第一章6——『暁の旅立ち』——
夜が明けた。
王都の空に朝日が昇る。
それは、ミディアが命を懸けて繋いだ“新しい光”だった。
リリィは窓辺に立ち、静かに手を合わせる。
「ミディア……行くね。私たち、もう止まらないから。」
机の上には、彼女の杖の欠片と、ミディアの遺した手紙が置かれていた。
それは封印が解かれる前、ミディアが密かに書き残したものだった。
『もし私がいなくなったら——
世界を照らすのは、あなたたち。
絶望に飲まれても、祈りを忘れないで。
光は、いつも“誰かの心”に宿るから。』
リリィは手紙を胸に抱き、涙を拭った。
その瞳に、もう迷いはなかった。
王都の中央広場。
リリィとカイルは、簡素な旅装に身を包み、王の前に立っていた。
アルトレイン王は二人を見つめ、深く頷く。
「ミディアの遺志を継ぐ者たちよ。
この国を……いや、この世界を託すのは、もはやお前たちしかおらぬ。」
カイルが片膝をつき、頭を垂れる。
「陛下、我ら命を賭して魔王ヴァルゼスを討ちます。」
リリィも静かに言葉を続けた。
「この戦いは、絶望を終わらせるための旅です。
どうか……見届けてください。」
王は二人の前に歩み寄り、古びた銀の紋章を手渡す。
「これは“黄昏の紋章”。かつてミディアが使った聖印だ。
彼女が遺した奇跡を、どうか胸に宿してゆけ。」
二人は深く頭を下げ、その印を受け取った。
旅立ちの朝。
王都の門には多くの人々が見送りに集まっていた。
リリィとカイルの姿に、誰もが祈りを捧げる。
——かつてミディアに向けたのと同じように。
「リリィ様、どうかご無事で!」
「カイル様、俺たちの分まで戦ってくれ!」
リリィは微笑み、群衆に手を振った。
その胸に、確かな誓いが宿っていた。
「行こう、カイル。まずは仲間を集める。
ミディアの願いを、今度は“みんなで”叶えるんだ。」
「……あぁ。絶対に、もう誰も失わない。」
二人は背を向け、王都を後にした。
その背中を、朝日が照らしていた。
——彼らの最初の目的地は、北の地。
そこには、ミディアが生前“もう一つの封印”を残したという古の遺跡がある。
リリィは馬上で風に髪をなびかせながら、空を見上げた。
「ミディア、見てて。今度は、私たちが世界を救うから。」
カイルは剣を腰に手を添え、静かに呟く。
「……お前が残した傷を、必ず終わらせてみせる。
ヴァルゼス、お前の終焉は、俺たちが刻む。」
遠く、地平線の彼方に黒い影が見えた。
それは、再び蠢く魔王の残滓。
だが二人の瞳は、恐れではなく、炎を宿していた。
数日後。
フェルグリアの雪原にて、二人は一人の青年と出会う。
銀の髪に紅の瞳——冷たい風の中に立つその姿は、どこか懐かしさを感じさせた。
「……あなた、誰?」とリリィが問う。
青年は微笑む。
「俺の名はレオン・アルヴィス。
——“八魔星”の元構成員だった者だ。」
カイルが即座に剣を抜く。
「八魔星だと!? ふざけるな!」
だが、青年はその刃を見つめ、静かに言った。
「安心しろ。俺はもうヴァルゼスの手を離れた。
……ミディアに、一度だけ救われたことがあるんだ。」
その言葉に、リリィの表情が凍る。
「ミディアに……救われた?」
レオンは頷く。
「彼女は俺を“敵”と知りながらも、命を奪わなかった。
だから今度は、俺があの人の遺志を守る番だ。」
その瞳には、確かな決意があった。
こうして——
“黄昏の巫女”の遺志を継ぐ新たな仲間が、一人、加わった。
それは、やがて歴史に刻まれる新たな勇者団。
“暁の灯”の始まりだった。
そして彼らの旅は、ここから本当の意味で動き出す。
——闇を越え、光へ。
黄昏の巫女が残した祈りを胸に。




