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幕間12話:オルテンシアの感情

二日連続の幕間話です。評価してくださった方ありがとうございます。

 迷宮踏破は順調に進んでいる。

 10階のボス部屋では不甲斐ない所を見せたが、弓士としてその後は役に立てていると思う。


「敵だ!ファイアーサラマンダー5!」


 マスターが先頭に立ち撃ちだされる火球を水流の剣で迎撃する。


「【光線エネルジーア・ラッジョ3】」

「精霊さん力を貸して!土砂魔法1【岩弾(ぐらにーとみっしれ)】!」


 マスターの左右からオルテンシア様とステッラが端のサラマンダーを吹き飛ばす。残り3匹、ここだ!


「【乱れ撃ち1】!」


 マスターの真後ろから斜め上に向けて1本の矢を放つ。天井スレスレまで上がった矢は9本に分裂し、サラマンダー3匹に殺到する。2匹は4本づつの矢を浴びて光の粒に変わり、1本だけ命中し負傷したサラマンダーはマスターが「衝撃波」で仕留めた。


「近くに敵影ありません」


 オルテンシア様の索敵は完璧なので安心して使った矢の回収をする。ステッラも背嚢から水筒を取り出し、マスターも火球を斬った剣の点検をしている。


「今日で4日目か、15階も問題なさそうだな」


 マスターは点検の終わった剣を一振りして鞘に納めると、皆を見回して呟く。

 昔の仲間の前衛二人も決して弱くはなかったが、マスターとオルテンシア様の二人には及ぶべくもない。

 パーティーが壊滅した地下9階も無傷で乗り越えた。その後10階では不覚を取ったが11階から15階まで順調に進んで来た。


「マスターそろそろ日没の時間ですがどういたしますか?」


 オルテンシア様は体内時計も完璧で的確に時を教えてくれる。


「おーもうそんな時間か、適当な部屋はあるかな?」

「この先20mほどに小部屋があります。敵はスライム型2匹」


 もうオルテンシア様のなさることに驚かないが、「迷宮」探索においてオルテンシア様がいるかいないかは大違いだ。

 マッピングもそうだが室内にいる魔物の種類や数までも見通すことが出来る。昨日は13階で扉の目の前に魔物がいると見抜き、扉を蹴飛ばして魔物を吹っ飛ばしたこともある。通常のパーティなら開けた瞬間に襲われたかもしれない。


「スライムか・・・剣が痛むから俺はパスしたいとこだな」


 俺の矢も刺さった瞬間腐食するので回収できないやっかいな魔物だ。


「2匹ならわたしとオルテンシア様で片づけますよ」

「わたし一人で十分ですが」


 ない胸・・・今や少しある胸を張ってステッラが得意そうに言うが、オルテンシア様に一刀両断にされる。


「わたしにも手伝わせてくださいよぉ!」


 先に進むオルテンシア様に縋りつくステッラ。なんだかんだで懐いているみたいだ。ペンダントをもらってからは・・・


 小部屋をステッラも手伝って一掃し夕食の準備を始める。

「迷宮」探索には必要な荷物も多いことから食料、水も節約しなければならない。俺やステッラは今まで一日二食で探索を行っていたが、マスターが「3食は当たり前だろ?」と言ってオルテンシア様も3食用意する。

 そしてそのオルテンシア様だが、水も食料も一切摂らない。人間じゃない・・・のは分かったが、食べなくていい理由を尋ねるのは恐ろしかった。するとステッラが、


「オルテンシア様何も食べなくて平気なのですか?」

「わたしのエネルギー源は超小型ブラックホールなので食物の摂取は不要です」

「ちょ・・・こがたぶらっく?」


 ステッラが頭の上に{?}マークを散らしながら小首を傾げる。意味が分からなかったがマスターが助け舟を出してくれた。


「オルテンシアはま~そーだな、古代文明のエネルギーの恩恵を受けていてな、体内で食べ物を作ることができるんだよ。だから飲み食いしなくても平気だ」


 それは「迷宮」探索ではこれ以上ない能力だ。しかもオルテンシア様が持っている鞄が異常だ。料理の準備をするのに鞄から鍋や薬缶にミニストーブが出てきて、さらにまな板に包丁、食材や調味料まで出てくる。肩掛け鞄に入る量じゃない。確か3人で20日分の食糧と言っていたが、一体どこに入っているのか・・・


「へ~便利な恩恵があるんですね~それじゃあ、魔石か魔力供与が必要ですか?魔石ならおいしそうなのがありますよ~じゃーん!迷宮ウサギの魔石で~す!」

「不要です」


 またしても一刀両断された。ステッラは魔石を取り落とし「しくしく」言葉でいいながら落ち込んでいる。

 オルテンシア様、少しは手加減してあげてください・・・


「おい、オルテンシア・・・」


 マスターがオルテンシア様に軽く注意をすると、小さくため息を吐きステッラに声をかける。


「すみませんステッラ、お気持ちはありがたく。お詫びに夕食はステッラの食べたいものにしますよ?」

「本当ですかっ!じゃあとろとろ野菜のミルク煮がいいです!」


 ステッラはパッと明るい表情になりオルテンシア様に詰め寄る。まあしくしく言ってたからウソ泣きなのは分かっているが変わり身が早い。


「近いです」


 ビシッ


「いったぁ!!」


 オルテンシア様のデコピンを受けてステッラが涙目で転がりまわる。調子に乗り過ぎだ。


 その後は食事を終え暫く焚火を囲んで談笑してから眠りについた。もちろん交代で見張りは・・・していない。オルテンシア様は睡眠も不要で寝ずの番をしてくれるからだ。

 おかげで8時間しっかり眠れて疲れも残さず「迷宮」探索を続けられる。これに慣れてしまったら普通の冒険者には戻れそうにないな。


 あまりに至れり尽くせりの冒険で疲れがなかったため夜中に目が覚めた。朝まではまだ数時間はあるはずだ。

 最近はステッラが俺の側で寝るのでステッラを起こさないようにそっと毛布から出る。

 焚火の前で座っているオルテンシア様の所に近づくと、そっとお茶の入ったコップを差し出してくれる。


「朝までまだ3時間46分あります。眠れないのですか?」


 そう声を掛けられてマスターの方をチラッと見る。


「マスターは一度眠ると朝まで起きませんよ」

「そうなのですか」


 コップを受け取ると焚火を挟んでオルテンシア様の反対に座る。軽く頭を下げてオルテンシア様を見つめる。メイド服に身を包み、歳は24、5歳くらいだろうか?マスターとの関係がいまいちよくわからないが、ぞんざいに扱いつつもマスターの身を第一に考えて行動している。


「改めてお礼を。ステッラと再び、こんな楽しそうに「迷宮」探索ができる日が来るとは思っていませんでした」

「礼は不要ですよ。こちらこそ()()マスターの友達になってくれて感謝しています。ありがとうございます」


 オルテンシア様は「あの」の部分を強調されて頭をさげる。今まで何をやらかしたんだマスターさん・・・


 詮索は止めよう。礼は言えた。明日からも探索は続くのだ。しっかり寝て疲れをとろう。


「ご馳走様、朝までもう少し寝ることにします」

「はい、おやすみなさい」


 寝床に戻るとステッラが目を覚ましていて頬を膨らませている。別にオルテンシア様を口説いてたわけじゃねえよ・・・

 毛布に入ろうとするとステッラが俺の毛布を奪った。何してんだステッラは。するとステッラが自らの毛布を持ち上げ隙間を作る。


「あのなぁ・・・」


 マスターはともかくオルテンシア様がこっちを見てるんだぞ。小声で注意しようとすると、ステッラは毛布を持ち上げたまま床をポンポンと叩く。


「・・・」


 仕方なく毛布に潜り込むとステッラに背中を向け目を閉じる。


「むぅ~」


 少しむくれて背中をポカポカ叩いて来るが、そのままピトっと背中にへばりついてステッラも眠った。

 マスターが目覚める前に起きないとな。





 ステッラとトゥリパーノが一緒の毛布で眠りにつきました。

 以前のわたしだったら「暖を取っているのですね」と思うところですが、今はステッラの気持ちが少し分かる気がします。

 わたしの鑑定結果にある「恋慕」というものがその正体でしょうか。


 トゥリパーノが起きる直前に再び沸いたスライムを倒しました。次に沸くのは朝食後くらいですね。3時間くらいは横になっていても問題はないでしょう。3時間以上持つように焚火に薪を加えマスターの側に歩み寄ります。普段はギャーギャーうるさいマスターですが寝顔はまだ15歳の少年のもの。


「かわいいですね」


 思わず言葉が漏れました。

 この世界に転移してから3か月。日に日にナノマシンの浸食を受けています。悪意のあるナノマシンはミストレスが設定したものなのでしょうね・・・わたしをどうしたいのでしょう。悪意はありますが攻撃されているわけではなく、性格設定などに干渉してきます。わたしのメンタル部分はかなり改変されてしまったようで、「かわいい」などという感情まで芽生えてきています。このままではいずれ「人間」になってしまうのでしょうか。


 マスターの側に横になると10cm先にあるマスターの顔を見つめます。体温上昇を感知、体内のナノマシンが不安定な状態になります。しかし決して不快なものではなく心地いいと感じます。


 マスターを守りたい。マスターの望みを叶えたい。マスターに近づく・・・女性を排除したい・・・


 ステッラを排除・・・トゥリパーノと一緒に寝ているステッラの顔は幸せそうです。排除の必要・・・不・・・経過観察。今のところは問題なさそうです。


 朝まであと3時間30分。


 魔物は沸きませんし、ステッラとトゥリパーノは共に体温、血圧低下を確認。呼吸脈拍は穏かでノンレム睡眠状態と推定。


 しばらく横になっていても問題ありませんね。


 目を閉じる必要もないのでこのまま3時間、マスターの寝顔を眺めることにします。

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