45話:水精霊は頑張りました!
朝です・・・朝になりましたが・・・これはもう確定ですね。
「夕べからレベルが上がり続けています・・・」
一体何があったのでしょう・・・ちょっと怖いんですけど・・・
初めてアレがきてびっくりしてジニアに泣きついた時以上に泣きそうです。
コンコン
「・・・どうぞ」
「ソフィー様入るよ?ってどうしたの?」
扉が開いてニンフェアが部屋に入ってきました。迷宮にいた時と違い、背中の大きく開いたワンピースを着ています。意外と言っては失礼ですが、口調が「ボク」なので普段着もボーイッシュな恰好なのかと思っていました。背中の羽がパタパタと動いていますので、背中の開いている服でないと苦しいのかもしれませんね。
レベルが上がり続けている問題ですが、こういうことはニンフェアに相談するべきですね。
「ちょっと相談があるのですけど・・・」
「相談?まあ、とりあえず朝食にしようよ。これ、着替えね。アレクとルカ君も目が覚めたよ」
「そうですか!それは朗報ですね」
とりあえず食事の後にしましょう。着替えを手伝うと言うニンフェアの言葉を辞退し一人で着替えました。一応ドレスですがあまり目立つわけにもいかないので、腰の後ろにリボンが付いているだけの質素な薄紅色のドレスです。
ニンフェアを部屋の外で待たせて着替え終わると、一緒に食堂に向かいました。食堂の場所がわからなかったので・・・食堂に入るとすでに全員揃っていました。
「「ソフィー様!!」」
腰かけていたアレクとルカ君が勢いよく立ち上がりました。
「アレク、ルカ君無事でなによりでした。心配かけてごめんなさい」
「いえ、ソフィー様こそご無事で、ほんとに・・・」
アレクが泣き始めてしまいました・・・アレクも鎧を脱ぎ麻の服の上下を着ています。ルカ君もまったく同じ服装なので軍隊の平服なのでしょうか?
「アレクは昨日から泣いてばかりだニャ」
プルーニャは迷宮にいた時と変わらない黒いチューブトップに革のジャケットを羽織っています。猫耳もしっぽも隠さず普通にしています。まあ、影の皆さんは知っているのでしょうし。
「ルカ君は体調は大丈夫ですか?」
「おかげさまで。助けていただいてありがとうございました」
一番重症だったルカ君もすっかり元気になったようですね。
どうやらニンフェアとプルーニャの姿を見ても大丈夫なようです。食事は病み上がりでしたけどルカ君が作ってくださいました。久しぶりのルカ君の食事は絶品です!わたしが作ったスープも味見してほしかったのですが、脱出するときに全部流れてしまいましたし・・・
食事が終わり現在の状況とこれからのことを確認することになりました。ニンフェアが立ち上がり状況を説明します。
「まず、昨日のうちに影の一人にエリカの町に向かってもらった。ソフィー様の無事を知らせるためと、旦那様から指示を受けるためにね。影からの報告によればナターレはかなり危ない状況だ。エリカの町はリッチ侯爵の兵にほぼ占拠されてると思っていいね。」
「・・・そんなことになっているのですか・・・」
リッチ侯爵は迷宮だけでなくこの機会にナターレも奪うつもりのようです。
「ナターレに残っている兵力はわずか200。結局ロートも殺されたらしいし後任の指揮官も決まっていない。副官の二人がなんとか維持しているらしいけど」
「兵士長はやはり亡くなったのですか・・・ヴァルホルへの先人よ、次なる地でも健やかなることを」
アレクが祈りを捧げ全員で黙とうします。
「リッチ侯爵の兵は120名らしいけど、騎士120名だ。うちの領兵200じゃ太刀打ちできないね」
「影は何人いるのですか?あ、聞いてはいけないのでしたね」
「守秘義務があるからソフィー様にも言えないけど・・・表の影で戦闘に特化しているのはボクとプルーニャくらいだよ」
ニンフェアとプルーニャを見ていたので他の影の方もお強いのかと思っていましたが、そうでもないのですね。あ、レベルが上がりました・・・レベルが上がって・・・また強く、なりましたね・・・
「わたしは軍のことがよくわからないので教えてください。ニンフェアとプルーニャなら騎士何人まで相手にできますか?」
ニンフェアとプルーニャが驚いた顔でわたしを見ます。
「・・・ソフィー、まさか戦う気ニャ?」
「今のボクとプルーニャなら5・・・いや8までならいけると思う。あっちに”魔法”を使う兵がいなければね」
魔物と戦うときは10匹くらい平気で相手をしていましたが騎士というのはそんなに強いのですか。
「魔物とは違うのですね・・・わたしの付与魔術を受けても?」
「2人で20までなら・・・」
全然足りませんね。
「120はきびしいですか・・・」
「迷宮のボス蜘蛛一体よりも小さな蜘蛛に苦戦したのを覚えてる?数は暴力なんだよ。プルーニャがどれだけ強くなっても動けるスペースあってだからね、囲まれたら終わりだ」
「小さい蜘蛛にはいっぱい噛まれたニャ・・・」
そうでした。あの時はプルーニャが囲まれ、わたしとニンフェアは空中に避難したのでした。
「ニンフェアが空から魔法を使うのは?」
「最初の一発だけだね。すぐに弓で撃ち落とされるよ」
これもダメですか・・・
「人間相手というのは難しいものですね・・・」
「人間は強いよ。一人一人は弱くても集団になると数倍の威力を発揮する。しかもリッチ侯爵の兵はナターレ領兵3,4人は相手にできるくらいの力はあるからやっかいだね」
そんなにっ!?
「リッチ侯爵の手兵はどうしてそんなに強いのでしょうか?」
素朴な疑問です。わたしたちは迷宮で遥かに強い魔物をたくさん倒して、それこそ死にそうになりながら強くなったのです。戦争で騎士1人が数百人も殺・・・倒したとは考えられません。
「あの者たちは元冒険者なんだよ。帝国の「迷宮」を踏破した者たちで構成されていて最低”レベル”は20だね」
「冒険者・・・そういえばお父様が言っていましたね。わたしが迷宮に入る時の護衛は領兵ではなく冒険者にしたかったって。それだけお強いということですか・・・」
あれもダメこれもダメ、打つ手がないですね・・・
今のわたしの状態を聞けば何か手があるでしょうか?
わたしが沈黙したのを見て諦めたと思ったのかニンフェアが話を続けます。
「この屋敷は影の仲間が周囲に至るまで警戒しているからまず安全だ。何かあってもすぐ知らせが届くようになってるからね。旦那様からは今夜にでも指示が来るとは思うけど、それまではゆっくり英気を養おうか。他に何かあるかい?」
わたしはゆっくり手を上げます。
「ソフィー様?起きた時に何か相談があるって言ってたけどそのことかい?」
「ええ、実は・・・鑑定結果を見てもらった方が早いですわね。【鑑定1】」
はい。結果をドン・・・
【ジプソフィーラ・ディ・ナターレ】
人族:女
年齢:12
レベル:128(SP64)↑up
身長:145cm
体重:秘匿情報
B:秘匿情報
W:秘匿情報
H:秘匿情報
力 :E
体力:D↑up
俊敏:E↑up
器用:C↑up
英知:A↑up
脳力:D
魔力:B↑up
「「「「んな(にゃ)っ!?」」」」
ついに100レベル突破しちゃってますね。
「ソフィー様・・・これはいつ?・・・」
ニンフェアが絶句しながらわたしを見てきます。
「現在進行形です・・・」
「は?・・・」
間の抜けた声で返事が返ってきました。まあ、そういう反応になりますわね・・・
「今も上がり続けているのです・・・迷宮を脱出してからずっと・・・」
「意味がわからにゃいニャ・・・」
「128”レベル”ってありえない数字ですよ・・・」
プルーニャが混乱し、ルカ君は・・・お願いだから引かないで・・・
「「迷宮」を出てから?・・・ソフィー様何か思い当たる節は?」
「コレといって・・・」
迷宮を脱出する時水精霊の加護のイヤリングを落としましたけど、あれは関係ないでしょうし・・・
「「迷宮」の奥で勝手に魔物が死んで、原因がソフィー様にあるから”レベル”が上がっている。ということですか?」
アレクが顎に手を当てて事実確認をします。
「うん。アレクの考えで合ってると思うよ。問題は何が原因かだけど・・・あの時扉を開けて水が流れ込み奥へと何かが運ばれて魔物を倒している。か・・・」
「ソフィー様が毒でも流したのかニャ~・・・!?」
「「まさか!?」」
ニンフェアとプルーニャが何かに気づいたようですけど?毒?
「・・・アレ・・・食べちゃってるけど、わたしも死んじゃうのかニャ・・・」
プルーニャが涙目になっちゃってる!?何があったのですか!?
「プルーニャ落ち着け!それを言ったらボクもアレクもルカ君だって」
「「えっ!?」」
みんな青い顔をしてますけど原因がわかったのでしょうか?
「”鑑定”してみればわかるんじゃにゃいニャ?・・・アレクたちも毒って出てたし・・・ニャ」
「すでに死んでて実はゾンビになってるとか・・・ないよね」
何かすごいこと言ってますけど・・・
「ソ、ソフィー様?ちょっとプルーニャを鑑定してみてくれるかい?」
「にゃんでわたしにゃのニャ!」
「はいはい鑑定っと」
【プルーニャ】
猫人族:女
年齢:21
レベル:47(SP23)
状態:混乱
身長:138cm
体重:41kg
B:77(+5)cm↑up
W:56cm
H:70cm
力 :C
体力:A
俊敏:A
器用:D
英知:E
脳力:F
魔力:E
「死んでなかった~・・・混乱だけだ」
ニンフェアが胸を撫でおろしています。意味がわかりませんね?
「ソフィー!だからそこの数値隠してニャ!」
「「+5?」」
プルーニャの抗議はスルーするとして、アレクもルカ君も「+5」が気になるようですね。
わたしのレベルアップはお昼過ぎまで続き、結局140レベルになりました。
アレクとルカ君にも付与魔術:情報操作でスキルを取得してもらい、現在の戦力を改めて見直してみました。
「ニンフェアどう思いますか?わたしはいけると思っていますが」
「・・・難しいね。不確定要素が多すぎて判断がつかないよ」
「120人倒す必要はないのです。突破さえできれば」
「陽動がいるね・・・」
そうこうしていると部屋の扉がノックされました。
「ニンフェア、影が戻ったぞ」
扉を開けて顔だけ覗かせた男がニンフェアに手紙と紙切れを渡して再び扉を閉めました。
「ソフィー様コレを」
ニンフェアは手に持っていた手紙をわたしに、紙切れはご自分で見ていました。お父様からの手紙ですね。
「ソフィーへ。よく無事で戻ってくれたね。ジニアも喜んでいるよ。さて、事態は急を要するのでさっそく本題に入る。まず、エリカの町に戻ってきてはいけない。迷宮が水没したという情報を得てリッチ侯爵の手兵がエリカの町に駐留しているからだ。今現在ソフィーは行方不明で捜索中ということになっている。死んでいることにすると養子を取らされナターレは奪われる。生きて現れれば拘束されてリッチ侯爵の息子と結婚させられ、ナターレも奪われるだろう。ナターレの未来は閉ざされてしまった。ふがいない父を許してくれ。帝国へ行きなさい。伯祖母を頼れば悪いようにはされないと思う。もう会えないかも知れないが強く生きなさい。愛しているよソフィー」
ふ~やっぱりこうなりましたか。すでにお父様は諦めてらっしゃるようだけど、兵力がない現状ではどうしようもありませんわね。わたしは諦めませんけど。
「ニンフェア、お父様からの命令です」
「はっ」
ニンフェアが私の前に膝まづき頭を下げます。お父様の命令なんて聞けません。わたしは家臣ではないもの。
「ナターレを奪還します!」
「拝命いたします。我が主よ、はぁ」
・・・ため息ついたの見てましてよ。




