39話:毛布が一枚
「ソフィー様、ソフィー様」
ニンフェアの声が聞こえます。天蓋付きの柔らかいベットの上で、ブロッコリーの形をした抱き枕にしがみついていたら、ニンフェアが身体をゆすって起こそうとしてきます。
「う、うぅ~ん・・ぁ・・・ニンフェア・・・お時間ですかぁ?」
「ええ、大丈夫ですか?」
堅くて冷たい地面の感触に一気に現実に戻りました。夢だったのですね。
夢の中でも寝てましたね、わたし・・・しかしなんでブロッコリー?
「あ、はい。見張り交代しますね」
まだ頭がぼーっとしますね。座り込んだまましばらく立ち上がれませんでした。3時間で起きるなんて迷宮に入るまでありませんでしたもの・・・
「じゃあ、休ませてもらうけど何かあったらすぐ起こしてよ」
「ええ、おやすみなさい」
ニンフェアは背嚢から毛布を取り出して、プルーニャの側で丸くなって眠りました。
焚火は少し大きい炎を上げ、側に薪が積まれています。ニンフェアがわたしを起こす前に用意してくれてたみたいです。
ブルッ・・・
迷宮での一番厄介な生理現象がやってきました・・・背嚢を持ってこそこそと焚火から距離を取ると、少し先に砂の山がありました。ニンフェアが使った跡ですね。アレクと分かれて少しマシにはなりましたが・・・やはりこんな所でするのは慣れませんね・・・
薄暗いですが一応背嚢を前に置き目隠しをすると、しゃがみ込みました。
背嚢から砂袋を取り出し、上からかけて隠します。
「まさか、迷宮で一番困るのがこんなことだったなんて・・・」
ジニアに重たい砂袋を持たされた時は途中で捨てようかと思いましたが、今はもっと入れておいて欲しかったと思っています・・・
焚火の側まで戻り腰を下ろします。
よしっ!見張り役を任されました!がんばらなくては。わたしは鼻息も荒く初めての見張りを頑張るのです!
22階でお二人が寝落ちされた時に見張りをいたしましたが、あれは任されたわけではないので、仲間として見張りをするのは初めてなのです。
さて、見張りですね・・・何をすればいいのでしょうか?・・・見張りと言うのですから何かを見てないといけませんね。な・に・を・み・れ・ば・・・いいのでしょうね・・・きょろきょろと周りを見回しますが何もない部屋ですね。
思いつかないので装備品のチェックでもしてましょうか。
側においてある背嚢を引きづってきて中身を取り出します。そういえばプルーニャの魅力のイヤリング以外まともな鑑定をしていませんね。
豪運の腕輪(能力ランク上昇)、隷属の首輪(奴隷支配)、俊足の足輪(俊敏微増)、光のイヤリング(光爆発1回)、忘却の髪飾り(記憶消去)、水精霊の加護(水の精霊召喚微ダメージ)
この中から一つルカ君に貰ってもらわねばなりません。良いアイテムがあればいいのですが。
さてまずはどれから鑑定しましょう?まあ順番にしていきますか。
豪運の腕輪(能力ランク上昇):使用すると基本能力のどれかを1ランクあげることができる。
つまり力Cの状態で使えば力Bになるということですね。レベルを上げても中々上がらない能力値ですからかなり貴重なアイテムですね。ルカ君が欲しがるでしょうか?
隷属の首輪(奴隷支配):この首輪を嵌められた者は嵌めた人物に隷属する。奴隷にすることができる。
怖っ!!奴隷がいることは知っていますし、エリカの町にも奴隷市場があります。犯罪奴隷などは鉱山などで働いていますから必要悪なのかもしれませんが、身近な人が奴隷になるかもと思うと恐ろしいですね。プルーニャも奴隷らしいですし・・・
ルカ君・・・まさか欲しがりませんよね?・・・
俊足の足輪(俊敏微増):装備中能力の俊敏が10%上昇する。
そのまんまですね。そういえば能力のCやDというのは大まかな表示であって、正確にはDの70%、Cの25%というのが正確です。100%になるとランクアップするわけですね。10%というのは体感できるかどうか微妙なラインです。
光のイヤリング(光爆発1回):衝撃を与えると爆発的に光が溢れ目が眩む。
眩しい爆発ですか。役に立つんでしょうか?しかも1回こっきりの使い捨てですね・・・
忘却の髪飾り(記憶消去):装備した者の記憶の一部が消去される。消去される記憶は最近受けた衝撃的な記憶とその前後で指定はできない。
ん~~~~~・・・これはちょっと危険な香りがしますね・・・消える記憶が曖昧です。忘れたくないことも消える可能性がありますね・・・ルカ君は消したい記憶があるでしょうか?
水精霊の加護(水の精霊召喚微ダメージ):水の精霊召喚が出来るイヤリング。周辺に水が多いほど多量の精霊が召喚され微ダメージを与えることができる。川や湖で召喚しても魚が死ぬほどではない。
え~っと、これ何に使えばいいのでしょうか?川に投げ込んでもお魚が捕れるわけでもないようですし、召喚してお話しでもできるのでしょうか?イヤリングですしルカ君にあげましょうか・・・
この中ですと豪運の腕輪、ですかね~
あとはプルーニャとニンフェアの背嚢に入っている20階のボスのお宝ですね。
ちらっとお二人を見ますがよく眠っているようです。鑑定するくらいいいですわよね。
二人の背嚢からボスのお宝を出して鑑定します。
「よいしょっと。【鑑定1】っと」
そろそろ時間かニャ?見張りが始まってからソフィーがずっと”鑑定”してるニャ。詳細も知りたかったしちょうどいいかもニャ。
「にゃ~ふにゃふにゃ」
「あ、プルーニャおはようございます」
「おはようニャ。ソフィー”鑑定”してるのニャ?」
「え!?ええ、やることがなかったものですから・・・」
ソフィーが手をもじもじさせながら明後日の方を向いて言い訳を始めたニャ。
「まあ、見張りにゃんてそんにゃもんニャ。にゃにか良いアイテムはあったかニャ?」
「そうなんですかね?ガーゴイルのお宝は鑑定終わりまして、ルカ君が欲しがるものがあるといいのですけど。微妙な物が多くて・・・」
まあ、大雑把にゃ鑑定結果は見てるしニャ。豪運の腕輪(能力ランク上昇)くらいしかいいのがにゃいかニャ?
「ボス蜘蛛の方は今終わりまして、やたら毒攻撃武器が多いですね・・・」
「毒攻撃武器か~あまり役にはたたにゃいかニャ~?」
「まあ、一撃で倒せると意味はないですよね・・・」
持って帰っても影の仲間が喜ぶくらいかニャ~。店売りして毒武器を広めるわけにもいかにゃいしニャ・・・
「毒関係なくいいのは、この弓矢くらいでしょうか?」
影縫の弓矢:影に当たるとその者の動きを止めることができる。当たった場合は普通の矢と変わりない。矢は無限。
みゅ~足止め用かニャ~?ソフィーに使わせるくらいしかにゃいけど。弓の練習がいるニャ・・・
「んに?そろそろかニャ?」
「プルーニャどうかしましたか?」
「ちょっと狩ってくるニャ」
ふっと目の前のプルーニャが消えました。あ、あれ?どこですか?振り向くとプルーニャがいました。
ちょうど沸いたばかりの魔物を倒したようで、最初の時と同じく魔物の姿を見ることすらできませんでした・・・
「んじゃソフィーは朝まで寝ててニャ」
「ええ、そうしましょうか・・・あら?毛布が一枚しかありませんけど・・・」
確かわたしとプルーニャは一枚で寝てましたけど、ニンフェアとプルーニャは別々だったはず・・・ついさっきまでそこにあったプルーニャの毛布は・・・
「じぃ~~~・・・ニンフェア、起きてますね・・・」
ビクッ
「・・・毛布を出してください」
「で、でもプルーニャだってソフィー様と・・・」
ニンフェアが訳の分からないことを言ってきます。
「ニンフェア、毛布をだ・し・て・く・だ・さ・い」
「・・・はい」
ソフィーの笑顔のお願いは強烈だニャ・・・
ソフィーが毛布を奪い返してわたしの側に歩いてきてゴロンと横になったニャ。ニンフェアがわざとらしく「しくしく」と言葉に出して言ってるニャ。ソフィーとスキンシップを取りたいんだろうけど、露骨すぎるのニャ。「今度こそ・・・」ニンフェアの小さな呟きをわたしの猫耳が捕らえたニャ。・・・懲りにゃいニャ~。
さて、朝まで武器の手入れでもしようかニャ。




