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38話:アレクとルカ君の迷い

「ふぃ~おいしかったニャ~お腹(おにゃか)いっぱいニャ~」

「ニンフェアかなりお料理上手になりましたね。おいしかったですよ」

「ソフィー様に喜んでいただければボクも満足だよ」


 ゴロンと横になったプルーニャのしっぽがユラユラ動いている。本当においしかったようだ。

 イモリの黒焼きの粉とミミズの干物も、うまく使えばおいしいと言ってもらえるんだな~。


「少し休憩したら先を急ぐよ。アレクたちが心配だし」

「そうですね。無事だといいのですけど・・・」


 そう言って振り返ったソフィー様の視線の先には、ボス蜘蛛が残した大量のお宝が山積みになっています。そして()()()()も・・・どうしたもんだか・・・





「この中部屋はまだ入ったことはないか」

「そうですね。わたしもありません」

「ん?あんたら別行動してたのか?この4階で?」


 俺とルカ君の会話にトリフォーリオが割って入ってきた。小声で話していたつもりだが聞こえていたようだ。


「ああ、俺たちは護え・・・」


 ルカ君に足を踏まれた。そうだな、ソフィー様のことは話さない方がいいか。


「他にも仲間がいるんだがはぐれてしまってな」

「へ~ということはアレクたちより強い奴が最低でも二人いるってことか」


 トリフォーリオが妙に鋭い指摘をする。俺もルカ君も「迷宮」の素人なのはバレている。その二人が別行動を取っていたなら、当然俺たちより強い人が二人以上いることになる。

 ニンフェアさんとプルーニャさんのことは知られても問題はないが・・・問題ないか?お二人はソフィー様の、ナターレ家の専属護衛と言っていたからあまり口外しない方がいいのか。


「そろそろ入りませんか?こんな見通しの良い所にとどまるのは・・・」


 ルカ君が左右の通路を警戒しながら助け舟を出してくれた。トリフォーリオが何か言いたげだったが気づかないふりをする。


「よし入るぞ!」


 扉を押し開け部屋の中を確認する。薄暗い部屋だが不思議と真っ暗ではない。廊下もほのかに明るくランプがなくても歩けないことはない。不思議なつくりだ。

 ざっと中を見渡すと奥の壁際に白い塊が5つ見えた。居たっ!


「ウサギ5!見つけたぞ!」


 俺はすぐさま右に移動しウサギを引き付ける。いつものようにトリフォーリオとルカ君が数を減らすために突撃し、火力の高いルカ君が狙われると、それを俺がスキルで引き付ける。


「【聖騎士2】!」

「【火炎2】!」

「うらあああ!」


 もう何度も繰り返した戦い方で5匹くらいでは傷を負うこともない。間もなく5匹のウサギが消滅し地面に「肉」が転がる。


「アレクさんお「肉」がでましたよ。2つです!」


 ルカ君がうれしそうにお「肉」を抱えて戻ってきた。それを見てふと気になった。なぜ迷宮で食料がでるのだろう?何のために?・・・魔物同士は共食いをしない。そもそも倒すと消えてしまうのだ。食べることはできない。

 わざわざ冒険者の為に用意している?そんなはずはないか。


「いいぞ!これなら1日で6、7個はいけるはずだ」

「順調だな」


 切り替えよう。今はこの食料が俺たちの命綱だ。あって困る物でもないしな。よし!


「ここを中心に周囲の部屋を探索しよう。次に沸くまで6時間あるからな」


 もう4階は問題なくなっている。食料の調達ができたら5階へ行こう。早くソフィー様を助けなければ。

 夜までウサギ狩りをするとガーゴイル部屋に戻り、いつものように3交代で眠ることになった。一番魔力を使い疲れているルカ君とトリフォーリオが先に眠り、俺が最初に見張りに着く。部屋の隅で焚火を起こしルカ君は俺の後ろ、焚火の影で眠り、トリフォーリオは焚火を挟んだ反対側で眠る。特に何事もなく3時間たった頃トリフォーリオが起きてきた。


「そろそろ時間だろう、代わろう」

「ああ、すまないな頼む」


 俺がルカ君から数歩離れた場所で毛布にくるまり横になると、トリフォーリオが話しかけてきた。


「なあ、アレク。お前たちはこれからどうするんだ?」

「仲間を探しに下に降りるつもりだが」

「知ってるか?この迷宮の入り口が閉ざされていることを」

「あ、ああ・・・知っている」


 実際には見てはいないが、侯爵軍の目的は「迷宮」の閉鎖だとニンフェアさんが言っていたな。


「俺は一度1階の入り口まで行ったが、どっかの軍隊が入り口を見張っていたぞ。外に出たやつらはみんな捕まり連行されて行ったよ。まるで犯罪者扱いだ」

「ん?迷宮の扉が閉まっているんじゃないのか?」


 閉鎖・・・ではないのか?扉は開くのか。やっぱりって感じでトリフォーリオが見ている。


「「迷宮」は初めてらしいな。入り口は両開き戸で中に向かって開くから、閂でもしないと中に向かって開いてしまう。「迷宮」には細工が出来ない。釘を打つこともできないし閂も取り付けられない。だから入り口を閉めても鍵をかけられないんだよ」


 そうなると強行突破も不可能ではない、か・・・ニンフェアさんたちと合流さえできれば。


「なあ、アレクの仲間は本当に生きているのか?」

「なに!?」


 聞き捨てならないことを言われ、俺は毛布を払いのけた。


「おいおい、気を悪くしないでくれよ。状況を考えれば多少の推測もできるさ。この4階でまともな戦い方も知らないアレクたちが生き残っていること。アレクたちより強い仲間とはぐれたこと。そしてこの特殊な魔物が沸かない部屋に、後ろの大穴ときた」

「・・・」

「落ちたんだろ?その穴に」


 すべて見透かされている。何を言ったらいいんだ。ニンフェアさんとプルーニャさんがいればきっと・・・


「ええ、そうです」

「!?ルカ君・・・」


 急にルカ君が話に割って入ってきた。ルカ君を起こしてしまった。いや、起きていた?・・・

 ゆっくりと身を起こし背中をむけたままトリフォーリオに話しかける。


「わたしたちの命の恩人です。なんとしても助けなければ」


 トリフォーリオがルカ君の背中をじっと見ている。


「なるほどな。アレクとルカの目的はわかったよ。だが現実問題これ以上下層に行くのは不可能だ。この先恩恵を持っている魔物が出てくる。今までの戦い方では恩恵を使われたら死人がでるぞ。1人でこの階層くらい倒せるようにならないと10階層のボスは倒せないしな」


 ボスなんてものがいるのか・・・10階層なんて遥か先だが・・・


「穴を見たら分かるが軽く10階層以上の高さがある。普通に考えたら落ちただけで助からない。万一生き残っても誰も行ったこともない11階層より・・・下だ」


 ルカ君も言葉が出ないようだ。俺もなんて言ったらいいかわからない。


「この「迷宮」が発見されて2年以上経つが、それでも10階より下に行けた者はいない。6人から10人のチームを組んでもダメなんだ。俺たち3人で行こうとしたら10年かかってもいけるかどうかだよ」

「何か・・・方法はないんでしょうか?・・・」


 ルカ君はなおも諦めない。


「地上に戻ろう」

「そ・・・」


 トリフォーリオの言葉にルカ君が振り返って抗議の声を上げようとするが、トリフォーリオは手を突き出してルカ君の言葉を止める。


「地上に戻って軍隊を派遣してもらえ。それしかない」

「それ・・・しか・・・」


 ルカ君が項垂(うなだれ)れてしまった。確かに俺たちは弱い。

 ニンフェアさんやプルーニャさんはこの階層でも、10匹の魔物をものともせず軽く倒していた。しかし俺たちは5、6匹の魔物でも戦術を駆使し3人協力してやっと倒している。

 ・・・やはり戻るしかないのか?・・・


「「迷宮」に潜っている奴は大半が地上で捕まっただろう。1週間もの食料を持って入っているやつなんていないからな。警戒もそろそろ緩むはずだ。脱出するなら今しかないぞ」


 脱出して侯爵軍に捕まっても、救援部隊を派遣してもらえるならその方がいいのだろうか?ルカ君も考え込んでいる。ソフィー様の為にはどちらがいいのか・・・


「少し・・・考えさせてくれ」





「階段だ!次は15階か・・・」

「疲れましたわ・・・」

「そろそろ寝ようニャ・・・眠くにゃってきたニャ」

「そうだね・・・時間感覚がおかしくなって今が昼なのか夜なのか分からなくなってきたよ」


 一息ついたので先ほどの20階のボス部屋のことを思いだした。そこには確かに()()()()があったのだ。

 ボスを倒すまでは見当たらなかったのに倒すと現れる隠し部屋。かと思いきやどうやらボスの攻撃で隠し部屋の扉を偶然破壊したらしかった。・・・普通に考えれば宝物庫を想像するのだけど、どうも様子が変だった。


 中は「迷宮」の大部屋くらいあり、不思議な模様が描かれた光る輪が、地面に9つ描かれていた。ソフィー様の”鑑定”の時に出来る輪に似ているような気もする。

 試しにソフィー様が”鑑定”を行ったが()()()()そうだ。今までソフィー様が”鑑定”できなかったものはない・・・もう少し調べたかったけどアレクたちが心配なため今回は諦めることにした。いつか調べてみたいね。


 その後20階のボス部屋から一気に16階まで上がってきた。

魔物が弱くなったのとソフィー様の付与魔術で強くなりすぎたため、足を止めることがなくなったのだ。出てくる魔物はプルーニャが一瞬で光の粒に変えソフィー様が頭に浮かぶ地図を見て案内をする。そのソフィー様をボクが背負いわずかに浮いて空中移動をしてきたのだ。全力疾走で(時々ソフィー様が道を間違えながらも)無駄なく来たため半日で4階層を突破した。


「このペースなら明日には4階に戻れるんじゃないかしら?」

「そうだね。おそらく10階がボス部屋だろうけど今のボクたちなら問題ないかな」


 15階に上がり近くの部屋に入る。すでに休憩用に小部屋を探す必要もなくなっていた。魔物が3匹でも10匹でも誤差でしかないからだ。


「ひーふーみー7匹くらいかニャ?いってくるニャ」

「気を付けてください」


 ソフィー様を背中から降ろしプルーニャを見てみると歩いて戻ってきていた。その背後には淡い花火が7つ咲いていた。


「んじゃ先に寝るにゃ~ソフィーも一緒に寝るニャ」

「ちょっと、恥ずかしいんですけど・・・」


 プルーニャがソフィー様の手を引っ張って毛布の中に引っ張り込む。


「お姉ちゃんの言うことを聞きにゃさいニャ。あ~あったかいニャ」

「変なとこ触らないでくださいよ・・・」


 なんだかんだ言いながらもソフィー様はプルーニャの毛布にもぐりこんだ。悔しい・・・鼻血が出そうだ。プルーニャめ・・・


「ニャ?」


 ちっ殺気に気づかれたか・・・


「それじゃニンフェア、お先に休ませてもらうわね」


 毛布から顔だけ出したソフィー様が恥ずかしそうに言う。


「すみません。一番きつい2番目をまかせてしまって・・・」


 2番目は睡眠を2回に分けるため一番負担が大きい。それなのにソフィー様はボクとプルーニャに気を使って志願した。


「わたしはニンフェアに背負ってもらって楽させてもらってますから。それに・・・仲間・・・ですし」


 ソフィー様はすっかり「仲間」が恥ずかしい言葉になっている。耳を真っ赤にして顔まで毛布にくるまった。


「お、おやすみなさい!」


 ソフィー様は元気いっぱいに眠りについた。恥じらうソフィー様・・・ごちそうさまです!

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