第ニ章3 ——『共鳴』——
ダンジョン第十層。
そこは、まるで世界そのものが凍てついたような広大な空洞だった。
天井は見えず、頭上には氷の結晶が無数に輝き、淡い青光が空間を照らす。
「……ここが、“試練の門”か。」
レオンが低く呟く。
魔力の圧が違う。まるで山そのものが意思を持つように、空気が重く震えていた。
カイルが剣を抜き、吐く息を白くする。
「嫌な気配だ……間違いねぇ、ボスがいる。」
その瞬間、氷床が軋み、地鳴りのような音が響いた。
奥の氷柱が割れ、巨大な影が立ち上がる。
——それは、十メートルを超える氷の巨人。
全身を覆う氷の鎧、腕には凍りついた大剣。
瞳の奥には青い炎が燃えている。
「氷の巨人……!」
リリィが叫ぶ。
「来るぞッ!」
カイルが前に出る。巨人が振り下ろす剣を、彼は地を蹴って回避した。
衝撃波が床を砕き、氷片が雨のように降り注ぐ。
「レオン、支援魔法を!」
「任せろ。《強化障壁・オルタ》!」
光の壁が張られ、リリィと後衛を包み込む。
リリィは息を整え、杖を構える。
「——《ブリザード・レイ》!」
冷気の光線が巨人の腕を貫くが、すぐに凍結して修復されてしまう。
「回復してる!?」
カイルが歯噛みした。
「どうやって倒すんだ、これ!」
レオンが冷静に観察する。
「核心に“魔晶核”がある。胸部だ。そこを砕けば——」
「了解!」
カイルが突進し、剣を構える。
だが、巨人の腕が一閃し、カイルは弾き飛ばされた。
「うわっ——!」
「カイル!」
リリィが駆け寄ろうとするが、巨人の影が彼女を覆う。
巨人が再び剣を振り上げた。
冷気の奔流がリリィを包み込もうとする。
「——やめてぇぇっ!」
その瞬間、リリィの胸の水晶が強く輝いた。
轟音と共に、光が弾ける。
氷の剣が砕け、巨人が後退した。
リリィの髪が風に揺れ、瞳が金色に輝く。
ミディアと同じ、“巫女の光”——。
「これは……?」
レオンが呟く。
リリィの体から、ミディアと同質の魔力波が放たれている。
「——“巫女の共鳴”だ。」
リリィは震える手で杖を構えた。
「私……怖い。でも、もう逃げない。」
杖の先に魔方陣が展開される。
それは古代語の連なり——
かつてミディアだけが扱えた、封印系魔法の詠唱。
「《光よ、氷を砕け——リュミエール・クレスト!》」
眩い光柱が天に昇り、巨人の胸を直撃した。
氷が砕け、内部の魔晶核が露出する。
「カイル、今よ!」
「任せろッ!」
カイルが跳躍し、剣を突き立てた。
魔晶核が砕け散り、巨人が咆哮を上げる。
「——封印解除完了。」
レオンが呟いた瞬間、巨人の体は光の粒となって崩れ落ちた。
戦いの後、静寂が戻る。
リリィは力が抜け、膝をついた。
レオンが支え、カイルが微笑む。
「すげぇよ、リリィ……。お前、今の……」
彼女は小さく頷いた。
「たぶん、これが……“巫女の力”。
ミディアの魔力が、少しだけ……私の中で目を覚ました。」
胸の水晶が穏やかに輝く。
まるで、どこかでミディアが見守っているようだった。
「次は……十一層だね。」
リリィが立ち上がる。
「九十層以上先には、“タルタロス”がいる。
でも、絶対に辿り着いてみせる。」
レオンが頷き、カイルが笑う。
「あぁ、ミディアが信じた未来を——俺たちが繋ぐんだ。」
光の門が開き、次の階層へ続く道が現れた。
リリィたちは歩き出す。
その背を、淡い蒼光が照らしていた。
“巫女の光は受け継がれた。
黄昏は終わり、黎明が動き出す。”




