5話:ジニア
お嬢様にも困ったものです・・・
大旦那様の遺言とも言えるお手紙を拝見いたしましたが、メイドごときが目を通してしまってよかったのでしょうか?・・
おかげでお嬢様とオルテンシア様の会話も理解できましたが・・・
メイド長に与えられた個室に戻り左右で三つ編みにした髪をほどき伊達メガネをはずします。
”レベル”ですか、あれは以前手に入れた情報にあった神力のことなのでしょうね。
冒険者の方が魔物を倒したときに、急に力が増大したり足が速くなったりすることを「神力を授かった」と言っていましたが・・・
そして幾度か神力を授かると恩恵を得ると。嘘か誠か分かりませんが恩恵の力で岩を真っ二つにしたとか、口から炎を吐いたとか、怪我を治したとか、空を飛んだとか・・・さすがにこれは眉唾っぽいですかね。
これが”スキル”ですね。
エプロンのリボンを解きます。
噂が本当だとしたら、お嬢様の”スキル”は「怪我を治す」に近いものですか。大旦那様の手紙には「修理」とありましたし、以前ペンダントを直したらしい(壊れた状態を見てないものですから)ですので「壊れた物を直す」が正解でしょうか?
ボトルを並べた棚からお気に入りのロゼを選びました。
オルテンシア様のお話しでは、”スキル”を使うには体力が必要とのこと。
体力を増やすには運動するしかありませんが、お嬢様の体力はポンコツ・・・3年がんばっても同年代の子女並みになれるかどうか・・・
そうすると、やはり”レベル”を上げるしか方法がありませんか。
北の「魔の森」か南の「迷宮」か。
グラスをテーブルに置きます。
「魔の森」は近くに村はありません。いつ魔物がでてくるか分からないとこには住みたくありませんしね。
しかも、森の奥に入ると戻ってはこれませんので論外ですね。
「迷宮」は不思議と外に魔物はでてこないそうで、迷宮を囲むように村ができています。
迷宮の中は地下とは思えないくらい道がしっかりあるそうで、地下5階までは地図もできているとか。
魔物を倒すと素材や魔石、武器防具や魔道具まで落としたと情報にありましたね。
「迷宮」一択ですか。
ロゼをグラスに注ぎ、ボトルを隣に置きます。
神力は直接魔物を倒したものに授かりやすいそうですが、一緒にいたものにも授かった例もありますから、お嬢様は戦わず強い者に護衛してもらうのが良いでしょうね。
冒険者を雇うのは信用できませんし、奴隷を買うにも強いものがいるかどうか・・・
やはり兵士と影の中から選抜するしかありません。
グラスを揺らして香りを楽しみ口に含みます。おいしいですね。
「迷宮」の道は4人が並んで歩けるほど、戦うなら2人が限度ですね。前後で4人、直接の護衛が4人、予備人員2人、お嬢様を入れて11人ですか。
資料によると冒険者の方は2人から4人、多くても6人で探索されているようですね
10人もいると手狭なのでしょうか?効率ですかね。
ゴックン。
安全第一です。10人選抜しましょう。主力の2人はすでに決定ですが、直接戦闘だけでなく罠や宝箱を開けられる工兵に料理を作れる兵站担当も必要です。確か見どころのある子がいましたね。
兵士長のロートは・・・やや問題ですが戦闘指揮だけは一流です。残りの護衛はロートに選抜させますか。
「まずはこんなところでしょうか。ニンフェア、プルーニャ」
音もなく、目の前に呼び出した二人が現れました。
背中に半透明な羽のある若草色のロングヘアーの少女ニンフェア。
猫の耳と尻尾のある薄紅色のショートヘアの少女プルーニャ。
いつも思いますがどこに隠れているのでしょうね?
グラスの中身を一気に飲み干しテーブルに置きます。
「ニンフェア、今すぐこれを手配してください。プルーニャ「迷宮」の魔物とトップクラスの冒険者について徹底的に調べてください」
「アイアイサー」
「わかったニャ」
メモを受け取ると再び音もなく消えました。鱗粉と肉球の跡を残して。
「この二人の異常な体術もおそらく”スキル”なのでしょうね。まだまだ情報がたりません」
ふと思いました。
「オルテンシア様の”鑑定”はスキルの有無がわかっているようでしたね。詳細もわかるのでしょうか?オルテンシア様のためにお嬢様が危険な目に合うのです。オルテンシア様にも働いていただくことにいたしましょう。ふふふ」
屋根の上を二つの影が疾走する。
「2年ぶりの「迷宮」だニャ」
「そうだね。今度は9人の子守りをしながらだけどね」
「いつも思うんだけどニャ」
「うん?」
「ジニア様が飲んでるのブドウジュースだよニャ?」
「アルコールは入ってないね」