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『黄昏ノ巫女』  作者: 由良神零
第ニ章『眠りの巫女』

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第ニ章1 ——『二人ノ巫女』——

 雪が、静かに降っていた。

 リリィたちは北の大地フェルグリアに足を踏み入れる。

 かつてミディアが訪れたというこの地は、永遠の氷に覆われ、

 人の足跡が絶える“静寂の地”と呼ばれていた。


「……本当に、ここに“封印”があるの?」

 リリィが吐く息が白く染まる。

 レオンは雪を払いながら答えた。


「間違いない。俺が八魔星だった頃、

 この地の奥深くに“禁忌の封印”が存在すると聞いた。

 ヴァルゼスが恐れ、決して触れようとしなかった場所だ。」


 カイルは剣の柄に手を添え、周囲を警戒しながら歩く。

「ミディアは……ここで、何を封じたんだ?」


 レオンは静かに首を振る。

「それを知る者は、彼女ただ一人だった。」


 凍てつく洞窟の奥を進むと、やがて巨大な扉が姿を現した。

 青白い氷に覆われ、中心には見覚えのある紋章が刻まれている。

 ——“黄昏の巫女”の紋章。


 リリィは手を伸ばし、そっと触れた。

 すると氷がひび割れ、淡い光が溢れ出す。


「……反応してる。ミディアの魔力……!」


 扉がゆっくりと開き、光の回廊が広がった。

 その奥に、ひとつの石碑が立っていた。


 リリィは近づき、石碑に刻まれた古代語を読み上げる。


『——ここに、黄昏の巫女は祈る。

闇が再び訪れる時、次の光が目覚めるだろう。

その名は、“第二の巫女”。

彼女が黎明を導く時、真なる封印が完成する。』


「……第二の、巫女……?」

 リリィが呟くと、空気が震えた。


 石碑の周囲に光の粒が集まり、やがて人の形を成す。

 それは——ミディアの幻影だった。


「ミ……ミディア……!」


 リリィが叫ぶ。

 だが、それは記録された魔力。

 生きた本人ではなく、ミディアの“残響”だった。


「……リリィ、カイル。

 これを見ているということは、私はもうこの世にいないのね。」


 柔らかな声。

 けれど、どこか寂しげな笑みを浮かべていた。


「魔王ヴァルゼスは、完全には滅びない。

 たとえ私が命を懸けても、“闇”そのものは消えないの。

 けれど、希望も同じ。

 私が消えても、あなたたちがいる限り、光は消えない。」


 リリィは泣きそうな声で答える。

「ミディア……私たち、ちゃんとやってるよ。

 あなたのこと、絶対に無駄にしてない。」


 幻影は穏やかに頷き、続けた。


「この地には、私の魔力の一部が封じられている。

 それは、“新たな巫女”に継承されるための種。

 彼女が目覚める時、真の封印が完成する。」


「新たな巫女……? それは、誰のことなんだ?」

 カイルの問いに、ミディアの幻影はわずかに微笑んだ。


「まだ“芽”の段階。けれど、もうすぐ会える。

 ——彼女は、リリィ。あなたの祈りに導かれて現れる。」


 その言葉と共に、幻影は淡く消えていった。

 残されたのは、光り輝く水晶の欠片。


 レオンが膝をつき、水晶を手に取る。

「……これが、ミディアの“遺力”か。」


 リリィは静かに頷き、それを抱きしめた。

「ミディアの魔力……まだ、ここに生きてる。」


 だが、その瞬間——

 洞窟の奥から、不穏な気配が走った。


「来るぞ……!」

 カイルが剣を構える。


 氷の壁を破り、黒い影が姿を現した。

 獣のような四足、翼、そして瞳に宿る深淵の炎。


「……魔王の眷属、“黒哭竜コクコクリュウ”!」

 レオンが叫ぶ。

「封印の守護者じゃない……ヴァルゼスが、探りを入れてきたんだ!」


 リリィが杖を構え、詠唱を始める。

 「光よ、彼方の巫女の名において——」


 だが竜の咆哮がそれを掻き消す。

 衝撃波が吹き荒れ、氷壁が砕け散る。

 レオンが魔法陣を展開し、カイルが前へと飛び出した。


「行け、リリィ! 俺たちが時間を稼ぐ!」


「でも——!」


「ミディアが託したんだ! あの光を守れ!」


 リリィは唇を噛み、後退する。

 水晶の欠片が胸で脈動し、淡い光を放つ。


 まるで、ミディアが彼女を導くように——。

 戦いの末、竜は封印の陣に囚われ、絶叫と共に崩れ落ちた。

 だが代償は大きく、洞窟は崩壊を始める。


「逃げろ、天井が——!」

 リリィたちは駆け出す。

 轟音と光の中を抜け、外の雪原へ飛び出した瞬間、

 遺跡は音を立てて崩れ去った。


 白銀の雪が静かに降り積もる。

 リリィは息を整え、水晶を見つめた。


 その中には、淡く光る輪郭が見える。

 少女の姿。

 まるで“眠る巫女”のように。


「……これが、“第二の巫女”……?」


 レオンが小さく頷く。

「彼女を目覚めさせる。それが次の使命だ。」


 リリィは雪の空を見上げ、呟いた。

「ミディア、私たち、絶対に見つける。

 あなたが守ろうとした“未来の光”を——」


 吹雪の向こう、太陽が昇り始める。

 その光は冷たくも、美しく、確かに新たな希望を照らしていた。


“黄昏の巫女”は過去を封じ、

“黎明の巫女”が未来を照らす。

二つの祈りが重なる時——真なる封印が、完成する。

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