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55話:コカトリス調教

「ミル!そっち行ったぞ!2匹だ」

「おおよっ!」


 ”魔の森”の中を駈けて魔物を追い立てる。木に遮られようが茂みに遮られようが、俺の目からは逃れられない!


「3・・・2・・・1・・・今だ!」

「【拘束(リミタジオネ)3】!」


 ミルの手の平から蜘蛛の糸のようなものが飛び出しウサギの魔物に絡みつく。2匹同時でも問題なさそうだ。


「あと頼むぜ~」

「まかせて~いい子ね~わたしのモノになりなさい~【魔物(スキャーヴォ)調教(コントゥラット)2】!」


 ミーナが動けない2匹の魔物に首輪を嵌めた。魔力でできた首輪でこれを嵌められた魔物はミーアの言うことを聞くようになる。なるのだが・・・これって奴隷契約じゃないのか?・・・


「わ~お見事ですぅ~」


 パチパチと手をたたいてデーア姉さんが喜んでいる。暇そうだね・・・


「これで10匹か楽勝だな!」

「いや、どれも弱い魔物だ。これじゃ侯爵軍の足止めはできないだろう。今は練習を兼ねてるから、慣れたらもう少し強い魔物を捕まえよう」


 気楽なミルに軽くくぎを刺す。俺たち程度にどうにかなる魔物じゃ足止めになるわけもない。


「今度は名前何にしよ~かなぁ~ウサウサかな?」

「え~もっとおいしそうな名前にしませんか~?「キナコ」とか~「ミタラシ」とか~?」


 女性二人は調教した魔物の名前を考えるのに忙しそうだ。


 俺たちがソフィー様から命じられた作戦は”魔の森”の街道封鎖だ。

 魔物を使って細い街道を埋め尽くし、これ以上侯爵の援軍をナターレ領に入れないようにしたいらしい。ソフィー様の算段だと4、5日以内に侯爵軍に動きがあるかもしれない、とのことだ。


 ここまでは順調に進んでいる。もう少し魔物の強さも数も必要だけど。


「とりあえず最初にてなずけた5匹の所に戻ろう。あまり増えると動きにくくなる」

「りょーかい。みんなおいで~」


 今回調教したのはウサギ2匹とリス2匹とイタチ1匹だ。魔物だけにサイズは大きいがそこまで強くはない。

 もう少し森の奥まで入るか?

 陽の届かない薄暗い森の中でも真っすぐに森を抜ける。”熱感知”で常に太陽の位置を把握しているから迷うことはないのだ。


「やっと森を抜けたぜ~もう一回くらいは入れる・・・」


 ん?先に森をでたミルの様子がおかしいが・・・


「4番!!」

「「「!!!」」」


 影の仲間の符号で「4番」は「強敵」の意味だ。森から出ていない俺たちもすぐに散開する。


「【熱感知2】!敵は1体!大型の魔物だ!()()()()()()()()()!」


 自分で言って気づいた。俺たちが乗ってきた馬も、最初に調教した5匹の魔物もいない・・・食われたのか?・・・


「ミーナ!そっちいったぞ!」

「え!?きゃああああああっ!」


 クエエエエエエッ!!


 大型の魔物はミーナの連れている魔物に気づき捕食しにきた。俺たちは気配を消せるが、調教した魔物は気配を消せない。

 木をなぎ倒し現れたのは鶏の頭に蝙蝠の翼、トカゲの胴体を持つ・・・コカトリスだ!なぜこんな街道近くにこんな凶悪な魔物がでるんだっ!?


「敵視認!コカトリスだっ!視線と毒息に注意しろっ!!」


 木の影に隠れコカトリスの視線から逃れる。ミーナが調教したウサギの魔物の一匹がコカトリスに突っ込んで行く。

 コカトリスがウサギの魔物を凝視すると走っている姿勢のまま石化した。滑るように転がったウサギはピクリとも動かない。

 見られただけで石化とか、俺たちに勝てる相手じゃない・・・


「撤っ!・・・うあああああっ!」


 コカトリスが振った尾が俺の隠れていた木をなぎ倒した。木と一緒に吹き飛ばされ地面を転がるが、すぐに受け身を取り茂みに飛び込んだ。


「はぁはぁ・・・これじゃ撤退もむずかしいぞ・・・!?」


 俺の手が動かない!?まさか石化したのか・・・

 石化と言ってもそのまま石になるわけではない。石のように堅くなり動かないだけだ。しかし、これでは武器も握れない・・・どうすればいい・・・


「【拘束(リミタジオネ)3】!」

「!?」


 ミルの拘束”スキル”がコカトリスに絡みついた。まさか、戦うのか!?


「ディオ無事かっ!?俺がこいつの動きを止める!その間に撤退しろっ!」

「無茶だ!」


 蜘蛛の糸はコカトリスの首の一振りでちぎれ飛ぶ。ここまですべて一回で拘束していたが、魔物の強さが桁違いでまるで効果がない。


「【拘束(リミタジオネ)3】!」

「【魔物(スキャーヴォ)調教(コントゥラット)2】!」


 ミーナまでっ!?調教スキルの首輪が飛んでいくが首に当たった瞬間砕け散った。

 仲間が戦っているのに俺だけ逃げるわけにはいかない。利き腕は動かないが俺も何か・・・


「あれ~石化しちゃいましたか~?」


 突然横の茂みからデーア姉さんが顔を出した。


「デーア姉さん!?」

「今治しますね~【万能(アンチドート)解毒パナチェーア1】」


 なっ!?手が・・・動く!回復”スキル”だけじゃなかったのか!?


「これは~元々持っていた”スキル”ですから~ジプソフィーラ様に頂いたわけではないですよぉ~ランクが低いですから~一度に治せるのは~一つの症状だけですけどぉ~」

「ありがとう!行ってくるっ!」


 俺に何ができるか分からないがみんなが戦ってるんだ、俺も!!






「くそっ!止まりやがれ!!【拘束(リミタジオネ)3】!」


 ミルの両手から蜘蛛の糸が出てコカトリスにまとわりついてるけど拘束できていない。

 わたしの魔物調教も効かないしどうすればいいの!?・・・


 兵站担当の「ルカ君」さんが魔石をたくさん持たせてくれたけど、


『鼻血が出るまで使うのはやめてくださいね』


 と言ってたなぁ。こんな戦いをしたことがあるんだね、あの子も・・・。忠告してくれたけどもう遅いかな・・・服の袖で鼻血を拭って魔物調教を続ける。


「ミーナ無茶をするな!」


 真上からディオの声がする。その直後わたしの横に降りてきてハンカチを貸してくれる。


「ディオ!?なんで逃げないの!」


 ハンカチで鼻を押さえながらディオを見ると、茂みの先のコカトリスを凝視している。


「逃げられるわけがないだろっ!何か手があるはずだ!何か・・・」


 本当にコカトリスをどうにかすることができるの?・・・わたしの”スキル”は魔物調教以外たいしたものはないし・・・あとはライム君とさっき調教したウサウサ達だけ・・・最初に突撃させて敵わないのはわかってるけど・・・少しでも気が逸らせるなら・・・


「ごめんねみんな!コカトリスに攻撃!」


 ウサウサを先頭にリリス達2匹とイタッチが突撃していく。何度もミルが拘束を使った効果なのか、首と羽が糸で絡みコカトリスが振り向くのが遅れた。ウサウサが足に噛みつき、リリス達が足を駈け上り至る所を噛みついていく。最後にイタッチがお尻をコカトリスに向けて・・・


 バフンッ!!

 クエエエエエエッ!!


「うわっ!なんだコレくせえっ!!」


 ミルが鼻を抑えてコカトリスから距離を取る。

 イタッチがコカトリスの顔に向けて・・・その・・・おならを浴びせました。


 コカトリスが暴れまわり周囲の木や茂みに散らばっていた()()()()()がまとわりついていく。効いてる!?


「ミル!足を狙って拘束を使ってくれっ!!」

「【拘束(リミタジオネ)3】!」


 ディオの指示が飛びミルが”スキル”を放つ。よく見るとミルの顔も鼻血で血まみれだわ。

 拘束”スキル”が足に当たり両足をくっつけ、暴れていたコカトリスはバランスをくずしてわたしたちに向けて倒れこんできた!鼻血がでるほど魔力を使っていたわたしは咄嗟に動けず、コカトリスを見上げるだけだった。おわった~わたし。


「あぶない!!」


 ディオがわたしを抱え横に飛び、空中で態勢を変えわたしの頭を抱えて地面を転がった。こんな時だけどちょっとドキドキするね・・・


「はぁはぁ、大丈夫か!?」

「え、ええ・・・ありがとう・・・」


 顔が赤くなるのがわかったから地面を見ながらお礼を言う。鼻血がボタボタと垂れ小さな血の池ができる。これはどっちが原因なのかしら?・・・・


 ズウウウウンッ!!


 盛大な土煙を上げてコカトリスが地面に倒れこんだ。そのチャンスを見逃さずミルがトドメの拘束”スキル”を放つ。


「これで魔石も品切れだ~!【拘束(リミタジオネ)3】!」


 ミルの身体が傾き”スキル”の結果も見ずに倒れこんだ。

 ミル、よくやったわ!見事コカトリスは拘束され視線をこちらに向けることもできなくなった。わたしの視線も覆いかぶさるディオから離れなくなった・・・


「まだだ!コカトリスから離れろ!!」


 ディオがわたしを引き起こして叫ぶとミルに向けて駆けた。

 コカトリスは動けなくなったが毒息を吐くことはできたのだ!周囲に紫の煙がばらまかれ一番近くにいたウサウサ達はあっという間に死んでいった。ごめんね・・・煙はなおも広がり死の触手をミルに伸ばす。


「”風よ”!」


 ミルの足元まで迫った煙をディオの”スキル”で吹き飛ばし、ミルの脇を抱えて引きずっていく。少し煙に触れたようでミルの足が焼けただれていた・・・


「デーア姉さん頼む!」

「あら~痛そうですね~【回復3】です~」


 どこに隠れていたのかデーア・・・姉さんが出てきてミルの怪我を癒してくれた。

 森からなんとか脱出し、ようやくコカトリスに勝ったと喜ぼうとしたら、


「はぁはぁ、あとは、まかせたぞミーナ!」


 ディオがわたしの正面から肩を掴み、眼を見て言った。アトハマカセタ?


「え?・・・」


 それから調教地獄が始まったことは言うまでもない・・・


 意識のないミルを森の外に寝かせ、わたしとディオとデーア・・・姉さんはコカトリスの元に戻った。魔石も底をつき鼻血と汗をたれ流しながら何度も何度も何度も!!魔物調教スキルを使った。

 一刻も早く調教しないと、いつ拘束が切れるかわからない!!

 あんなのと戦うなんて二度とゴメンです!!自然と涙もでてきた!

 数えきれないほどの魔物調教を試み・・・意識が朦朧とした頃、いつの間にか調教に成功していました・・・


「ミーナ!!よくやったぞ!」


 おわった・・・


 足に力が入らず倒れかけたところをディオに支えられました。膝がすでにストライキを始めズルズルと滑り落ちていく。ディオの革鎧に鼻血と汗と涙とよだれの筋ができ地面に膝をつく。膝立ちでディオの腰に抱きつく姿は無様だったはずです。あ~マズい・・・膀胱まで緩んできた・・・起きていたら羞恥に耐えられないので意識を手放すことにした。


「あら~なんだか危ない態勢ですね~ところで~わたしが持ってる魔石は~いつ渡してあげたらいいですか~?」


 消えゆく意識の中でデーア・・・姉さんの悪魔の声が聞こえた気がする。

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