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80話:オルテンシアいきます!

 侯爵軍の妨害に成功し”魔の森”に向けて飛行を続ける。森まで半分の距離の丘を越えてしばらく経つからあと30分くらいか。

 かなりの高度で飛んでいるので後ろには遠くエリカの町が、前方には森が見えてきた。

 この高度では街道も薄い線にしか見えないが、その先の森との境に特に変わった物は見えない。

 大型の魔物なのに見えない・・・すでに移動したのか?


「【索敵(チェルカ・ネミーチ)10】」


 オルテンシア様が知らないすきるを使った。この距離で使うと言うことは索敵系か何かかな?


「捕らえました、コカトリスです。このまま真っすぐ、森の中に入っていますね」

「わかりました」


 ボクの飛行速度で30分先の場所まで索敵できるなんて、とんでもない索敵すきるだね・・・





 どれくらい時間が過ぎたのだろうか。

 俺たちは今滝の後ろの岸壁に張り付いている。左にミル、右にデーア姉さん・・・目の前に水のすだれが並び、時々水が途切れ視界が開ける。

 綺麗な水の流れにアザミの黄色い花が咲き乱れ、青い空に白い雲・・・そしてなぜか太陽は見えず日陰となっている。水を途切れさせているのは巨大な足・・・つまり、真上にコカトリスが居る・・・


 グルルルルルル・・・


 滝の上から飛び込んだ俺たちを探しているようで、上目遣いで見てみると遥か頭上にコカトリスの嘴の裏が見える。生きた心地がしない・・・

 ミルが脇を突いて合図を送ってきた。影同士でしゃべらなくても意思を伝えることが出来るハンドサインだ。指と手の平を使って複雑な動きを見せる。


 ササッササササ


『ナンデコンナトコロニカクレタンダ、ミツカッチマウダロ!?』


 サササササッ


『こかとりすハニオイデオレタチヲオイカケテキタンダ、ミズデニオイヲケサナイト』


 ツンツン


 ん?デーア姉さんも突いてきた。ハンドサインで何を?


 サササッサ


『ミズデ~ヒエチャッテ~クシャミガデソウデス~』


 !!!!!!!


 やめてくれえええええっ!!

 デーア姉さんがしゃっくりのように身体を上下に揺らし、小さな声で「ひっ・・・ひっ・・・」・・・オワッタ・・・


「ひくちっ・・・「ワオーンッ!」」


 グルッ?


 コカトリスが左を見た。オオカミの遠吠えが聞こえる・・・


「ひくちっ・・・「キチキチキチッ!」」


 グルルル?


 コカトリスが右を見た。バッタの鳴き声が聞こえる・・・


「ひくちっ・・・「クルッポー!」」


 グルルルル?


 コカトリスが周りを見回している。俺の頭の上にハトが止まった・・・ヤバい、気づかれる・・・


「クルッポークルッポークルッポー!」


 クエエエエエエエッ!!


 コカトリスが近くで聞こえるハトの声に反応し視線を巡らせる。コカトリスの視線には石化の呪いが込められている。見られただけで石化してしまうのだ。

 冷や汗が滝のように流れるが、頭の上の悪魔はこちらの気も知らず楽しそうにさえずってやがる・・・今すぐくびり殺したいが、身動きが出来ない・・・下を見られたら終わりだ・・・


 ブシューッ!!


 しまった!?・・・コカトリスにはもう一つ強力な武器があった・・・生き物全て、草木まで枯らす毒息だ!


 斜め上から紫色の空気がゆっくりと降りてくる。毒息は滝つぼに吸い込まれ水が紫に染まり、広がった先で魚が腹を見せて浮かび上がっては流れていく。

 左右の森にも広がり木々が枯れ、虫の鳴き声が止んでいく。

 俺たちがいる滝の裏は上から落ちてくる水流によって川風が生まれ、毒息を目の前で散らせてくれる。


 俺の頭の上で毛繕いをしていた悪魔は、羽を広げ一声鳴いて飛び立っていった。今はダメだ!「クルッポー・・・」


 バササッ・・・ボチャン


 一瞬で絶命した悪魔は川に墜落し、流れにまかせ遠く運ばれて行った。俺の頭の上に卵だけを残して。


「くそっ・・・」


 毒息が辺り一帯を死の世界に変えた。俺の【熱感知】には俺たちとコカトリス以外何も映らな・・・?


 毒息の届かない上空に人型の熱源!誰かいるっ!?





「オルテンシア様、コカトリスですが・・・毒息を撒いてますね・・・」


 ニンフェアさんの飛翔魔法で上空から視認しました。あれがコカトリスですか。名前だけは聞いていましたが実物を見るのは初めてですね。データ照合・・・雄鶏とコモドドラゴン、オオコウモリのキメラと推定。

 主な攻撃は石化の魔眼と毒息ですか。有効範囲が不明ですがこれ以上近づけばニンフェアさんが石化されそうですね。


「ニンフェアさん、わたしをコカトリスの所に落としてください」

「え!?落とすって・・・」


 言葉が足りませんでしたか?


「この程度の高度ではわたしは破損しません。ニンフェアさんがこれ以上近づくと危険なので、わたしを落としてコカトリスの背後にまわってください」


 ニンフェアさんが一瞬考え込んだようですが了承してくださいました。


「分かりました。真上に移動しますか?」


 了解しようとしましたが、コカトリスの足元に3人の生存者を確認しました。引き寄せないといけませんね。


「ここで構いません。コカトリスの足元に生存者3名を確認。コカトリスは引き付けますので3名の救助をお願いします」

「デーア姉さんたちが生きてる!?」


 ニンフェアさんが目を凝らしますがこの距離では見えないでしょう。


「オルテンシア様いきますよ!」

「お願いします」


 ニンフェアさんの手が離れわたしは重力に身を任せます。

 わたしの身体は人間と違い重心がお腹の真ん中にあるので足から真っすぐ落ちます。メイド服のスカートがまくれ上がりますが、それを見せてからかう相手はもういません。手と足で空気抵抗を作り、着地しやすい場所を目指し空中を移動します。ここですね。

 全身をバネにして衝撃を吸収しながら着地します。柔らかい地面に小さなクレーターが出来ました。


 ミストレスはわたしの身体の時を戻して修復してくださいました。右腕を失った時ではなく、マスターの治療前の完全な状態にまで。


 残存エネルギー98.8%


 稼働可能時間7057h


 ボディ損傷率3%


 自己修復機能・・・ナノマシンによる自己修復開始!


 全機能に異常なし。ミストレスの命令を実行します!





 空を凝視する俺に釣られて、ミルとデーア姉さんもその光景を見ていた。


 空から人が降ってきた!?


 ドォオオオオオオンッ!!!!!


 まさか、あの高さまで毒息が届いて墜落したのか?・・・誰かは知らないがあれでは助からないだろう・・・

 コカトリスも轟音のした森の奥を見ていたが、興味を失ったのか再び毒息を吐こうと息を吸い込んだ。


 ザザザザザザッ・・・


 その時森の中から草をかき分ける音がして何かが飛び出して来た。

 飛び出して来た白と黒のエプロンドレスを身に着けた・・・メイドさん!?がコカトリス目掛けて跳躍し、その嘴を蹴り上げた!


「これ以上汚染しないでいただけますか?」


 コカトリスの顔が上を向きバランスを崩すと、落下中のメイドさんが回し蹴りを放ちコカトリスを吹き飛ばす。


 ドオオオン!


 地響きがしてコカトリスが倒れ、堰き止められていた水が滝の上から一気に流れ落ちる。


「うわあああっ!」

「なんだっ!?」

「つめたいです~」


 コカトリスを蹴り飛ばすなんて何者だあのメイドさんは!?滝の水が少し落ち着いてきた時、滝を突き破って人の手が現れた。


「なんだこれ!?」


 手だとは分かっているが、突然水の中から手だけが現れたので気が動転する。


「早く捕まって!崖が崩れる!!」


 聞き覚えのあるその声に俺たち3人はその手にしがみついた。


「【飛翔(ヴォラーレ)1】!!」


 滝の外に引っ張り出されて宙に浮く。足元が地面から離れるなんて初めての経験で不安が押し寄せる。


「うおおおおっ!落ちる!落ちるぅっ!!」


 俺よりミルが騒いだせいで少し落ち着いた。ニンフェアの手は俺が握り、ミルはニンフェアの腕を掴み、デーア姉さんは俺の首にぶら下がっていた・・・


「暴れないで!コカトリスから離れるよ!!」


 ニンフェアが俺たちをぶら下げたまま風上に移動する。

 下を見るとコカトリスが横倒しになり、俺たちのいた滝がコカトリスが倒れた衝撃で崩れ落ちるところだった。


「んぎぎぎ!さすがに重たい!!みんなその木に飛び移って!!」


 コカトリスからある程度離れると、頭一つ飛び出した巨木の枝に飛び移った。


「ニンフェア~たすかりました~ありがとうございます~」

「デーア姉さんも無事でよかったよ!」


 枝に降りてきたニンフェアにデーア姉さんが抱きついた。ひとしきり無事を喜ぶとニンフェアは太い枝にそのまま座り込む。


「ありがとうニンフェア。死ぬかと思ったよ」


 俺もニンフェアの隣に座り右手を差し出し礼を言う。


「グラディオロも無事で何よりだよ。ミィルトも」


 ニンフェアも右手を差し出し握手をし、左手はグーにしてミルと打ち合わせた。


「この礼はいつかするぜ!」

「期待しないで待ってるよ」


 軽口をたたき合いやっと一息ついたのでニンフェアに尋ねる。


「ところでニンフェア、あのメイドさんは誰なんだ?コカトリスを蹴り飛ばすなんて普通じゃないよ」


 ニンフェアはニヤリと笑みを浮かべ、


「グラディオロたちは諜報に出てて知らないかな?あの方はオルテンシア様。A級冒険者にしてボクの知る限り最強な方だよ」

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