幕間1話:マスターとオルテンシア
オルテンシアがオロオロしている。中々貴重な光景だな。
オレは昨日異世界転移に成功しこの世界にやってきた。
さっそく冒険がしたかったのだが、高熱を出してオルテンシアに看病されている真っ最中だ。
異世界には未知の病原菌や風土病があるため、それを予防するために大気や土壌から集めたサンプルを分析し、抗ウイルスナノマシンを注入する。
オレがまだ起きてこない間にオルテンシアはナノマシンを製作していて、冒険を始める前に注射したのだ。
首筋に噛みついて・・・
ところが一夜明けいざ出発となった時、オレの身体に異変が起きた。高熱が出て体中が痛い・・・
すぐにオルテンシアが調べてくれたが、昨日注射したナノマシンとこの世界のウイルスが反応して、ナノマシンが変異してしまったらしい。
「申し訳ありませんマスター・・・」
「オルテンシアが謝ることはないよ。命に別状はないんだろ?」
オルテンシアが半泣き状態でオレに抱きつき・・・解析している。やけに人間臭くなったな?
「はい・・・現在ナノマシンはこの世界のシステムに順応するように変異しているようです。マスターの身体はその変異の影響を病気と勘違いし、過剰反応をされているようです・・・」
つまり・・・想像妊娠ならぬ想像病気なのかっ!?
ん?ナノマシンが変異しているということは・・・
「オルテンシア、オルテンシアの体内のナノマシンも変異しているのか?」
「え?あ、はい。全部というわけではありませんが、対応できない種類のナノマシン約20%ほどが、この世界に合わせて最適化しているようです」
「どのようなものかわかるか?」
オルテンシアが額に人差し指を触れ、目を閉じて調べているようだ。
「いくつか理解不能な部分がありますが・・・個体別項目別習熟度システムや、ナノマシン統制権限簡易化機構の構築、ドーピングシステムによる・・・」
「オレにもわかる単語を使ってくれ・・・」
・・・オルテンシアが珍しく考え込んでいる。
「マスターの愛読書の情報から変換いたします・・・レベルシステムの導入。能力別にSSSからFランクの階級システム。スキルの実装によりパッシブスキルとアクティブスキルを習得。鑑定魔法により詳細を確認できます」
な、んだと・・・・俺が愛読していた古代語で書かれた”ふぁんたじぃしょうせつ”の世界そっくりではないか!?
「オルテンシア!俺を鑑定できるか?」
「【鑑定10】」
オルテンシアが鑑定魔法を唱えると、寝ているオレの足元から光の環が現れ、上半身にむけて移動する。
おおおおっ!おおぉ・・・お?・・・一瞬”ふぁんたじぃ”と思ったが、これってMRIかCTスキャンじゃないか・・・
「・・・マスターはナノマシンが変異中のため解析不能とでました」
「くそ・・・落ち着いてからにするか・・・じゃあ、オルテンシアはどうだ?」
もう一度鑑定魔法を使いオルテンシアが光の環に包まれる。わくわくが止まらねえ!
「鑑定結果の表示ができます。表示しますか?」
「頼む!」
マスターが生き生きとしています。空中に鑑定結果を表示しましょう。
【陸奥菱製汎用人型アンドロイド:非売品】
個体名:Ortensia
形式番号:MH2203-AS3
ロット番号:HAY7-19760601
製造年月日:03/07/2203
状態:良好
修理履歴:11/10/2203[ダイソン球連結プラグ交換]
04/06/2204[左腕ガトリングサイレンサー交換]
30/02/2206[ダイソン球連結プラグ交換][ダイソン球連結ボルト交換]
次回メンテナンス予定日:01/09/2218
交換項目:循環オイルVT-4
冷却OT液MHO10034
腕部ベアリングWB002
腰部ベアリングWB006テスト部品
右腕部レーザー砲コンデンサ
要チェック項目:超小型ブラックホール維持ダイソン球
左右脚部関節
解析プログラムアップデート
プロトコルコンバータ
etc.・・・
「そうじゃなくて!!”ふぁんたじぃ”部分だけにしてくれ!」
マスターが上半身を起こして抗議してきました。鑑定レベルが高過ぎて余計なことまで鑑定したようです。気合を入れ過ぎました。マスターが期待していますし、少し意地悪をしてしまいましょうか?
【オルテンシア】
種族:不明
種族特性:自己修復
年齢:14
レベル:1(SP165)
状態:良好
身長:164cm
体重:エラー
B:マスターには
W:まだ
H:早いです
力 :AA(38%)
体力:S(11%)
俊敏:B(21%)
器用:SS(97%)
英知:SSS(00%)
脳力:SS(49%)
魔力:SSS(00%)
スキル:鑑定10(55)(要:魔力S)
索敵10(55)(要:英知S)
光線10(55)(要:脳力S、魔力S)
(計165)
習得可能スキル:なし
装備:右腕レーザー砲、左腕ガトリングガン(弾数500)、眼部レーザートーチ、指部ニードルガン(弾数20)、左右肘部ダマスカスソード、左右拳メリケンサック内臓、左右踵部ダマスカスナイフ、超剛性繊維メイド服、サバイバル用次元収納鞄
「おぅふ・・・」
パタンとマスターの上半身が倒れます。
「どこから突っ込んだらいいのか・・・育てる楽しみがねぇ・・・色々バグってんな・・・オレには早いってなんだよ・・・べ、べ、べつにぃ~し、しりたいわけじゃないしぃ~!」
元々備わっているシステムであるスキャンが、鑑定というスキルになっています。レーダーは索敵に、レーザー砲は光線ですか。なぜかガトリングなど実体弾はそのままですね。
「まあ、大体状況はわかった。オレもスキルや魔法が使えるようになるのか!」
「マスター、まだ横になっていませんと。異世界は逃げませんよ」
「そ、そうだな。今、この世界に順応していってるんだな・・・」
マスターは子供のようにはしゃぎましたが、さすがに自重したようでおとなしく横になります。
マスターには黙っておいた方がいいのでしょうか・・・
嘘が言えるなんて、わたしの変異は致命的かもしれません・・・
 




