幕間7話:ステッラの治療
先ほど投稿ミスがありご迷惑をおかけしました。すでに修正いたしましたので楽しんでいただければ幸いです。
「トゥリパーノ!わたしを置いて逃げてくださいっ!!」
「しゃべるな!体力を消耗するぞ!次に同じことを言ったらお前の唇を塞いでやるからなっ!」
地下9階層で仲間の前衛2名を失った。俺は後衛の弓職だし、ステッラも後衛の恩恵職。
1匹2匹ならともかく、10匹以上に追われては逃げるしかない。
ようやく地下4階まで戻ってこれたが、女性とはいえ人一人を背負って走るのもすでに限界だ。膝に力が入らず、足を真っすぐ地面につけないと膝から崩れ落ちそうだ。
俺が魔物を引き付けても足を負傷したステッラは走れない。俺の後に餌食になるのは目に見えている。
とにかく階段まで走るんだっ!!
その時目の前の通路の角から足音が響いてきた。回り込まれた!?
「間に合った!オルテンシア援護頼む!」
「了解しました」
人間だ!助かった・・・と、思うとともに引き連れた魔物を押し付けてしまうことに・・・マズい!
「ぜぇぜぇ、す、すまない!トレインした・・・」
「ごめんなさい!」
「いいから寝てろ!【衝撃波1】!!」
突然現れた同年代の少年は木刀を持っていた。迷宮で・・・武器が木刀!?
そう思ったが、彼が振るった木刀の剣線に沿って衝撃波が飛び、先頭の魔物を吹き飛ばす。立て続けに3度振るうと魔物が3匹吹き飛び、他の魔物を巻き込んで魔物が立ち往生した。
「【光線1】」
少年と一緒にいた年上のお姉さんは遠距離恩恵持ちのようで、見たこともない恩恵で魔物の頭を吹き飛ばす。
すごい・・・どこかのお貴族様の侍女のようなメイド服を着ているが、なぜこんな迷宮に?・・・
「オルテンシア!後ろのデカブツを狙え!前はまかせろっ!」
「了解しましたマスター」
少年が流れるような動きで魔物の頭を狙い破壊していく。速い!動きはどこかぎこちないがとにかく攻撃が速く、無駄な動きをものともせずに魔物を屠っていく。
引きつれた魔物の中でも特に強いオークジェネラルは、頑丈な鎧を着こみ巨大なハルバードを持っていたが、メイドのお姉さんの恩恵の一撃で地に伏した。
ほどなくして10体以上いた魔物たちはすべて消え去り、少年とお姉さんだけが残った。木刀を一振りして魔物の体液を吹き飛ばした少年がゆっくりと近づいて来る。
「あ~・・・コホン。オルテンシア・・・」
「はぁ、これだから引きこもりは・・・」
「うるさい!」
なんだ?
「わたしはオルテンシアと申します。こちらはわたしのマスターです」
少年が軽く会釈をしてくる。マスター?この少年は貴族なのか?
「あなた方は?」
「あ、ああ、助けてくれてありがとう・・・ございます。俺、わたしはトゥリパーノ・ナターレ。冒険者だ、です・・・」
「危ない所を助けていただいてありがとうございます。わたしはステッラ・デル・ヴィユノークと申します」
貴族への接し方がわからない。生まれてこの方貴族と話をしたことなんてないからな・・・
「足を怪我していますね。【鑑定1】・・・複雑骨折ですね。処置しなければなりません。マスターこの方を運んでください」
「えっ!?おれ・・・?」
このヘタレは・・・人見知りの上に女性に免疫もないとは・・・何をモジモジしているのでしょう。
「トゥリパーノさんはここまで逃げてきて疲労困憊です。一人で歩くのも難しいでしょう」
「いや、わたしが背負う・・・ます。危険な迷宮で迷惑はかけられません」
「ムリです」
「あぅ!」
トゥリパーノさんの腿を軽く蹴飛ばすと膝から崩れ落ちました。抱き起す振りをしながら二人に近づき、
「わたしのマスターはヘタレなので心配はありません。少し女性の免疫をつけさせたいのです。協力してくれませんか?」
「・・・あ、ああ」
「えっと、はい・・・わたしでいいんでしょうか?」
軽く頷き立ち上がりマスターに命令します。
「マスター命令です!ステッラさんを抱っこしてください!」
「い、いえっすまむっ!!」
マスターがとてもキレイな敬礼をなさいました。
「え・・・と・・・どうすれば・・・」
「足を複雑骨折なさっています。揺らさないようにお姫様抱っこで」
「お、おおお、おうっ!」
「すみません、お願いします」
マスターが油の切れたブリキおもちゃのように、カクカク動いてステッラさんを持ち上げます。
「・・・重くないですか?」
「いえっ!ぜ~んぜんっ!!」
実際マスターは軽々と持ち上げています。レベル相当の腕力になっているので問題なさそうです。
「トゥリパーノさんは歩けますか?」
「ああ、なんとか・・・」
わたしを先頭にステッラさんを抱っこしたマスターと横にトゥリパーノさん。索敵スキルを持っているので、後ろの警戒は必要ないと教えました。
途中何度か魔物の襲撃がありましたが、もはや鎧袖一触で進む速度は変わりません。
ついに地上への階段まで戻ってきてマスターがひょいひょい登っていきます。
「ぜぇぜぇ・・・」
「肩を」
「あ、ああすまない」
トゥリパーノさんに肩を貸し最後の階段を登りました。
迷宮の入り口は町の中にあり、外に出ると町の広場に出ます。
外はいつのまにか夜明けになっていて、城壁の影が遠くまで伸びています。
「これは、いったい・・・?」
辺り一帯焼野原・・・それを見たステッラさんが呆然と呟きます。
「これは・・・何が起こったんだ・・・火事?・・・」
「お二人はいつから迷宮に潜っていたのですか?」
「それより・・・ああ、丸5日だな・・・」
「この町は魔物に襲撃され、ウィルス・・・疫病の蔓延で滅びました」
続いて外に出たトゥリパーノさんも呆然としています。簡単に説明しますがすぐに受け入れるのは難しいでしょう。
「たった5日で?・・・そんな馬鹿な・・・」
「そういえば修道院で原因不明の熱病が流行っているって・・・」
「とりあえず話は後にしましょう。ステッラさんの治療をしなければ」
怪しすぎる・・・
怪しすぎるが・・・
「マスター、足を押さえておいてください」
「こ、こここここ・・・こうか・・・?」
「鶏じゃないんですから、ここここうるさいですよ」
貴族とメイドかと思ったが、貴族をこんな小間使いのように使うメイドがいるわけがない。
「部分麻酔をしますから意識はそのままですが、傷口は見ない方がいいですよ」
「・・・だ、大丈夫・・・ですか?・・・」
ステッラが少し不安そうに問いかける。
「わたしは医者でもありますから安心してください」
女性の医者って・・・そんなのいるわけないだろ!?
いるわけないが・・・少しでも医術の心得があるならまかせるしかない・・・
痛み止めの薬草を噛んでたおかげで冷静でいるが、痛みで泣きわめいてもおかしくない傷だ・・・
何か針の付いた筒状の物を足の数か所に刺している。中の液体を体内に入れているみたいだ・・・
俺は密かに腰のダガーに触れ、何かあったらいつでも止められるようにする。
「触っている感触は分かりますか?」
「かすかに・・・」
「ではここは?」
「・・・感じません」
「麻酔が効いてきましたね。痛みはないですからトゥリパーノさんと会話でもなさっていてください。腰のダガーを抜かないようにって」
!?気づかれていた・・・
「トゥリパーノ、信じましょう」
「・・・ああ、すまない・・・」
ダガーから手を放しステッラの顔の横に座る。
「その・・・オルテンシアさん・・・」
「仲間想いですね。用心するのは良いことですよ。うちのマスターにも見習ってほしいくらいです」
「ディスるのやめてくれよ!いっぱいいっぱいなんだから!」
少し複雑だが・・・マスターさん、手が震えてるぞ。それ以上腿の上を触ってくれるなよ・・・
ステッラのひざ関節の少し上を縛り、マスターさんが腿を押さえている。脛からは骨が飛び出し肉もズタズタだ・・・地下9階のサーベルタイガーに噛まれた傷だ。
「では始めます」
この女を信用するしかない・・・
「・・・縫合完了。術式終了です。ステッラさんもう大丈夫ですよ。よくがんばりましたね」
「ありがとうございます、オルテンシア様。神に感謝を」
医者というのは本当なのかもしれない。いや、こんなすごい医者を見たことがない。流れるような淀みない手際で、飛び出ていた骨を戻し繋ぎ合わせて、傷を丁寧に縫い合わせていた。最初に傷を見た時、これはもう歩けないと思っていた。回復の恩恵も時間が経つと効かなくなる。間に合わないと思っていた。それが・・・
「オルテンシア様、感謝いたします!今までのご無礼、平にご容赦ください!」
俺は土下座をして詫びた。あれだけの強さを持ちながら医者としても超一流・・・この人には一生頭が上がらないだろう・・・
「気にしないでください。わたしの出来ることをしただけです。ところで」
一旦言葉を区切られたので顔を上げると。
「この町を燃やしたのはマスターです。どう思われますか?」
「ちょおおおおいっ!!言い方!!」
この町を燃やした?・・・ちらっとステッラを見ると微笑している。ふふふ、なるほどね。
「わたしを試さなくても大丈夫ですよ。何かわけがおありなんですね」
「ええ、話が早くて助かります。やはり先に治療してよかったですね。ね?マスター」
「心臓にわりいよっ!!」
マスターさんは小心者かな?でも悪い奴じゃなさそうだ。




