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昭和レトロ自販機来客簿〜悩めるお客様のあたたかい夜食〜  作者: 地野千塩


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プロローグ

 その奇妙な食堂は商店街の片隅にあった。商店街といっても、潰れた店がほとんどで、シャッターが目立つ。この場所は廃れつつあったが、なぜかその食堂には客が絶えないという。


 食堂の名前はオートパーラー・オリーブ。二十四時間営業だった。早朝でも深夜でも、灯りがついている。


 なぜなら、この食堂、無人で営業されていたから。提供される料理の全てが自動販売機で買えるのだ。メニューはうどん、そば、ハンバーガー、トーストサンドなど全てが温かい。


 主に一九七〇年代から活躍していた自販機で、昭和レトロな遺物とし、密かなマニアも多い。外国人にも人気で、オートパーラー・オリーブにも観光客が訪れている。


 といっても、ここは田舎町だ。空港には近いが、他には何の観光資源がない。数年前までは外国人もあまりなく、知る人ぞ知る秘密基地だった。


 店主の男は、元々、ゆとり世代の男だ。何の学歴もなく、飲食店を転々としていた時、上司の実家が、昭和レトロな自販機の食堂だと知った。


 最初はそんな二十四時間営業の食堂など、何の興味もなかったが、一度店に訪れたら、そのレトロさ、素朴さ、温かさにすっかりハマってしまい、バイトでもいいから働かせてくれと頼み込み、今に至る。


 元々の店主は高齢で引退予定だったし、男も機械にも強く、自販機のメンテナンスもできた。利害が一致し、男が店を引き継いだ。


 朝は早い。自販機のメンテナンスはもちろん、うどんやラーメンの下準備もある。夜も決して早く終わらない仕事だが、男は満足していた。


 自販機ももう生産されていない。細かな部品は二度と手に入らず、昭和の遺物を守っている自負もあった。時々、骨董屋の主人になった気もするぐらいだったが。店主の中では、この自販機は「国宝」。治安がよい日本でしかこんな自販機は成立しないはずだから。


 今日も早朝に起き、ラーメンやうどんの仕込みに勤む。


 もう風も寒い季節だ。調理場でも足元が冷えてきたが、気分は楽しい。好きな仕事をしているので、鼻歌も出るぐらいだ。


「ふふふーん♪」


 仕込みを終えると一旦休憩し、店の前のベンチに座る。朝日がこの田舎町を照らしていた。眩しいぐらい明るい。


 そこにどこからともなく野良猫二匹がやってきた。二匹とも三毛猫だ。ミャァミャァと店主の足元にすり寄る。


「おぉ、猫か。お前らも、ここのお客様かね?」


 言葉がわからない猫達は、鳴き続けるだけだが、店主は微笑む。


「さあ、今日はどんなお客様が来るかな? お前らはどう思う?」


 猫達は答えないが、店主は満足気に頷いた。

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