トライアングルレッスン・転生 悠衣子は「黒い」猫に転生しました。
ちゃんと書いてみた。出だしは前のコピペだけど、自分のだから大丈夫ですよね?
ペットショップの前を通りかかると、ショーケースの中、ふてぶてしく箱座りする黒猫と目が合った。
からかうようにその鼻先をガラス越しにくすぐると、
「お前が、エサだ」
どこからかそんな声が聴こえた気がして、そこでわたしの意識は途絶えた。
緑と土の匂いに目を覚ますと、そこは森の中だった。
ついさっきまで街中に居たはずなのに、意味がわからない。なんだか身体に力が入らなくて、四つん這いで明るい方へ進むと、目の前に小さな泉が広がる。
そして水面を覗き込むと、そこにはペットショップで見た黒猫が居た。
「……にゃあ?」
違う。それは黒猫じゃなくて、
「にゃにゃにゃっ!?」
わたしっ!?
サラサラの黒い毛並みにキンキラ金色の瞳。肉球はプニプニで細い尻尾がピーンと伸びる。
「にゃー! にゃおーっ!」
鳴いて喚いて転がり回って、それでわかるのは、結局わたしは猫になってしまった、という事だけだった。
「にゃあ~……」
もう訳がわからずうなだれていると、
がさがさっ、と近くの茂みが揺れる。その奥で光る、赤く濁った鋭い瞳。
ぶわっ、と尻尾が逆立って、本能的な恐怖を感じた。
逃げようとして、猫の身体の勝手がわからず、つんのめる。
そして茂みの奥から巨大な蛇が飛び出して、わたしを丸飲みにしようとその大きな口を広げて、
「はあぁっ!」
銀色の光が閃いたかと思うと、剣の一撃が蛇の頭を切り落とした。残った胴体がのたうち回って、
「凍て付き貫け、アイシクル・ランスっ!」
無数に飛来した氷のつぶてが突き刺さり、蛇の胴体はやっと動きを止めた。
それは二人組みの少年だった。一人はファンタジーに出てくる剣士のような、もう一人は魔法使いのような格好。
だけど、なにより、
「にゃー! にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃあーっ!」
「なんだこの猫、こいつも魔物か? わかるかヒロシ?」
「魔力は感じない、普通の猫だろう。そんな事よりタクミ、一人で突っ走るなと言っているだろう」
ヒロシだ、タクミだ! 例え格好が違っても、その顔や声を間違えるはずがない。ヒロシとタクミだ!
「にゃあー!」
「おうおう、なんだー? 腹でも減ってるのかー?」
「怪我は無いようだが……ふむ、女の子か」
きゃあーっ!?
「どうする? こんな所に置いていくのもなんだし、街まで連れて行くか?」
「そうだな。もうここに用は無い。さっさと戻ろう」
タクミに抱えられ、ヒロシに頭を撫でられる。それだけで安心感に包まれるけど、それより、まずはわたしの事を伝えなくちゃ!
「それにしても、悠衣子のヤツはどこに行ったんだか」
いや、わたしはここだよ!?
「悠衣子が消え、僕達が勇者として召喚された。そこにはやはり、魔王が関係しているだろう」
え? 魔王ってなに!?
「へっ、なら、やってやろうぜ。悠衣子も、この世界も、まとめて俺達が救ってやるっ!」
「ああ。魔王だろうがなんだろうが、一体誰に手を出したのか、思い知らせてやらなくてはな」
いや、だから、わたしはここに居るってばー!
「にゃあぁーーーーんっ!」
酒場兼宿屋で、タクミは揚げ過ぎたフィッシュ&チップスのような物をかじって、なんだか微妙な顔をした。
「なんかこのフライしょっぱい。芋もなんか、土の味! って感じだし……」
「魚は保存のために塩漬けにされているんだろう。野菜は品種改良とかされていないだろうしな」
素知らぬ顔のヒロシに、タクミはがっかりしたように肩をすくめる。
「そう言や、こいつのご飯はどうする?」
「猫缶……なんてある訳無いし、やっぱりネズミか?」
いや、食べないよ?
「……よし、がんばれ」
いや、がんばらないよ!
「にゃあーっ!」
うなるわたしに、タクミは笑いながら頭を撫でてくる。大きな掌がくしゃくしゃと毛並みをかき回し、長い指が額や頬を撫で付ける。
……悪くない。
「にゃふぅ~……」
と、ヒロシは木のコップに入った水をあおり、
「ご馳走さま。少し外の空気を吸ってくる」
「お? おお」
席を立つヒロシの横顔は、どこか沈んでいるように見えた。
だからーー
宿の裏手。空の酒樽に腰掛け、うつ向くヒロシ。肩を落とし、吐く息も重い。
「にゃ~お」
「ん……」
その足下に近寄ると、ヒロシはわたしを抱き上げ、膝に乗せる。背中を撫でる手が優しいのは元より、寂しさのようなものを、感じた。
「にゃあ」
まるで今にも泣き出しそうな顔のヒロシが心配で、わたしは膝の上に立ち、胸を駆け上がり、その頬に頭を擦り付ける。
「~~~~っ」
声にならない声で、ヒロシはわたしを抱きしめながら、
「悠衣子……っ!」
「にゃっ!?」
え!? ヒロシ、わたしに気付いて……!?
「じゃ、そいつの名前はユイコだな」
声の方を見やると、そこにはにやり、と笑うタクミ。
「いやぁ~、ヒロシさんたら、そんなに悠衣子と離れ離れになるのが寂しかったんですねぇ~?」
あ、そういう事?
「ち、違う、僕はっ!」
「はいはい、わ~かってるって」
ヒロシの腕からわたしを拐って、
「これからよろしくな、ユイコ。せいぜい寂しん坊の相手をしてやってくれ」
「だから違うと言ってるだろうがっ!」
「はははははっ!」
わたしを抱えて逃げながら笑うタクミと、無理矢理とは言え、元気の戻ったヒロシ。
二人の間でわたしは、早く元の姿に戻りたいと、切に思った。
「たあぁぁぁぁっ!」
巨大な熊とつばぜり合い、一歩も退かないタクミ。
「自在に切り裂け、ウィンド・カッターっ!」
ヒロシの杖から放たれた風の刃が、熊の太い腕を切り飛ばして、
「トドメぇっ!」
開いた懐へ袈裟斬りに剣を振り下ろすと、巨大な熊はズッ、とその身をずらし、身体を二つに別けて倒れ伏した。
この世界で、人間は創造神から〈スキル〉と呼ばれる力を与えられているらしい。
それは武器の特性を引き出して達人のような技を使えたり、魔力を操り火や水、風や土といった魔法を使えたり。
勇者として召喚されたタクミとヒロシも例外では無く。むしろ訓練した人間の数倍の力を既に持っているという。
そんな二人の勇者としての役目は、この世界を支える〈創造神の柱〉を目覚めさせる事。
世界を脅かす魔王の侵攻。それを阻むために十二の柱を目覚めさせ、人の力を強化し、魔族の力を押さえ込んで、魔王を倒す。
そしてその柱の一本が、森の奥にそびえていた。
苔むしてはいるが、美しく彫刻された白い柱。大きさは2、3メートルくらいで、太さも電信柱くらい。
「なんかショボイな」
柱の周りをぐるり、と回り、胡散臭そうに眉をしかめるタクミ。
「創造神の使い、神鼠の御使いの柱だな」
なにかの本と柱の細工を見比べながら言うヒロシ。
「で、どうやって目覚めさせるんだ? 呪文とかあるのか?」
「まぁ待て。確かこっちのページに……」
そしてわたしは、二人の足下をすり抜け、柱に近付く。
それは、わたしの意思じゃなかった。頭も身体も思うように動かず、勝手に前脚がぺたん、と柱に触れてーー
気が付くと、そこは真っ白な空間だった。
そこに、ぽぅ、と赤い光りが灯る。それは無数に周囲を埋め尽くし、まるで純白の宇宙の中に居るみたい。
そして、
「いと高き神鼠の御使いよ、どうか我が意を聞き届けよ」
口から勝手に流れる鳴き声。だけどそこに、言葉のような意味を見付けた。
『遠路遥々、ご苦労な事だな、異界のモノよ』
対する声は、この空間全てから聴こえてくるような威圧感。
それに、猫のわたしの身体を勝手に使っている何かは、臆する事も無く小さな身体で立ち向かう。
『して、我らになにを望む?』
「力を。この世界を平らかにするべく、その力を貸し与えてもらいたい」
『その見返りは?』
猫の尻尾がぴくん、と跳ねる。
『よもやなんの見返りも無く助力せよとは言うまいな、異界の』
「望みは?」
周囲の赤い光りが瞬いた。そして気付く。それは星の光りなどでは無く、目だ。
『ならば贄を。日に百の子を、月に千の乙女を。それが我らの腹を満たす内は、相応の力を貸してやろうっ!』
無数に輝くその瞳は、全て鼠の燃える目だった。
「よかろう。では望むままにーー」
「いや、ダメでしょっ!」
急に響いたわたしの声に、猫と鼠は呆気に取られたように沈黙。そして、
「退がりおれ、人の子よ。ここは貴様の出る幕では無い」
そんな猫の物言いにカチン、と来る。
「いや、そもそもわたし、なんの意味も分からないままなんですけど!? なんで猫? なんで異世界? 一体なにがどうなってるのっ!?」
「黙れっ!」
鋭い咆哮に、襟首を引っ張られるように意識が引き剥がされる感覚。声が遠くに離れ、視界もぼやける。
「神鼠の御使いよ。贄は望むまま用意しよう。それにてーー」
「だからダメだってばーっ!」
自分で自分に猫パンチして、そのまま空中三回転。
「き、貴様っ!?」
『くっくっくっ、依り代もまともに扱えんとは、その程度か、異界の?』
「くっ!」
一際大きな赤い瞳が近付いて、ニタァ、といやらしく笑う。
……なんだかそれにもムカついてきた。
「貴方、神様の使いなんでしょ? それが生け贄よこせとか、なに考えてるのよっ!?」
『我らは世界を守護するものであって、人を守護するものでは無い。世のためと言うならば、むしろ争いを起こす人をこそ平らげよう』
「そ、そんな事……っ!」
『くくく、よかろう。ならば貴様に選ばせてやる。世を平らかにするため、贄を差し出し我らの小腹を満たすか。全ての人で我らの腹を満たし、世を平らかにするか。さぁ、どちらか選ぶがよいっ!』
爛々と光る赤い目に、わたしはぐっ、と肉球を握りしめながら、
「だ、だったら、わたしがご飯を作ってあげるっ!」
『……は?』
「ハンバーグ、カレー、オムライス、コロッケ、トンカツ、エビフライ、ラーメン、うどん、お蕎麦、スパゲティー!」
『……じゅるり』
「おい鼠!」
「唐揚げ、たこ焼き、かぼちゃの煮付け、焼き肉! 人間なんか食べるより、きっと人間が作った物の方が美味しいよ! 貴方が満足するまでなんでもご馳走するから、貴方に力があるのなら、タクミとヒロシの力になってあげてっ!」
赤い瞳が煌めいて、
『よかろう。これより我らが力、存分に振るうがいい。そして事が成った暁には、貴様の手ずから、我らの腹を満たしてもらうぞっ!』
「う、うんっ!」
そして、無数の白いネズミ達が四方に霧散して、純白の宇宙のようなその空間は、消えて無くなった。
「おぉー、すげぇー!」
タクミのそんな声に意識を取り戻すと、神鼠の柱が変形していた。
螺旋を描くように展開し、花びらのように広がる柱。その中心から光が走り、遥か上空で花火のように拡散。光の雨が大地に降り注いで、世界に力が満ちていく。
その光の雨は、ネズミのような形に見えた。
「……なぜ急に動き出したんだ?」
本を片手に首を傾げるヒロシ。
「ま、いいじゃん。なんとかなったんだし」
「条件が分からなければ再現が出来ない。次もうまく行くとは限らないんだぞ?」
眉をしかめるヒロシをよそに、光りの雨に手をかざすタクミ。
「にゃにゃっ!」
喜ぶわたしの口からは、猫の鳴き声しかしなかった。
さっきは普通に話せてたような気がするけど……あのネズミの不思議空間でしかダメなのかな……?
そして、ひょい、とタクミがわたしを抱き上げる。
「さ、この勢いでどんどん行こうぜ!」
「次は、神牛の御使いの柱だな」
「牛かぁ……ハンバーグが食べたくなるな」
「ハンバーグ……まぁ、無いだろうな」
「だよなぁ。悠衣子見付けたら、作ってもらうか」
「……そうだな、楽しみだ」
歩き出す二人の足は軽い。
だけどわたしに触れる手は、不安そうにすがる子供のよう。
「にゃあ」
わたしはちゃんと、ここにいるからね。
ぽん、と二人の手に肉球を重ね、わたしはそう想いを込めて鳴いた。
という訳で、テーマは「寂しさ」。
タクミとヒロシは悠衣子に会えなくて軽い躁鬱状態、タクミが躁でヒロシが鬱。
悠衣子は意志疎通が出来ない寂しさ。
黒猫は自分を認めてもらえない寂しさ。
話の流れとしては、御使いの柱に力貸して、とお願いに行ったら、
「昔はお祭りとかしてくれたのに、最近は全然ご無沙汰でさぁ」
みたいなお悩み相談をされ、
「ならば腹いせに近くの村人を呪ってやろう」
と黒い事を言う黒猫。
「いや、違うでしょ!? 近くの村人にまたお祭りしてもらうんでしょ!」
と悠衣子がフォローしていく感じ。
取り合えず、ちゃんと自分の作品として書けばよかったかな。でも、人の設定だから気楽に書けたのかな。