番外編短編・アルミホイル
猪瀬星楽はオートパーラー・オリーブにいた。昭和レトロな自販機の食堂だ。うどん、そば、トーストサンドなど全部自動販売機で提供される。無人で二十四時間営業中。
高校生の星楽は放課後にひとりで来てみたが、他に客はいないようだ。
店の窓からはオレンジ色の夕陽が差している。店の床もオレンジ色だが、より一層濃く見える。
「よし、今日はトーストサンドを買おう!」
見た目は派手な星楽だが、本当はオタクだ。中学の時にメイクやファッションを頑張り、クラスでも目立つグループに入っていたが、根はオタク。アニメや漫画が大好きだったが、同じくオタク友達の金澤茉莉奈にこの店を教えてもらい、一目惚れしてしまった。
令和に生きる星楽には全てが目新しく、SNSやコンプライアンスとか無縁な雰囲気が、自由でいい。
それに、おいしいものも食べられるのも最高。連日、ここに通い、色々な自販機の食事を楽しんでいたが、今日はトーストサンドにチャレンジだ。
「ほぉ、このトング でもつんだ」
出来上がったトーストサンドは熱々だ。確かにやけどしそうなので、トング でつかみ、テーブルまで持っていく。
全面アルミホイルで包まれたトーストサンド。今日はピザ味にしてみたが、このアルミホイルがいい。手作り感と素朴さがぎゅっと詰まっている。決してコンビニやスーパーには売っていないトーストサンド。もしかしたら、高級なパン屋にも売っていないかもしれない。そう思うと、レア感がより一層高まり、余計に美味しく感じてしまう。
トーストサンドは少し焦げている部分もある。決して綺麗でもないが、逆にそこがいい。
「おー、おいしい!」
つい独り言がこぼれるほどだったが、完食し、ノートに感想を書き込む。
この店には来客日誌というノートが置いてあり、客が自由に感想やコメント、クレームなども書き込めるらしい。
最近は客の誰かが人生相談を書き込みはじめ、店主が解答していた。他の客が解答することもありお悩み相談の場所と化していたが。
「でも、私は特に今は悩みとかないしな。普通に感想書こう」
星楽はノートに今日のピザ味のトーストサンドの感想を書き込む。くるんであるアルミホイルが最高だというコメントも忘れずに、猫やうさぎなどのイラストもチマチマと書き、シールやマステでデコっておいた。星楽は平成女子風の文房具デコも好きだったりした。
そして翌日の放課後。またオートパーラー・オリーブへ向かう。さっそくあのノートをめくると、店主からコメントがついていた。どうやら平成女子風の文房具デコには引いているらしいが、この店のトーストサンドのアルミホイルの豆知識を教えてくれた。
昔は「トーストサンド」と印刷された専用もアルミホイルを使っていたらしい。デザインだけでなく、ちょうどいい厚みのアルミホイルで焼き加減も適正になるらしい。
「え、じゃあ、あの焼きむらがあるのってアルミホイルのせいだったの?」
しかし、専用のアルミホイルは製造終了し、市販のアルミホイルで代用中とのことだった。
「そっか……。そんな秘密があったんだ」
アルミホイル一つとっても歴史や背景があったらしい。しかも今は製造終了……。
ここにある自動販売機も色々な歴史や背景があるかもしれない。例えば、廃棄されそうになった自動販売機を、店主が掘り起こし、復活させたとか……。実際、みそ汁の自動販売機もそんなストーリーがあったはず。
今日はハムチーズのトーストサンドを買ってみたが、そんなことを想像していると、余計に美味しい。不思議なものだ。味自体はコンビニやパン屋に負けているはずだが。
ここでの食事は味以外のものも、食べられるのかもしれない。
「さあ、帰るかー」
ちょうど満腹になり、店を出たところ、野良猫が足元にやってきた。黒猫だが、野良らしく、毛並みは少しぼろっとしていた。
「みー!」
しかし、星楽を見あげ、とても母性本能をくすぐる声を出してきた。
「か、可愛い……!」
星楽は猫も大好きだ。目をハートにしながら野良猫と遊び始めてしまう。
おかげで連日、この店に通っていた。次第に茉莉奈以外の友達とは疎遠になってきてしまったが、まあ、今が楽しければそれでいいと思う。




