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33話:プルーニャお姉さま

「でも今はソフィー様・・・いえ、ソフィーはわたしの()()だと思ってるニャ!」


 ああ・・・わたしが欲しかったのは、この言葉です・・・

 もう我慢ができません。涙が次から次へとこぼれていきます。


「あ、あ・・・」


 ありがとうございますと言いたいのに、涙腺が壊れてしまい言葉がでてきません・・・

 ニンフェアがオロオロしてわたしに手を伸ばそうかどうしようか迷ってるみたいです。

 プルーニャが欲しかった言葉をくれました。ニンフェアも主人の娘ではなく、わたしを主人と思ってくれたことはうれしかったですが、これは別物ですね。ニンフェアごめんなさい。プルーニャの言葉の方がうれしいです!

 心の一部はこんなに冷静なのに、涙というものは表層の感情をかき乱してくれます。


「ひっく・・・あ、あり・・・ひっく・・・」


 そっと肩に手が触れやさしく抱きしめられました。


「ソフィー、泣かにゃいでニャ。ごめんニャ、もっと早く言えたらよかったんだけどニャ。」


 わたしはプルーニャにしがみついて泣きました。プルーニャが頭をポンポンとやさしく叩きながら続けました。


「わたしはこの大陸の生まれじゃにゃいニャ。ずっと遠い海の向こうの大陸で生まれたニャ。もう覚えてにゃいけど、小さいころに家族から離され(はにゃされ)この大陸に()()()()きたのニャ。・・・わたしは奴隷にゃのニャ・・・」


 奴隷!?プルーニャが・・・


「この大陸では珍しい猫人族だったから見世物小屋に売られて、しばらく見世物にされていたニャ。いろんにゃ所に馬車で運ばれ、ある時ナターレ領に連れてこられたニャ。”魔の森”を抜けエリカの町への移動途中で、魔物に襲われみんにゃ殺されたニャ。わたしの持ち主もニャ。わたしは逃げられないように頑丈にゃ檻に入れられてて、檻のおかげで魔物に殺されず、ジニア様の率いる影の部隊に救われたのニャ」


 驚きすぎてわたしの涙は止まっていましたが、暖かくて日向の匂いがするプルーニャから離れたくなくて、そのまま抱きつき続けます。


「それから2年ほど影の特訓を受けて、最初に与えられた任務が生まれたばかりのソフィーの護衛だったのニャ。12年見守ってきて()みたいに思えてきたけど、ソフィーは人間の貴族の娘でわたしは猫人族の奴隷ニャ。そんにゃことは言えにゃくて、護衛対象にすぎにゃいって心のどこかで言い聞かせて・・・。成長したソフィーと一緒に冒険してどんどん楽しくにゃったニャ。任務だから、護衛してるだけって思いこもうとして・・・できにゃかったニャ。だってソフィーがかわいすぎるのニャ」


 一旦止まった涙が再びあふれてきました。プルーニャ責任とってください・・・


「身分も人種も違いすぎるから言えにゃかったけど、ソフィーは仲間ニャ・・・それと、妹って思ってもいいかニャ?・・・」

「はい・・・お姉様、ありがとうございます」


 産まれて初めて仲間ができました。お姉様ができました。もう何も怖くない、何も迷わないって気がしてきました。

 ニンフェアがうらやましそうな視線を向けてきます。


「ニンフェアも、仲間にしてくれますか?」


 泣きはらした目でニンフェアを上目遣いで見つめます。


「仲間なんてそんなソフィー様に対して・・・」


 ニンフェアの目が泳いでいます。


「ダメですか?・・・」

「仲間です!」


 くすくすくす、なんて楽しいのでしょう。アレクとルカ君も仲間になってくれるでしょうか?





「ル、ルカ君?・・・」

「なんですかアレクさん」

「おかわりいただいても・・・いいかな?」

「お好きにどうぞ」


 なんだろう・・・ルカ君の様子がおかしい・・・

 やっぱりバレているんだろうか・・・()()()()()()()()()()()()()()()()・・・


 軍には男でなければ入隊できない。もちろん女性でも入隊できる部署はあるが狭き門だ。

 昨年終息した隣国との戦争で騎士団が壊滅した。一緒に従軍した歩兵部隊諸共だ。

 歩兵部隊は臨時徴収された農民兵がほとんどで各農村では男手が激減。そのため代わりに女性が農業に勤しんでいる。しかし農業での収入はわずかで給料の高い軍への入隊希望者は後を絶たない。女性が入隊できるのは事務職が主で毎年採用されるのはわずか数人。そのためどこの部署でも男装した女性軍人が少なからずいる。貴重な兵を失いたくないためほぼ暗黙の了解となっているが、バレれば除隊は免れない。

 ルカ君とはこの「迷宮」探索命令が出て初めて会ったけど、一緒に生死を共にしてきた仲間だ。隠しているなら知らないふりをしてあげないと・・・しかし「お嫁になってあげる」とは?危ない冗談を言うな・・・


「迷宮」探索6日目、すでに最後の回復ポーションも使い切り遠くへの移動は不可能になった。魔物一匹か二匹くらいならなんとか倒せるが、それ以上になったら回復手段のない俺とルカ君には厳しすぎる。現実的に考えて”レベル”を上げるにもここは強すぎるのだ。やはり上に戻るしかない・・・


「ルカ君これを見てくれ」


 地下4階の地図を広げ2か所に丸をつける。


「今の俺たちじゃ地下5階に降りるのは無理だし、この4階で戦い続けるのも厳しい・・・。食料は残り5日分、なんとか5日以内にこの4階で戦い続けられる力をつけるしかない」

「そうですね、わたしの魔力は魔石でなんとかなりますが、前衛を受け持つアレクさんの怪我は治せませんし」

「だから一旦上の3階に戻ろうと思う。この二つの小部屋で休みながら行けば3階への階段までなんとか行けるはずだ」

「通路で多数の魔物と出会うと詰みますね・・・」

「そうだ・・・しかしここにいても餓死するのを待つだけだ。3階へ行き”レベル”を上げてこの4階に戻ってくるしかない」

「・・・わかりました。それでいきましょう」


 食事を終え片づけた後ガーゴイル部屋を出て小部屋を目指す。本来は警戒しながらゆっくり進まなければならないが、時間がないことと前後から挟み撃ちにならないために小走りで行くことにした。

 10分ほど走ると運がいいことに魔物と遭遇せずに小部屋が見えてきた。扉の前で息を整えるとルカ君に目で合図して部屋に飛び込んだ。


「た、たすけてくれえええええ!!」

「「え!?」」


 小部屋には・・・・先客がいた。


 部屋の中では巨大バッタ2匹と戦う男が1人、死んでると思われる男が2人、重傷を負って助けを求める男が1人。とっさに状況が飲み込めず立ち尽くしていると、


「アレクさん!」


 はっ!・・・ルカ君の声で我に返った。


「【聖騎士2】発動!」


 その瞬間バッタ二匹が俺の方を見て襲い掛かってきた。ロングソードとショートソードの二刀流でバッタに立ちふさがり攻撃を捌く。倒すのではなく注意をひきつけるだけでいいのだ。あとは、


「【火炎2】!」


 一匹のバッタのお腹が破裂して炎を吹き上げた。もう一匹のバッタから多少ダメージを受けたが羽を斬り落とすことに成功し、地面に落ちたところでバッタの足を踏みつけ動けなくしロングソードを突き刺した。


「はぁはぁ!・・・」

「アレクさん怪我は!?」

「はぁはぁ・・・大丈夫だ・・・これくらいはかすり傷だよ」


 左腕から少し血が流れていたが傷は浅い。

 先ほどまでバッタと戦っていた男は地面に這いつくばっていたが、魔物が消えるとなんでもないように立ち上がった。ちょうど”レベル”が上がったようだ。しかし重症の男は・・・


「たすけて・・・くれ・・・」


 回復ポーションもなくプルーニャさんもいない俺達にはどうしようもない・・・これ以上苦しまないように楽にしてやることしか・・・


「あんたの仲間か?」

「え?あ、ああ・・・」

「回復ポーションはあるのか?」

「いや・・・使い切ってしまった」


 仲間が死にそうなのにずいぶん落ち着いてるな・・・助かった男はどこにでもいそうな冒険者風の出で立ちで、この辺ではあまり見ない三又槍を装備している。


「介錯が必要か?」

「・・・俺がやるよ」


 ルカ君には見せない方がいいかと思ったが、昨年の戦争に従軍した時の話を思い出し何も言わなかった。

 俺とルカ君は少し離れて仲間だけにさせてやると、槍の男が跪き最後の別れをしていた。


「おれは・・・自首するからたすけ・・・」

「だまれよ・・・」


 槍の男が腰からダガーを抜き重症の男の首に突き刺した。

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