだ陽は高くないのに、街はとっくに目を覚ましていた。いや、ほとんど眠っていないのかもしれない。大会の熱が、石畳の下にまで残っているような朝だった。


 大きな寝台の上で、グランはゆっくりと目を開けた。


 隣はもう空いている。


 視線を上げると、窓辺に立つルシアの背が見えた。白金の髪を肩の後ろへ流し、朝の薄い光を受けながら、片手に持った杯を口元へ運んでいる。酒ではない。水だ。大会の朝にまで酔うほど雑ではない。


 グランは上半身を起こし、軽く首を鳴らした。


「起きるの早えな」


 ルシアは振り返らず、窓の外を見たまま答える。


「おぬしが遅いだけじゃ」


「まだ朝だろ」


「すでに通りは埋まっておる」


「そりゃ街の連中だろ」


「大会を見に来る者も、賭ける者も、騒ぎたいだけの者もおる。どれでも同じじゃ。人が多い」


 グランは寝台から足を下ろした。床板が軽く鳴る。


 大会二日目。本戦一回戦。前日の勝利で体が重いということもない。むしろ少し軽い。乱戦より、一対一の方が楽しい。まとめて殴るのも悪くはないが、相手が一人なら、どこまで耐えるかをよく見られる。


 ルシアがようやく振り返った。


「顔が笑っておるの」


「そうか?」


「そうじゃ」


「悪くねえからな」


「そういうところが分かりやすすぎる」


 呆れたような声だったが、そこに嫌な響きはない。


 グランは立ち上がり、水場へ向かう。顔を洗い、首筋に残る熱を少し流す。冷たい水が肌を滑ると、体がはっきりと目覚めていく。鏡の代わりの磨いた金属板に映る自分の顔は、いつも通りだった。奴隷紋も見える。見慣れたものだ。今さら隠す気もない。


 身支度を整えて食堂へ降りると、そこには昨日よりも濃い空気があった。


 卓のあちこちに武人らしい連中が座っている。肩の広い男。傷の多い女。歳は食っているが背筋の伸びた老人。戦う者の匂いを纏っているが、今はただ皿を前にしている者たちだ。中には腕に包帯を巻いたまま酒を飲んでいる者もいるし、前日の試合について好き勝手に語っている連中もいる。


「さっきの槍の踏み込み、浅かったな」


「出てたら言えねえくせに」


「今日は見物だ。好きに言わせろ」


 そんな声が飛ぶ。


 別の卓では、斧を背負った男が仲間へ身振りで昨日の勝負を再現していた。あれは観戦に来た武人だ。自分では出ないが、強い戦いが見たくて来る連中。グランはそういうのが割と好きだった。戦う気がないなら嫌いだが、戦えた上で見ている目は嫌いではない。


 グランとルシアが食堂へ入ると、いくつかの視線が流れた。


 全身に奴隷紋を刻んだ獣人。


 その隣にいる長身の美しい女エルフ。


「あれだ」

「昨日の予選で圧勝した獣人」


 ひそひそとした声がいくつか重なる。だが、前日ほど露骨ではない。面白がるだけの目から、少し真面目な目に変わっている。


 グランは椅子へ座るなり、運ばれてきた肉へ手を伸ばした。


 分厚く切られた肉は、香草と塩だけで焼いてある。焼き目はしっかり、脂はほどよく落ちている。噛めば中から熱い肉汁が滲む。朝に食うには十分すぎる。


「美味い」


 短く言う。


 ルシアは向かいで薄いスープを飲みながら、周囲の卓を眺めていた。そういう時の目は、酒を飲んでいる時より少しだけ冷えて見える。だが険しいわけではない。観察しているだけだ。


「今日は昨日とは少し違うの」


「何がだ」


 グランは肉を噛みながら返す。


「見ておる目じゃ」


「またそれか」


「またそれじゃ」


 ルシアはスープの中の豆を匙で軽く掬う。


「前日は色物を見るような目が多かった。今は違う。勝ち上がるかどうかを見ておる」


「勝てばいいんだろ」


「まあ、そうじゃな」


 それで済んでしまうのがグランだった。


 食事を終え、宿を出る。


 朝の空気は少し冷たいが、街の熱がそれを薄くしていた。大通りにはもう人の流れが出来ている。闘技場へ向かう者、賭け屋へ急ぐ者、朝のうちに何か食っておこうという顔の者、ただ騒ぎに混じりたいだけの者。誰もが昨日より少しだけ目を覚ましていた。


 通りの脇では、肉を焼く匂いが早くも漂っている。香草を焦がす匂い、焼き魚の匂い、甘い酒の匂い。グランの鼻が少し動く。


 ルシアはそれを見て先に言った。


「先に会場じゃ」


「まだ何も言ってねえぞ」


「顔が言っておる」


「鼻だろ」


「どちらでもよい」


 会場へ近づくにつれ、人の密度はさらに増していった。


 だが前日と違って、騒ぎ方が少し落ち着いている。ただ大声で浮かれるだけではない。強い者を見るために来ている目が増えた。観客席へ上がる途中ですれ違う連中の顔つきも、どこか張っている。勝者たちを見に来る日。そういう空気だった。


 ルシアは会場の入口近くで立ち止まる。


「行ってこい」


「おう」


「壊しすぎるでないぞ」


 グランは少しだけ口元を上げた。


「分かんねえ」


「分かれ」


 ルシアはそこで肩をすくめ、観客席への階段へ向かう。グランは出場者の入口へ入った。


 本戦の控え室は、前日の石室よりも静かだった。


 人数が少ないせいもある。前日は十人が一つの場へ詰め込まれていた。今日は一対一。だから広い空間の中で、個々の気配がはっきりしている。壁際に腰を下ろす者。目を閉じて呼吸を整える者。武器の柄を黙って握る者。喋る者は少ない。


 今日の相手はもうそこにいた。


 ドワーフの重戦士。


 近くで見ると、さらに重い。鎧は前日見た時よりも分厚く感じた。肩から胸、腹、脚まで隙間が少なく、鉄板が幾重にも重なっている。だが無様には見えない。削るべきところは削り、支えるべきところは支えている。防御だけの鎧ではない。戦うための鎧だ。


 長柄の戦槌は壁へ立てかけられていた。柄の太さだけで、普通の人間ではまともに扱えぬと分かる。鎚頭は黒く、使い込まれて角が鈍っている。それでも、叩かれたら骨ごと潰れそうだった。


 ドワーフは黙ってこちらを見る。


 兜の隙間から覗く目だけが鋭い。


 グランはその前に立って、少しだけ笑った。


「お前、硬そうだな」


 ドワーフの口元が見えたわけではない。だが、声にはわずかな笑いが混じった。


「砕けるなら砕いてみろ」


 グランの口元がさらに上がる。


「やっと少しは殴りがいがあるな」


 それだけで十分だった。


 闘技場へ呼ばれる。


 陽はもう高く、砂地はうっすらと熱を持っていた。昨日の乱戦でいくつもの足跡が刻まれたはずなのに、朝のうちにしっかり均されている。中央へ立てば、四方から視線が刺さる。観客席はほぼ埋まっている。空いた席を探す方が難しいくらいだ。


 グランが出ると、ざわめきが起こる。


 前日のような好奇心だけではない。勝つのかどうか、その目で確かめるためのざわめきだ。


 反対側からドワーフが出てくる。


 そちらにも拍手と歓声が飛ぶ。昨日の勝ち方が印象に残っているのだろう。鎧と戦槌の重さだけで相手を押し潰していった男。そういう本物の重戦士は、見ていて分かりやすい強さがある。


 ルシアは高い席から、その二人を見下ろしていた。


 風が少しだけ高所を抜ける。だが体の中は静かではない。酒を飲んでいなくても、こういう時の自分の鼓動ははっきりしている。面白い試合になる予感がある時のそれだ。


 審判が中央へ出る。


 二人が向き合う。


 グランは拳を軽く握り、ドワーフは戦槌の石突きを砂へ落として低く構えた。


 短い沈黙。


 観客の声すら少しだけ引く。


「始め!」


 合図と同時に、ドワーフは踏み込まなかった。


 いや、踏み込んではいる。


 だが速くない。


 じり、と前へ出る。重い一歩だ。砂が沈み、鎧が低く鳴る。もう一歩。早さはない。だが近づかれるだけで嫌な圧がある。


 グランはそれを待たなかった。


 真正面から行く。


 ドワーフの戦槌が横へ薙がれた。


 風が唸る。


 観客席から短い悲鳴が上がるほどの一撃だ。軽い武器の鋭さとは違う。大きな塊を丸ごと横へ叩きつけるみたいな軌道だった。


 グランはそのまま両腕を上げて受けた。


 衝撃。


 鈍く、骨へ響くような重さ。足元の砂が爆ぜ、片足がわずかに沈む。


「押した!」

「重いぞ!」


 観客がどよめく。


 ルシアの目が少しだけ細くなる。


「……なるほどの」


 ドワーフはそこで止まらない。


 戦槌を戻し、今度は真上から振り下ろす。グランは半歩だけずらし、肩と腕で受ける。そのまま踏み込む。拳が鎧の胸へ入る。


 鈍い音。


 重い。


 だが手応えは薄い。鎧が鳴るだけで、ドワーフの重心は崩れない。


 ドワーフはそのまま前へ出る。戦槌を短く持ち替え、押し込むように振る。振るというより、近づいて潰す。重さの塊がじわじわと間合いを食ってくる。


 グランは笑った。


「いいな」


 もう一発、拳を打ち込む。


 鎧が鳴る。肩へ返る感触は硬い。だが砕けない。ドワーフもまた、戦槌の柄を軸に体ごと押してくる。避けない。逃げない。崩さない。ただ前から押し潰しに来る。


 それが面白かった。


 拳と戦槌が何度もぶつかる。


 グランは正面。ドワーフも正面。


 砂が散る。重い音が何度も続く。観客席の熱が、見る見るうちに高まっていく。


「押せ!」

「そこで潰せ!」

「もっとだ!」


 大声が飛ぶ。


 ルシアは腕を組んだまま、じっと見ていた。


 ドワーフの戦い方は完成している。逃がさない。崩れない。受け切り、重さで押し潰す。技ではなく積み上げた重厚さだ。


 グランの拳がまた入る。


 今度は肘も続けて入る。鎧の継ぎ目を狙ったわけではない。ただ近いところをそのまま打っているだけだ。それでも、同じ箇所へ重さが何度も溜まっていく。


 ドワーフは苦しそうな息を漏らしながらも、止まらない。


 戦槌が今度は真正面から叩き下ろされる。


 グランは両腕を交差させてそれを受けた。


 衝撃で足元が沈む。砂がめくれる。普通の相手なら、その場で膝が折れていた。


 だがグランはそこで笑ったままだ。


 重い。


 だからいい。


 ドワーフはもう一歩出る。戦槌を引き戻す。次を振るうための動きだ。速さはない。だが重さに隙がない。


 グランは低く潜り込んだ。


 距離が縮む。


 拳が上から落ちる。


 ドワーフの胸へ。


 鈍い音が響く。


 足元の砂が割れる。


 ドワーフの膝が落ちた。


 わずかに沈む。鎧の下の足が地面へめり込み、戦槌の柄が揺れる。観客席が大きくどよめいた。


「沈んだ!」

「押し込んだぞ!」


 ルシアはそこで小さく息を吐いた。


「ようやく、まともに硬いのが出てきた」


 だが終わらない。


 ドワーフはなお立とうとする。


 戦槌を杖代わりに地へつき、体を起こす。鎧は軋んでいる。胸のあたりが少しだけ歪んでいる。だが、まだ折れてはいない。


 グランはそれを見てさらに機嫌が良くなった。


「まだ立つか」


 ドワーフは返事をしない。


 ただ、もう一度だけ前へ出ようとした。


 そこでグランがもう一歩踏み込む。


 距離が完全に潰れる。


 拳が正面から叩き込まれる。


 今度は撃ち下ろしではない。埋めるように、押し込むように、真正面から。


 鈍く、重い、嫌な音がした。


 地面が割れる。


 鎧ごと、ドワーフの体がさらに深く沈む。


 砂と土が跳ねる。戦槌が手を離れ、横へ倒れる。鎧の歪みが一気に広がり、そのまま全身の力が抜けたように頭が垂れた。


 動かない。


 一瞬、闘技場が静まる。


 次の瞬間、歓声が爆発した。


「埋めた!」

「鎧ごとか!」

「なんだあの拳!」


 審判が駆け寄り、状態を確かめる。何度か声をかけても返事はない。そこでようやく腕を上げた。


「勝者、グラン!」


 グランは息を吐き、肩を回した。腕には少しだけ痺れが残っている。だが嫌な痛みではない。悪くない相手だったという感触だけが残る。


 闘技場を下りると、ルシアが待っていた。


「よい相手じゃったな」


 グランは短く頷く。


「悪くなかった」


 それだけで十分通じる。


 他の勝者たちの名も、そこかしこで耳へ入ってきた。


 ブレイクも勝った。奇妙な魔法を使う女も落ちていない。あの老人も、弓のエルフも、当然のように残っているらしい。


「今年は濃いぞ」

「本戦がやばい」

「どこもおかしい」


 観客の声には浮つきよりも、本気の期待が混じっていた。


 会場の外へ出ると、少し離れたところでブレイクが手を上げた。


「おう」


 グランも返す。


 ブレイクは鉄棒を肩へ担いだままだった。汗はかいているが息は乱れていない。こちらも大きな傷はないらしい。


「やはり勝ったな」


 ブレイクが言う。


 グランは鼻を鳴らす。


「おう」


「そっちもだろ」


「まあな」


 少しだけ間が空く。


 グランはブレイクの体をざっと見てから言った。


「ちゃんとオレに賭けたか?」


 ブレイクは一瞬だけ目を細め、それから笑う。


「どう思う」


「賭けてねえ顔だな」


「半分だ」


「足りねえな」


「残りはお前に勝った時のためだ」


 グランは肩を鳴らすように笑った。


「無駄になるぞ」


 ブレイクも肩をすくめる。


「それはどうかな」


 周囲にいた者たちが、その会話を聞いてざわついた。奴隷紋の獣人と鉄棒の獣人が、当たり前のように優勝を口にしている。しかも軽口みたいに。


 ルシアはその反応を見て小さく息を吐いた。


「おぬしらは、もう少し隠すということを覚えぬのか」


「なんでだ」


「余計に騒がれる」


「勝てば同じだろ」


「その通りなのが腹立たしいの」


 そこで会話は終わる。


 二人はそのまま街へ出た。


 闘技場を離れても、グランディアの熱はまだ続いている。屋台の煙は昼より濃く、酒場の前にはもう卓を求める客が並び始めていた。屋台から屋台へ移るたびに、肉の匂い、魚の匂い、焦がした味噌のような匂いまで流れてくる。


 グランはその一つで串焼きを買った。


「美味い」


 噛んで言う。


 ルシアは酒を口に運んでから、少しだけ口元を緩めた。


「アルトリアの方が上じゃな」


「まあな」


 それももう自然な会話になっていた。


 グランディアの酒も肉も悪くはない。だが、帰ればアルトリアのいつもの味がある。そう思うと、ここで食うものまで少し違って感じる。


 歩きながら、グランが唐突に聞いた。


「あと何回だ?」


 ルシアはすぐに意味が分かった。だが、足は止めない。


「……三回じゃな」


 少しだけ間を置いて答える。


 グランは串の最後の肉を噛みちぎった。


「少ねえな」


「多いと思え」


「すぐだろ」


「おぬしにとっては何でもすぐじゃの」


 ルシアは酒をひと口流し込む。耳のあたりが少し熱い気がしたが、夜風のせいだと思うことにした。


 宿へ戻る頃には、外の騒ぎも少し丸くなっていた。日が落ちると、街の熱気は上へ抜ける代わりに、酒場の灯りが目立ち始める。泊まり客の多い宿の廊下を歩き、部屋の扉を開けると、ようやく静けさが戻ってくる。


 卓の上には水差し。


 椅子が二つ。


 大きな寝台。


 昨日と同じ部屋だが、今日の空気は少し違う。勝った日の夜の空気だ。


 グランは上着を脱ぎ、寝台の端へ腰を下ろした。腕を軽く回す。まだ少しだけ重い。だが不快ではない。あのドワーフの重さが、まだ骨へ残っている気がした。


「やっぱ硬かったな」


 ルシアは卓の椅子へ座り、杯へ酒を注ぐ。


「潰したではないか」


「潰したけどよ」


 一拍。


「まだ足りねえな」


 ルシアの視線が少しだけ動く。


「贅沢な話じゃ」


「だろ」


 グランは悪びれない。


 しばらく沈黙が落ちる。


 外からはまだ、遠い歓声が聞こえていた。どこかの酒場で、今日の勝敗でも肴にしているのだろう。街が大きいぶん、そのざわめきも長く残る。


 ルシアは杯を持ったまま、ぽつりと呟いた。


「……あと三つじゃ」


 グランはすぐに返す。


「すぐだな」


 ルシアは答えない。


 酒をひと口飲み、視線だけをわずかにグランへ向ける。グランは気づいていない。腕の具合を確かめるように拳を握ったり開いたりしている。


「次も、面白いといいな」


 グランが言う。


 ルシアは少しだけ目を細めた。


「……おぬし次第じゃ」


 その声は小さかったが、はっきり届いた。


 灯りが揺れる。


 しばらくして、ルシアは杯を置いた。


 寝台へ上がる。布がわずかに沈む。隣にいるグランの体温がすぐ近くにあることにも、もう特別な意味を与える必要はないように思えた。必要があるのかもしれないが、今は考えない方が楽だった。


 グランは横になり、片腕を頭の後ろへ回す。


「今日のやつは良かったな」


「うむ」


「次はもっといいといい」


「おぬしがそう思うなら、そうなるのじゃろう」


「だといいな」


 ルシアはそこで少しだけ笑った。


 ほんのわずかに。


 強さを疑っていない顔だった。自分のことも、相手のことも、勝つことも、全部を当然のように思っている。馬鹿なのか、自信家なのか、そのどちらもなのか。だが少なくとも、その顔を見ていると、妙な安心感があるのも事実だった。


 外の騒ぎはまだ遠く続いている。


 だが、その音も少しずつ薄くなっていく。


 あと三つ。


 その数が、ルシアの胸の奥で静かに重みを持っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ