59話:ヘッドハンティング
「ニンフェアここニャ!ここがいいニャ!!」
「ここは?」
「はぁ、プルーニャ殿のお気に入りのお店でして」
扉を開けて中に入るとプルーニャ殿が拍手喝采で迎えられていました。ま~大人気ですね~
「おっちゃん!いつものお願いニャ!」
「おう!来ると思って新しい魚仕入れといたぜ!待ってな!」
いつもはカウンターですが今日は3人なので端っこのテーブル席に座ります。
「お嬢ちゃんはなんにする?」
カウンターの内側から大声でニンフェア殿に注文を伺う。
「プルーニャと、こっちの子と同じもので」
名前を言っても分からないと思ったのかわざわざ言い直して同じものを注文しました。お仲間のようですしプルーニャ殿の食べる量も知っているはず。それと同じものを注文するとは、ニンフェア殿も結構食べるんですね・・・
「わたしはお水だけで」
わたしには注文を聞いてくれないのでお水だけ頼みます。最近予算が渋くてお財布が寂しいですね・・・
「それで、話とは?」
プルーニャ殿がここの魚料理のすばらしさを語っていましたが、それを華麗にスルーして本題に入りました。
「ええ、それなんですがどこから話しましょうかね・・・実はですね。ニンフェア殿が・・・ゴブリン・ロードが倒したエドアルド様はかなりの高レベルでして、そのエドアルド様を倒したゴブリン・ロードの討伐命令が出まして・・・」
「えっと、まずゴブリン・ロードって何?」
あ~プルーニャ殿も知らなかったし若い子は知らないですか。わたしも若いんですがね。
「ゴブリン・ロードはゴブリン種の最上位種でして、レベルは50ほど、討伐にはA級冒険者が複数必要と言われています」
「ふむ」
ニンフェア殿はフードを後ろに跳ねのけ話の続きを促します。
「あのエドアルド様を一騎打ちで倒したのならばゴブリン・ロードだろうと言う話になりまして。その討伐部隊の隊長を命じられたのがわたしです・・・」
「ふ~ん。ボクの幻想魔法のことは言わなかったんだ」
ニンフェア殿がニヤリと笑います。報告してもどうせ信じてはもらえませんしね。しかし幻想魔法でしたか、幻覚系魔法の上位スキルですね。スキルの存在は知っていますが持っている方に会うのは初めてです。幻想魔法は見破ることが困難。わたしのように【看破】スキルでもなければ軍隊を捏造できる凶悪なスキルです。
「言っても信じてはもらえませんから。それに討伐しなくても、現れなくなればいいのですから、話し合いができないかと」
「なるほどね。そういうことか」
顔の前に垂れた薄緑色の髪を指で耳に引っ掛け、指をこめかみに当てて黙考しています。いまいち何を考えてるかわからない子ですね。見た目は10代前半ですが、この子もストライクゾーンをオーバーしてます。・・・ロリババァか・・・
「ん?・・・」
ビクッ!不穏な事を思った瞬間ニンフェア殿が顔を上げました。まさか、読心系のスキルをもっていませんよね・・・うかつな事を考えるのはやめておきましょう。戦えば間違いなくわたしが負けます。
「それで、できればもうゴブリン・ロードの幻想魔法を使わないでいただけないかと・・・」
「ふ~む・・・」
胸の前で両手を組んで椅子の背もたれに身体を預けます。何を考え込んでいるのでしょう?取引を持ち掛けるつもりでしょうか?めんどうなのは勘弁してくださいよぉ・・・
「どうでしょうか?」
一向にお返事を頂けないので再び促してみると。
「待った!」
手のひらを私に向けて話を中断させます。その直後、
「へいおまちっ!!今日は魚介系スペシャルだ!特製だからな食べてみてくれよ!」
店主が両手に持った大皿に山盛り乗せた料理を運んできた。
「にゃああああっ!!」
「お~~~おいしそうっ!!」
それまで鼻歌を歌っていたプルーニャ殿とニンフェア殿が料理にくぎ付けになりました。
「「いっただっきます!」ニャ!」
ズルズルズルモグモグハフハフ、モグモグゴックン!ズズズズモゴモゴ・・・
欠食児童のように両手にフォークを持って次から次へと料理を口に運びます。食べ方だけは見た目通りの年齢ですね。
「あの、あ~お水おいしいですね・・・」
「「ごちそうさまっ!」ニャ!」
しばらくしてお二人ともお皿の上の料理をキレイに平らげました。プルーニャ殿に至っては魚の骨もないのですが・・・食べたのですか?いつものようにプルーニャ殿が金貨をカウンターまで持っていき「おいしかったニャ」と言って戻ってきました。
「おうっ!また来てくんな!」
店主も慣れてきたようでお釣りのことは何も言わず、店内の客の数を数えジョッキを用意していきます。
「んじゃ・・・」
「まってくださいよおおおおおっ!!」
またこのパターンですか・・・戻ってきたプルーニャ殿がそのまま出口に向かうので、ニンフェア殿も立ち上がって出ようとしました。
「あ~素で忘れてたよ。そうだね・・・コルニオロさんはどうして侯爵軍にいるんだい?」
本当に忘れていたのかニンフェア殿が再び椅子に座り直し、質問をしてきました。
「は?どうしてと言われても・・・わたしの魔法の才が認められて名誉男爵になり、侯爵様の派閥に拾われたから?でしょうか・・・」
「ふ~ん」
なんだか面白くない答えだと思ってそうですね。
わたしだって面白くないですが、生活だってあるのです。
この国では合法的に愛でることができないのですから・・・非合法はさすがにマズいですし・・・せいぜい貴族の15歳デビュタット舞踏会に出まくるくらいしか方法がないのです・・・15歳はほんとにギリッギリですね・・・
「コルニオロさんは”魔法”のことを知ってるんだね?」
まるで面接されてる気分ですね。一般的には恩恵と呼ばれる能力ですが、古代語では”スキル”と言います。スキルのうち直接肉体に関与しないものを”魔法”と呼びます。
「家族にそちらに詳しい者がいましてね。わたしはレベル1でスキルポイントが5ある異端児だったのですよ」
「!?”スキルポイント”を知ってるんだ・・・」
カマかけだったのですがやはりニンフェア殿も知ってるんですね。ということは【鑑定】持ちがどこかにいるはずです。フリージア王国では宮廷魔術士しか持っていないことになっていますが。
「発音がなっていませんよ。魔法には正しい発音が必要ですからね練習してください」
知識はあるようですが古代語には精通していないのかニンフェア殿の発音はいまいちです。わざわざ指摘してあげる必要はないのですが、才能のある人を見ると助言したくなります。
「・・・ちなみに”スキルポイント”はいくつあまってるんだい?」
何が知りたいんでしょうか・・・スキルポイントの余りなどただの運です。ほとんどの人がいくつか余っているもの。答えてしまっても問題はないので正直に答えます。
「割と効率よく覚えて行ってるので4しか余ってませんよ」
「なるほどね・・・」
ほんの少し口角が上がりました。何かほしい情報を得られたみたいな顔ですね・・・
「それじゃあ、ボクが拾ってあげるからうちの派閥にこないかい?」
「は?」
「侯爵のとこよりずっと楽しくなるよ」
ヘッドハンティングですか・・・そりゃ侯爵様のとこにいても顎で使われるだけで、めんどくさいこと
この上ないですが・・・
「コルニオロさんの魔法の才能をより活かしてあげるし、めんどくさい貴族じゃなくしてあげる、何より・・・」
何より?
「かわいい女の子が上司だよ」
「かわいい・・・ですか・・・」
はぁ、何を言うかと思ったら上司が女?20代のババァにも用がないのに、それ以上だったら・・・そう思っていた瞬間、ニンフェア殿がぼそっと呟きました。
「12歳」
「!!!!!!!!!!!」
ガタッ!
イスを蹴倒して立ち上がりました・・・まさか・・・まさか!?
「ボクたちの上司は、ジプソフィーラ様だよ」
ニンフェア殿が今まで見た中でも最高に嫌らしい笑みを浮かべて告げました。
「乗りましたっ!!!今日限りで名誉男爵も侯爵軍もやめてやりますともっ!!」
やっぱり思った通りだね。ボクと同じ匂いがしたよ。
ボクの幻想魔法も見破ったし、魔法の知識も豊富そうだ。飛べないのに【飛翔】”スキル”をしっていたしね。
スキルポイントが4も余ってるということは、ソフィー様のような情報操作はできないみたいだけど、参謀を任されるくらいだから、これから先のことを考えれば役に立ちそうだね。
なにより最初から最後まで一切敵意がない。本当にめんどくさいから戦いたくなかったみたいだ。
ソフィー様のためなら何でもやりそうだし、うまく使えば。
これは掘り出し物かもしれないね。
ただし・・・
「いえすろりーたのーたっち」の心得を叩き込まないとね。ふふふ。
ゾクゥ・・・・
「な、なんでしょう・・・急に寒気が・・・」
「窓があいてましたね。閉めときますね」




