34話:迷宮の戦い方
「おれは・・・自首するからたすけ・・・」
「だまれよ・・・」
仲間への最後の別れをしているのだろう。重症の男が震える手を槍の男に伸ばす。
槍の男が左手でその手を取ると、右手で腰からダガーを抜き重症の男の首に突き刺した。苦しみから解放させてやる為とは言え、仲間にトドメを刺さなければならないのはつらいだろう・・・
ダガーについた血を拭い鞘に納めると両手を組んで祈りの言葉を紡ぐ。
槍の男が俺たちの方を振り返り近寄ってくる。
「もういいのか?」
「ああ、助けてくれてありがとう。俺はトリフォーリオ、冒険者だ。あんたらは軍人さんかい?」
軍服を着ているからな。説明するまでもないだろう。
「ああ、俺はアレサンドロ、彼はルカだ」
「亡くなった方に祈りを捧げたいのですが、よろしいですか?」
トリフォーリオが一歩横にずれ右手でうながしてくる。
「ああ、頼む」
ルカ君と二人で並び右手を胸の前で横にして目礼する。軍隊式の弔い方だ。
「「ヴァルホルへの先人よ。どうか次なる地でも健やかなることを」」
先に亡くなっていた二人にも祈りを捧げるとルカ君の炎で火葬にした。そのままでは6時間後に沸く魔物に食べられてしまう。それはさすがに忍びない。
さて、残りの食糧のこともある。いつまでもここにいるわけにはいかない。
「トリフォーリオ、俺たちはこれから上の3階に向かい”レベ・・”神力を得るつもりだ。ついて来るか?」
「その強さでか?・・・3階ではもう神力を得られないんじゃないか?」
3階では無理?何か知っているのだろうか・・・
「どういうことだ?」
「軍人さんの強さならここが適正の狩場だからだよ」
「教えてください。わたしたち2人ではここは厳しいのですがこれで適正なのですか?」
トリフォーリオが呆れた顔をして続ける。
「本来なら6人くらいで狩るのが普通なんだ。2人で狩れるなんて、軍人さんが4人いれば5階でもいけるんじゃないかい?」
「これで適正・・・しかし、魔物が2匹でも無傷で勝つのは難しい。6人いても4匹、5匹でてきたらおしまいじゃないのか?」
ここまで戦ってきた感想を言うと、トリフォーリオが口の端をほんの少し持ち上げニヤリとする。
「軍人さんは人間相手の戦い方をしているからだよ。ここではやり方が違う」
それからトリフォーリオがここでの戦い方を教えてくれた。今までのニンフェアさんやプルーニャさんの戦い方が異常だったのだ・・・考えてみれば当然か、どの魔物もすべて一撃で倒していたのだから。戦術の必要がなかったのだ。
「この部屋くらいがよさそうだな。準備はいいかい?軍人さん」
「その軍人さんはやめてくれないか、俺はアレクでいい」
「わたしもルカと呼んでください」
トリフォーリオの口調からは軍人が嫌いなんだろうな、というのが滲み出ている。実際この「迷宮」は軍人によって封鎖されている。冒険者を閉じ込めたまま・・・
「わかったよ。打ち合わせ通りになアレク、ルカ」
「おう!」
「はい!」
俺たちは先ほどの小部屋からすぐそばの中部屋の前に来ている。トリフォーリオによればこの部屋くらいでいけそうらしい。
「いくぞ!」
部屋の中に飛び込み状況を確認する。最初に俺が入り敵の数を見て右に行く。
「敵3!ネズミだ!」
ネズミたちが最初に入った俺に狙いをつけ右に移動を始める。トリフォーリオがまっすぐ突撃し一番左にいるネズミの足を不意打ちでダメージを与える。続けてルカ君が飛び込み真ん中のネズミに攻撃を仕掛ける。
「【火炎2】!」
真ん中のネズミが火だるまになり一番右のネズミにも被害を与えた。仲間がやられたのを見てトリフォーリオが相手をしたネズミと一番右のネズミも攻撃相手をルカ君に定めた。
ネズミがルカ君を見て動きが止まった瞬間、トリフォーリオが背後から左のネズミを仕留め、右のネズミがルカ君に突進し始めたところでルカ君が下がる。
「【聖騎士2】発動!」
ガクンっとネズミの動きが止まり、俺の方を見た。再び動きが止まったところを狙いルカ君が炎を浴びせる。半身を焼かれているネズミにトリフォーリオが三又の槍でトドメの一撃を入れた。真ん中のネズミが光の粒になり続けて左、そして今息絶えたネズミが消え、戦いは終わった。
「無傷か・・・」
「なるほど、こんな戦い方が・・・」
俺は今まで最初に【聖騎士2】で敵を引き付けていたが、それでは一斉攻撃を受けて俺のダメージが蓄積する。
今回の戦いは”スキル”で強制的に敵を引き付けるのではなく、俺自身をおとりとして敵を引き付けその間に数を減らす作戦だ。
魔物は最初に部屋に入った者を獲物に定め襲ってくる性質があるので、俺が右に引き付けその間に攻撃役が敵の足を止める。
ルカ君のように一撃で倒せるならそれでよし、無理ならトリフォーリオのように足を狙い機動力を奪う。
そして仲間に大ダメージを与える者が現れると、魔物はそちらに狙いを切り替える。
狙われなかったトリフォーリオがまた足を止めさせるか数を減らす。ルカ君が攻撃される前に魔物を引き寄せる”スキル”を持つ俺が狙いをこちらに向かせ、魔物の足を止めさらに数を減らす。
このように魔物を右往左往させ動けないようにさせれば、無傷で勝つことも可能なのだ。
確かにこれは人間相手ではうまくいかない戦い方だ。魔物の性質をうまく利用した「狩り」なのだ。
それから何度か中部屋で3~5匹の魔物を相手に練習し完勝するのだった。
「アレクもルカも強いな。3人でやるには少しきついかと思ったが」
「戦い方を変えただけでこれほど楽になるとは思わなかったよ」
「そうですね、今までアレクさんに負担をかけすぎていたと分かりました。どうぞ」
「ありがとう」
ルカ君が作ったウサギ肉のシチューを頂く。あいかわらずうまいな。
「ルカ君がいなければここまで生き残れなかったよ。戦闘の面でも食事の面でも」
ルカ君が微かにほほ笑んだ。初めて会った時は華奢な男だと思ったが、今ではかわいい女の子にしか見えない。気のせいか仕草も柔らかくなり男っぽさが微塵も感じられない。これではトリフォーリオにもバレているかもしれないな。
俺たちは結局ガーゴイル部屋に戻り、ここを拠点に”レベル”を上げることにした。おそらくガーゴイルが沸くことはないが、念のため3交代で眠りについた。
明日からの目標は中部屋のウサギだ。トリフォーリオが食料を持っていなかったので、俺たちのウサギ肉をわけると残りは3日分。
ニンフェアさんやプルーニャさんのような10匹、15匹は無理なので、5匹以内のウサギを見つけなければ。
 




