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昭和レトロ自販機来客簿〜悩めるお客様のあたたかい夜食〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・旅人の独り言

 風村アズは全国を旅しながら、おいしいものを発信するフードライターだった。家族や友達からは不安定な仕事だと反対されたものだが、書籍やSNSの収入もあり、何とかなっていた。結婚もせず、いわゆる定職に就いていないアラサー女だったが、代わりに自由は手に入れていた。


 そんなアズは、今日は仕事でとある田舎町へ来ていた。


 田舎といっても、中心部はショッピングモールが進出し、コンサート会場もある。おかげで観光客も多いらしい。ネギや白菜などの野菜が有名な土地で、風土料理などもそこそこおいしかったが、何か物足りない。少し前、昭和レトロな自動販売機の店で食事した。コインレストラン・佳味という店だったが、あの店の素朴な味を思い出し、お腹が減ってきた。


「コインレストラン・佳味みたいな昭和レトロな店、このあたりにないかな?」


 泊まっていたビジネスホテルの部屋で検索しても、上手く出てこない。


「あ、カウンターの人に聞いてみる?」


 そういえば外国人観光客が周辺の店を聞いているのを見た。


「ああ、ありますよ! オートパーラー・オリーブっていうお店で」

「本当ですか?」


 カウンターの女性スタッフに聞いたら、すぐに見つかった。このあたりにも、昭和レトロな自動販売機で食事できる店があったとは、なんとも幸運だ。


 サイフとスマホだけ持ちオートパーラー・オリーブへ向かう。サイフの中は百円玉が数枚ある。これで間違いないはずだ。


 オートパーラー・オリーブは寂れた商店街にあった。商店街のほとんどはシャッターが降りている。おそらくあのショッピングモールの影響かと思われたが、目的の店はちゃんと営業中だった。


 今は夕方のせいか、より店の外観は寂しく見えた。オレンジ色に照らされた店の外観、ボロい小屋っぽい。よくいえば隠れ家っぽいが。


「お、この店はコインレストラン・佳味と違って小さめなだね。自販機の種類も定番だけか……」


 とはいえ、ずらりと並んだ昭和レトロな自動販売機は華があり、昭和らしい賑やかさに満ちていた。


「へえ、ここもノートがある」


 コインレストラン・佳味と似たような顧客用のノートも置いてあったが、こちらは英語や中国語も目立っていた。クレームも書き込まれ、アズの眉間に皺がよる。


「ま、うどんでも食べるかー」


 さっそく、かき揚げうどんを購入して食べた。一分もしないうちに熱々のかき揚げうどんが完成し、この自動販売機の中身は相変わらず謎に満ちていたが。


 味は濃いめ。かき揚げはふわっと汁に染み込む。うどんは少し太めだったが、つるっと食べやすい。見え目はコインレストラン・佳味のものともよく似ていたが、汁の濃さやうどんのコシなど微妙に違う。


 人に手で作られているからだろう。コンビニやファストフードの味は、どこで食べても一緒だ。同じ工場で作られているし、マニュアルもあるだろう。一方、こんな昭和レトロな自動販売機は、そんなものとは無縁らしい。悪くいえば効率や生産性は悪い。それでも、場所によって味が違う昭和レトロな自動販売機が愛おしくなってきた。


「うーん、沁みるね……」


 独り言をつぶやきながら、完食。ノートにも長文で感想を残してしまった。


「へえ……」


 ノートをペラペラめくっていると、うどんやそばの天ぷらは大きいものを選んでいるという。そうすることで自販機内で麺の乾燥を防いでいるという。そんな豆知識も店主のコメントで書かれていた。その上、コインレストラン・佳味のオーナーとも知り合いらしい。他にも、同業者のベンダーショップ・天国という店の主人とも仲良く、今度廃棄予定の自動販売機を譲ることなども書いてあった。


「へえ、そんな店あるの。ベンダーショップ・天国ね……」


 その場所を調べると、今度アズが仕事で行く土地にも近かった。行ってみるか。場所によって味が違うのだ。ベンダーショップ・天国のうどんや蕎麦の味が気になってきた。


「よし、次行く場所も決まったわ。ごちそうさま」


 アズは食べ終わった容器を所定の場所に戻し、オートパーラー・オリーブを後にしていた。

 

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