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プロローグ
日本の春風は憂鬱の香りがする。
俺がメキシコへ旅立つ前よりも、深くて重い、鼠色の香りがこの国には漂っていた。
2ヶ月前、俺はこの世界で全てを失い、思いがけず「制御不能」な力を手に入れた。誰にも言えない特別な使命を帯びて。
まだ肌寒い朝の屋上から見える景色は、俺の心を映すかのように暗く静かだった。夜明けにはまだ早い俺の行く末を嘲笑うかのように、どこかでカラスが寂しげに鳴いている。
これから始まるんだ。制御不能な青春が、今日、この場所で。
「Tranquillo,Japoneses.(焦るなよ、日本人。)」