63話:軍事組織と聖水
「へ~じゃあ、エリカの町に駐留している250人の連隊の参謀長さんだったのかい?」
「ニンフェアも知りませんでしたの!?」
まあ使えそうだとは思ったけど、参謀長だったのならそれなりの情報は持ってるかな?
「詳しいことはね。軍も貴族も辞めてソフィー様のために働きたいって言うから連れてきたんだ」
「フィオーレ様はその・・・かなりの地位にいるお方ではないのですか?・・・」
ソフィー様が探るような話し方で質問をする。
「いえいえ肩書だけは長ったるいですが、1万もいる侯爵軍の中のほんの250人の部隊の参謀ですから」
今のナターレには250人も兵はいないけどね。
「その、わたしは何の権限ももっていない子爵令嬢です。お父様やジニ・・・館の使用人達の安全を確保したくて行動しているだけで、フィオーレ様が地位を捨ててまでお味方してくださるのはうれしいのですが・・・それに報いることができず・・・」
「お気になさらずに、わたしはナターレの為ではなく、ジプソフィーラ様の為に働きたいだけですので」
これは本心だ。ボクと同じだね。
「ジプソフィーラ様の目的は侯爵軍の排除ですか?それとも殲滅をお望みですか?」
「殲滅なんてそんな・・・いえ、そうかもしれませんわね。リッチ侯爵がこのナターレに手出ししないようにしたいのです。お願いして帰っていただけるならそうしますが、それが不可能なのは分かります。わたしが欲しいだけなら嫁ぎますが、目的はナターレ子爵の座です。婿養子に入って奪われるだけです。それならば・・・」
ソフィー様が唇を噛んで言い淀みます。
「嫁ぐ・・・ですと?あんな下種に?・・・」
コルニオロが怒りをにじませ呟いた。ソフィー様もその豹変振りに驚き少し引いている。
「と、ところで軍のことは不勉強でして、よろしければその辺のことを少し教えてはいただけませんか?フィオーレ様」
「・・・わかりました。ジプソフィーラ様からの最初のお願いですね。対価は・・・」
お金取るのかコイツ・・・いやコイツならお金じゃなく・・・
「お茶をご一緒していただけませんか?」
「え?それでよろしいんですの?」
部屋にいたメイドに扮した影にお願いして、夜のティータイムとなった。
「いや~ジプソフィーラ様とお茶ができるなんて夢のようですね~」
「は、はぁ。わたしみたいな子供でよろしいのでしょうか?貴族であり軍でもそれなりの地位にいらっしゃったようですし、女性など選り取り見取りではないですか?」
ガタッっとコルニオロが立ち上がり、
「何をおっしゃいますか!ジプソフィーラ様以上に可憐で美しい女性を見たことがありません!ニンフェア殿のようなロリババァには用はないのです!」
「言ってくれるね、死にたいのかな?」
縮地でコルニオロの背後に回るとインセクトスレイヤーを喉元に突きつけた。
「ははは・・・ほんのジョークですよ、ジョーク・・・」
「それで、お話を伺ってもよろしいですか?」
ボクの行動を華麗にスルーされたので、仕方なくコルニオロを解放しソフィー様の背後に立つ。
「え~では、まずは簡単に軍の組織関係をお話しましょうか。国によって呼び方や編成の人数に違いがあるのですが、フリージア王国はかなり分かりやすく出来ております」
その辺はボクも詳しくない。一応聞いておこうか。
「小さな単位からですと、5名からなる小隊ですね。隊長1名と隊員4名から成ります。主に偵察任務で活動します。次に中隊ですがこちらは小隊3つを集めて中隊長を置き、16名から成ります。迷宮などに赴いたり、魔物討伐の最低人員部隊ですね」
ふむふむ。ソフィー様もふんふんと聞いています。
「次が大隊。こちらも中隊3つを集め大隊長、副隊長、兵站要員などを入れて60名から成ります。作戦行動をとるときの最低人員部隊です。その上にわたしが所属している連隊です。同じく大隊3つと工作部隊、伝令部隊、兵站部隊とある程度の組織となり、連隊長以外に参謀、諜報員なども加わり250名から成ります。作戦立案も行う最低人員部隊です。ここまではよろしいですか?」
「はい、大変分かりやすいです」
どれも下部組織3つから成り立っているのか。確かに分かりやすいね。コルニオロは喉を潤し話を続けます。
「次が旅団と呼ばれる部隊で、連隊3つと直属部隊などが加わり1000名から成ります。ここから対国家相手の軍隊ですね。そして最後が師団です。これはそのまま旅団3つが集まり3000名、旅団長3名の誰かが師団長を兼務します。国王から勅命を受けた者がいたり、王子が出兵される時などはその方が師団長となりますね。侯爵軍はこの師団が3つあります。」
ほ~。そういう仕組みだったのか。ソフィー様がポカ~ンと口を開けて聞いています。ちょっとおまぬけですがそこもまたかわいいな。
「口を開けてポカ~ンとしているジプソフィーラ様が見れて満足ですね~」
「は!み、見ないでくださいませ!」
ソフィー様が慌てて口を押える。やはりコルニオロはボクと同じとこに反応するね・・・
ソフィー様は誤魔化すかのように紅茶を口に運び、コルニオロが爆弾を落とす。
「そういえば、フラヴィオ伯爵がおっしゃっていましたが、すでに2個連隊500名が魔の森を抜けるころだとか」
ブゥフウウウウウウウゥッ!!
盛大に紅茶を吹き出しました。500名!?早すぎませんか!?コカトリスを調教したと報告を聞いたのは昨日です。いくらA級の魔物とは言え500名が相手では・・・
はっとして目の前を見ると、わたしの吹き出した紅茶を顔面に浴びたフィオーレ様が、こう惚の笑みを浮かべていらっしゃいました・・・まさか・・・
「あああ、至福!!ジプソフィーラ様の聖水を浴びることができるなんてっ!!」
ここにきてやっと気づきました・・・フィオーレ様がロリコンだということに・・・




