夢の中の貴方
今日も布団に入ると天井を見つめる時間。
……眠れない。羊を数えても、ホットミルクを飲んでみても目がさえてしまう。
そんな夜、私は決まって妄想をしている。
こんなとき、そばに誰かがいてくれたらいいのに…。
優しくて、穏やかで、でも少し意地悪な人がいい。
私の今日の出来事を笑いながら聞いてくれて、退屈な夜を特別なものに変えてくれる人。
そんな妄想をしながら目を閉じると、不意に風が吹いた。
潮の香り、波の音、思い描く夢の中で目を開けると、知らない世界にいた。
そこは雲一つない空、星が輝いていて、目の前には海があり、水面には白い月が映る。
静かで綺麗な、理想の場所。
ここは私の思い描く夢の中のはず。
でも、目の前に立つ彼の姿は、あまりにも鮮やかにイメージされてリアルだった。
「やっと来た?」
出会って早々、問いかけられた。
銀色の髪に、夜よりも深い青の瞳。
肩上までの程よく長い髪が風に揺れている。
私の想像で作られた理想の彼がいた。
「貴方は……?」
私も問いで返してみる。
「君が望んだ人」
彼は優しい声色で微笑んで、私の手を取る。
指先が触れると、心地よい温もりが広がった。
私より大きな彼の手に、しっかりと握られる。
夢なのに、触れられた感覚のリアルさに驚く。
「眠れない夜は退屈だろ?」
「うん、そうなの」
「じゃあ、少しだけ話そう」
彼は私を海辺の岩に案内し、隣に腰を下ろした。
横に私も腰掛ける。
さざ波の音が心地よい沈黙を作っている。
「ねえ、いつからここにいたの?」
「いつからだろ?ずっと、君が来るのを待ってた」
「私の夢の中で?」
「ふふ、まあね」
くすりと笑う声が優しく響き、夢の中の、彼の声が心に残る。
「こうやって君と話してみたかったんだ」
「私と?」
「そうだよ、でも残念、今日はここまでみたいだ」
夢の中の視界がぼんやりとしてきて、まぶたが重くなってきた。
彼は名残惜しそうにこちらを見ているようだった。
「また会える?」
「もちろん、君が望めば会えるはずさ」
夢の中で、さらに夢へ落ちるような不思議な感覚になる。
…また会えるといいな。
それは声にはならず、視界が途切れる。
彼ともっと話したかったという思いや、別れる寂しさを心の奥で感じとりながら、私はふわりと意識を手放した。
眠れぬ夜のお供、第二弾です。
今回はより寝る時の状況に近付けるよう、妄想という形にしてみました。
また会えますように…