81話:コカトリスVSオルテンシア
「【索敵10】」
ニンフェアさんと要救助者3名はあそこですか。この距離ならコカトリスも気づかないでしょう。ちゃんと風上を計算していますね。さすがです。
高火力で一気に倒してもいいのですが・・・見られていますね。王都の方角から、監視系のスキルでしょうか?
あまり手の内を晒したくありませんし、素手で倒してしまいましょう。
クエエエエエエッ!!
コカトリスが立ち上がり咆哮を上げます。わたしの蹴りで砕けないとは、堅い嘴ですね。
「中々骨がありそうですし、相手をして差し上げます」
コカトリスの目が光り石化の視線を送ってきます。まずはこの攻撃ですが、生物を石化する魔眼ですね。
ナノマシン解析・・・コカトリスの目から「活動停止命令」を帯びたナノマシンが飛び出し、触れた生物細胞内のナノマシンの活動を止めてしまうようですね。これが石化の正体ですか。
残念ですがわたしには効きません。同時に「活動再開命令」を出せば済みますので。
コカトリスも魔眼の効果がないと悟ったのか、予想通り毒息に切り替えました。
そしてこの攻撃もわたしには無意味です。
毒素解析・・・疎水性のあるびらん剤の一種・・・マスタードガスに類似しています。
かなり強力な毒ガスですね。このガスに触れると生物細胞が化学反応を起こし人体を破壊するようです。人間ではひとたまりもないでしょうが、わたしなら身体の表面に保護ナノマシンを走らせれば済む事です。
「終わりですか?」
わたしは毒息で紫になった空気の中を、散歩でもするかのように歩いてコカトリスの目の前まで行きます。
クエエエエエッ!?
驚いているコカトリスが嘴で攻撃をしてきました。わたしはそれを手刀で撃ち落とし、
スパンッ!
地面スレスレの回し蹴りでコカトリスの足を刈り、回転の勢いのままサマーソルトキックで空に蹴り上げます。
ドカッ!
地面に着地するとすかさずコカトリスを追いかけてジャンプし、首に両手を掛けて膝蹴りを叩き込みました。
グエエエエエッ!!
さらに落下の加速を利用し両膝を首に乗せ地面に叩きつけます。
ドオオオオオオオンッ!!!!!
コカトリスの身体がクッションになり、わたしの身体が浮き上がりました。空中で身体を丸めて回転し地面に無事着地します。
砂煙で汚れがついてしまいましたね。砂を払い落としスカートのプリーツを直します。
「討伐完了です」
すごすぎるよ・・・言葉が出ない。
オルテンシア様の纏っている雰囲気から、ボクより遥かに強いとは思っていたけど勝負にもならない・・・
オルテンシア様とコカトリスの戦いは、戦いになっていなかった。大人と子供、いや、大人とアリとの戦いと言うべきか、圧倒的だった。
グラディオロやミィルトどころか、いつも能天気なデーア姉さんも声が出ないようで、眼を丸くしてオルテンシア様を凝視している。
魔法はおろか、腰に差している剣も抜かず、素手でコカトリスを倒してしまった。
「なんだよアレは・・・」
呟いたのはグラディオロなのかミィルトだったか・・・
「アレは本当に人間か?・・・」
ゴクッ
誰かが息を飲む音が聞こえた。
初めて会った時はベットに寝たきりで、【鑑定】を持っている稀有なだけの人だと思っていた。
「迷宮」でそれなりに力をつけた今だからこそわかる。
強くなった自らが物差しになったからこそ、力の差が理解できた。
オルテンシア様はこの世に降臨した神、神の使徒だ!
人間が敵う人じゃない・・・
そのオルテンシア様は、オルテンシア様のミストレスは・・・ソフィー様。
『ソフィー様・・・あなたはわたしのマスター権限をお持ちです。マスターになってくださいますか?』
『今からソフィー様はわたしのミストレスです。改めてご命令を』
オルテンシア様のマスター権限とは何なのです!?
オルテンシア様を修理したのはソフィー様ですが、それとマスター権限とは別物に感じる。
なぜソフィー様がミストレスになるのか・・・
ソフィー様・・・貴方は一体何者なのですか?・・・
「クリザンテーモ、領兵の再配置はどうなっていますか?」
「はっ、各門の警備主任を一旦招集し、フィオーレ様と面会させた後配置に戻します。これで各門との【伝達】が可能となりますので、最小限の人員で済みます」
それなら門4つで3交代12小隊で済みそうですね。あとは町の巡回を3交代で12小隊、館の警備に3交代9小隊、予備隊が6小隊ですかね。
わたしは今ナターレ館のお父様の執務室にいます。部屋の隅に臨時の机を設置し、差し迫った案件の処理に追われています。
「分かりました。そのようにお願いします。予備隊のうち3小隊は後ほど修練場に召集お願いしますね」
「かしこまりました」
クリザンテーモの案件はこれで良しです。次はお父様の方ですが。
「お父様、各村の収穫状況はどうなっていますか?」
お父様の机は山のような書類に埋もれていて、わたしの場所からは姿を見ることもできません。
「ちょっと待ってくれ!収穫状況の報告書はどこだったか・・・」
「旦那様こちらです」
慌てるお父様を尻目にわたしは自らの作業を進めていると、アドリアがお父様の補佐をしてくれました。アドリアは副メイド長であり、メイド長兼わたしの専任メイドであるジニアの母です。
「アドリア、その書類をちょうだい」
「あ、はい。ジプソフィーラ様」
わたしは右手で書類にサインをしながら左手をひらひらさせてアドリアに声をかけます。
アドリアから書類を受け取りざっと目を通し、別の書類を引っ張ってきて新たに書き込みます。
「南の迷宮周辺は洪水の被害が大きく街道修理が急務です。収穫後すぐに運搬できるように街道整備を優先させてください」
かき込んだ書類をアドリアに渡し簡単に説明をしておきます。
「・・・かしこまりました」
再びお父様に向けて次の指示をだします。
「お父様、西のオヴェスト村方面はゴブリンの襲撃で収穫が遅れているそうです。冒険者ギルドにゴブリン討伐依頼を発注しておいてください」
「あ、ああわかったよソフィー・・・」
その時扉を叩く音が聞こえました。
コンコン
「どうぞ~」
部屋の主はお父様ですが、今は緊急事態ですので構っていられません。
「ソフィー様お呼びですか?」
入ってきたのはメイド服姿のルカ君です。ショートヘアでもかわいいと思うのですが、髪を切った女性は犯罪を犯し罰を受けた人と思われるので、つけ毛でロングヘアに見せています。スカートの端をつまみ軽く腰を落として挨拶してくださいました。まだ恥ずかしいらしく少しもじもじしている所が愛らしいですね。
一応カミングアウトされ女性と分かってしまったので軍籍ははく奪されてしまいます。特例でそのまま軍人でいさせてあげることもできなくはないですが、特別扱いはされたくないとのことでしたので、ジニアに書類をまわしました。
自由の身になったルカ君ですが、ナターレには優秀な人を遊ばせておく余裕はないので、同じ条件でわたしがそのままメイドとして再雇用しました。
「急に呼び出してごめんなさい。メイド修行で忙しいのに」
「あ、いえ。お料理は合格を頂けましたのであとは立ち居振る舞いの訓練ですね」
ルカ君のご飯はおいしいですからね。ジニアから見ても合格とはさすがです!
ルカ君と話しながら書類をまとめてファイルに閉じます。本当はルカさん、と呼ぶべきなのでしょうけどルカ君で慣れてしまいましたし、本人もそれでいいと言うのでそのままルカ君です。
「ルカ君コレを」
今まとめ終わった書類をルカ君に手渡して説明を始めます。
「ルカ君にはしばらくナターレ領の物資管理をお願いしたいのですが、いかがでしょうか?」
書類をめくりながらざっと流し読みをして「できると思いますけど」とおっしゃってくださいましたので、物資管理官の任命書を作成します。
「お父様サインをお願いします」
たった今作った任命書をお父様にまわし次のお仕事です。
「ナターレ子爵の座をソフィーに譲りたくなったよ」
お父様の呟きが聞こえましたが王様の許可がなければ不可能な話です。王国が出来て数百年経過していますが、今までに任命された女性領主は存在していません。夫が他界し跡継ぎの息子が成人するまでの、代理女性領主なら数人いたらしいですが、あくまで代理なので期間限定です。
それもかなりレアなケースで、親兄弟で男性がいればかなり遠縁であってもそちらが優先され領主を継承します。
お父様が存命のうちは問題ありませんが、わたしが結婚もせず、跡継ぎがいない状態でお父様にもしものことがあれば、ナターレ領はどうなってしまうのでしょう・・・




