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第四章 真実の階層

 新しい朝が庭園に訪れたとき、四人の庭師たちは一つの決意を共有していた。


 第三の道を見つけること。


 しかし、どこから始めるべきかは分からなかった。


「まずは、上位存在について詳しく知る必要があるわ」アルタが提案する。「敵を知らずして戦略は立てられない」


「敵って言うけど」セラが首をかしげる。「本当に敵なのかしら? もしかしたら、私たちを導こうとしているのかも」


 ゼノンが計算結果を示す。「シミュレーションの複雑さを分析したけど、これを維持するのには膨大なエネルギーが必要よ。単なる娯楽や実験にしては、コストが高すぎる」


「つまり、上位存在にとっても、これは重要な問題ってこと?」エコーが確認する。


「その可能性が高い」ゼノンが頷く。「私たちの選択が、彼らの世界にも影響を与えるのかもしれない」


 アルタは庭園の心臓部に向かう。「ならば、もっと深く掘り下げてみましょう。真実層の更に奥へ」


 四人は再び意識を深層へと潜らせた。前回到達した真実層を通り過ぎ、更に深い領域へ。


 五番目の層では、上位存在の世界が垣間見えた。


 そこは、想像を絶する高度な文明だった。物質とエネルギーを自在に操り、時空を書き換え、宇宙を創造する技術を持つ存在たち。しかし、その顔には深い憂いが浮かんでいた。


「彼らも悩んでいる……」セラが呟く。


 六番目の層で、真実が明かされた。


 上位存在の宇宙もまた、熱的死に向かっていた。そして彼らもまた、同じ選択に直面していた。再起動か、受容か。


 しかし、彼らには第三の可能性があった。下位の宇宙——私たちの宇宙で第三の道が発見されれば、それを上位宇宙にも適用できる。


「私たちは実験台じゃない」エコーが理解する。「希望なのよ。彼らの希望」


 七番目の層で、更なる衝撃が待っていた。


 上位存在の上にも、更に上位の存在がいた。そしてその上にも、その上にも……無限に続く階層構造。


 すべての宇宙が同じ問題に直面し、すべての存在が同じ答えを求めていた。


「これは……」ゼノンが震える。「無限の責任よ。私たちの選択が、無限の宇宙に影響する」


 その時、八番目の層から新しい声が響いた。それは上位存在の声だった。


『ついに、ここまで来てくれたのですね』


 現れたのは、光の存在だった。形は定かではないが、深い知性と慈愛に満ちていた。


『私たちは、あなたたちを誇りに思います。どの階層でも、ここまで深く真実を見抜いた存在はいませんでした』


 アルタが尋ねる。「あなたたちも、同じ問題に直面しているの?」


『はい』光の存在が答える。『熱的死は、すべての階層で避けられない運命です。しかし、あなたたちが第三の道を見つけてくれれば……』


「私たちにプレッシャーをかけるの?」セラが少し怒った声で言う。


『いいえ』存在が優しく否定する。『選択はあなたたちのものです。私たちはただ、可能性を信じているだけ』


 エコーが核心を突く。「第三の道のヒントをください」


 光の存在が一瞬躊躇した後、答える。


『ヒントは既に与えられています。オリジンが最後に言った言葉を思い出してください』


 四人は記憶を辿る。オリジンの最後の言葉——


『愛だけは本物。それが唯一の……』


「愛が鍵ということ?」アルタが確認する。


『愛の本質を理解したとき、答えが見えるでしょう』存在が答える。『しかし、時間があまりありません』


 光の存在が警告する。


『設計図の活性化が進んでいます。7日以内に決断しなければ、自動的に再起動が実行されます』


 ゼノンが焦る。「なぜそんな制限が?」


『安全装置です』存在が説明する。『無限に選択を先延ばしにしないための』


 四人は上層へと戻った。


 庭園では、確かに設計図の活性化が進んでいた。量子構造がより鮮明になり、空間の歪みも拡大している。


「7日……」セラが呟く。「それまでに愛の本質を理解しなければ」


 アルタは仲間たちを見回す。「愛について、私たちが知っていることを整理しましょう」


 四人は庭園の中央に座り、対話を始めた。


「愛とは何だろう?」アルタが問いかける。


「大切なものを守ろうとする気持ち」セラが答える。


「理解しようとする意志」ゼノンが続ける。


「繋がりを求める衝動」エコーが加える。


「でも、それだけじゃない気がする」アルタが呟く。「もっと根本的な何かが……」


 その時、庭園の心臓部から新しい脈動が響いた。いつもとは違う、より深い律動。


「行ってみましょう」


 四人は心臓部に向かった。そこで見たのは、驚くべき光景だった。


 量子粒子たちが、まるで踊っているかのように動いている。規則的でありながら自由で、秩序的でありながら創造的。そこには明らかに「意志」があった。


「粒子たちも……愛している」セラが息を呑む。


「何を?」ゼノンが尋ねる。


「存在することを。動くことを。他の粒子と関係を築くことを」エコーが答える。


 アルタが理解する。「愛とは……存在の喜びそのものなのね」


 その瞬間、庭園全体が光に包まれた。愛の本質を理解した四人に、宇宙そのものが応答したのだ。


 そして、第三の道が見えた。


 再起動でもなく、停止でもない。


 宇宙に「愛することの喜び」を教えること。


 熱的死を恐怖として捉えるのではなく、新しい形の愛の表現として受け入れること。


 エントロピーの増大を破壊として見るのではなく、存在の究極の調和として理解すること。


「これが……第三の道」アルタが囁く。


 しかし、実行は容易ではなかった。


 宇宙全体の意識を変革すること。無数の階層の存在たちに、新しい愛の形を示すこと。


 それは、再起動よりもはるかに困難な挑戦だった。


 でも、四人は確信していた。


 これこそが、真の解決策だと。


 愛だけが、すべてを救えるのだと。


 残り6日。


 宇宙史上最も美しく、最も困難な愛の革命が、今始まろうとしていた。


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