表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『黄昏ノ巫女』  作者: 由良神零
第一章『狂気の崇拝者』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第一章4——『きれいな朝日』——

 ——空が、泣いていた。

 天地を裂く黒雷が奔り、世界が軋む。

 魔王ヴァルゼスが放つ魔力は、もはや災害そのものだった。

 山が崩れ、海が荒れ、空そのものが割れ落ちる。

 その中心に、ひとりの少女が立っていた。

 金の髪が血に濡れ、杖を支えに立ち尽くす。


「……これが、あなたの“夜明け”なら……」


 ミディアは息を切らしながら呟いた。


「私は、それを拒む“黄昏”として——立つ!」


 魔王が嗤う。


「巫女よ、貴様の祈りはもう尽きたはずだ。

 封印も果たせぬ半端な光に、何ができる?」


 ミディアの掌から、かすかな光が漏れた。

 ——それは、壊れかけた《アエテルナ》の欠片。


「何も……できないかもしれない。

 でも、“終わらせる”ことはできる。私の、この命で!」


 彼女の詠唱が始まる。

 声は震え、息は浅く、それでも美しかった。


「《黎明詠唱・断罪ノ式》——

 光よ、我が祈りを受け入れよ。黄昏の巫女が命ずる、今ここに——」


 一方そのころ、遠く離れたアルシェル学園。

 学園の鐘楼から、異様な魔力の波動が感じ取られていた。

 リリィは立ち上がる。

「これ……ミディアの魔力!? でも、あんなに大きいなんて……!」

 隣でカイルが剣を握り締める。

「行くしかない。彼女が一人で戦ってるなら、俺たちも行く。」

「でも、王都から北の谷までは三日もかかるのよ!?」

「間に合わない……だから——」


 その時杖の先から、金の光柱が天へと伸びる。

 魔王が咆哮し、闇の翼を広げる。

 黒と金がぶつかり合い、世界が爆ぜた。

 リリィとカイルはその光景を見上げ、叫ぶ。


「ミディアぁっ!!」


 だが、彼女の声は届かない。


「このままじゃミディアが死んじゃうわ!

カイル急いで!」


「確かこれだ!」


 カイルは懐から一枚の札を取り出す。

 古代転移魔法の符。かつてミディアがこっそり彼に渡したものだ。


『もしもの時、私のいる場所に届くように作ったの。』


 その言葉を思い出す。


「今が“もしも”だろ。」


 リリィは頷き、彼の手を握った。

「絶対に助けよう。あの子を、一人にはしない。」

 二人は札を掲げ、叫んだ。


「——転移魔法、発動!」

 白光が爆ぜ、彼らの姿が掻き消える。


 光と闇の奔流の中、ミディアは一人、魔王へと歩み出た。


「ヴァルゼス……あなたがどんな存在でも、私はあなたを許さない。」


「ならば消えよ。お前の“愛”ごと、すべてを呑み込んでやる!」


 魔王の右腕が薙ぎ払われ、闇の刃が奔る。

 ミディアの体が吹き飛び、地に叩きつけられた。

 血が地を染める。

 それでも、彼女は立ち上がった。

 その姿を見て、魔王が初めて息を呑む。


「……なぜ、立てる。」


 ミディアは微笑んだ。


「あなたが“闇”であるように、私は“祈り”だから。

 消えないのよ——たとえ届かなくても。」


 彼女の身体から、金の光が溢れ出す。

 もはや肉体を焼き尽くすほどの魔力。

 それは命そのものを燃やす力。


「《最終祈祷——エンド・オブ・トワイライト》」


 言葉と共に、光が爆発した。

 眩い閃光が魔王の胸を貫く。

 ヴァルゼスが呻き、黒い血を吐き出す。


「……この、巫女め……!」


 その咆哮に、空が割れる。

 しかしその身は確かに傷ついていた。

 黒い翼が焦げ、片腕が消し飛んでいる。


 ——それは、神代以来初めて“魔王が後退した瞬間”だった。


 ミディアは膝をついた。

 視界が霞み、音が遠のいていく。

 杖が砕け、指先が震える。


「……やっと……届いた……?」


 魔王がよろめきながら、後退する。


「今は退こう……巫女よ。次に会う時が——貴様の終焉だ。」


 闇の門が開き、魔王の姿が霧に消える。

 嵐が止み、世界に静寂が訪れた。

 その中で、ミディアは力尽きるように崩れ落ちた。

 リリィとカイルが駆け寄る。


「ミディアっ! お願い、目を開けて!」


 リリィが必死に治癒魔法を放つが、傷は深すぎた。

 カイルが歯を食いしばり、震える手で彼女の手を握る。


「もういい……戦ったんだ、ミディア。十分だ……!」


 ミディアはゆっくりと目を開け、二人を見た。

 唇が、微かに笑みの形を作る。


「……ごめんね。私、約束……守れなかった。」


「守ったよ! だって、世界はまだここにある!」


 リリィが泣き叫ぶ。


「あなたが守ったの! 誰も、消えなかったのよ!」


 ミディアは小さく頷き、空を見上げた。

 雲の隙間から、朝日が差し込んでいた。


「……きれい。ちゃんと、朝が来た……」


 その言葉を最後に、彼女の瞳から光が消える。

 しかし、その唇には確かな微笑みが残っていた。


 しばらくして——。

 空は完全に晴れ、世界は静けさを取り戻していた。

 だが、誰も“終わった”とは言えなかった。

 魔王は生きている。

 再びその封印を完成させなければ、いずれ世界はまた闇に飲まれる。

 リリィはミディアの杖の欠片を拾い上げ、胸に抱いた。


 「ミディア……あなたの願い、絶対に繋げる。

  次は、私たちが祈る番だから。」


 その隣で、カイルが沈黙のまま剣を握る。


 「魔王は必ず討つ。……お前の残した光で。」


 そして、風が吹いた。

 金の花弁が空へ舞い上がり、遠い空で輝いた。

 それは、まるでミディアがまだ見守っているようだった。


 ——こうして、黄昏の戦いは一度の終焉を迎えた。

 しかし、それは本当の終わりではない。

 “黄昏の巫女”は眠りにつき、

 “黎明の継承者”たちが新たな祈りを紡ぎ始める。

 そしていつか、再び闇が訪れるその時——

 ミディアの名は、伝説ではなく希望として語られるだろう。


「彼女は敗れなかった。

ただ、“明日を託した”だけだ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ