幕間6話:管理者の子孫
「うはははは!【衝撃波1】!」
マスターの攻撃でオークが吹っ飛びました。これで3匹目ですね。オークが光の粒になると3つの魔石を残しました。
「オルテンシア、見たか!?俺のスキルを!」
「はいはい。いい子ですね」
「子供扱いっ!?」
マスターは調子に乗っています。寝てる間にレベルが36になったせいで、いくつものスキルを得ました。
確かに少しは使えるようになりましたが、それはスキルの力であって、マスターの技能はあいかわらずへっぽこです。
ここらでガツンっとお灸をすえたいところですが・・・魔物が根性なしです。
「魔物が弱いだけですから、あまり調子にのらないことですよ。マスターの秘蔵書によれば、オークが強いのは女性剣士にだけらしいですし」
「ひ、ひひ秘蔵書!?あ、あ、あれはぁ~俺のじゃないしぃ~!友達のだしぃ~!」
「友達いないじゃないですか」
「い・・・・・妹のだしっ!!」
いくらなんでもそれは・・・
現在、廃墟の町・・・廃墟にしちゃった町の迷宮地下1階にいます。
マスターはスキルを得た喜びと、初めて魔物を狩った興奮ではっちゃけています。
マスターに内緒で鑑定、索敵を行ったところこの迷宮は地下30階層、魔物の数はざっと2000匹ほどでしょうか。
一番弱いオークでレベル10ですから、人間が戦うにはかなり厳しい相手ですね。ちなみに地下20階層前後にワニ頭君がいます。レベル50くらいですね。
マスターのレベルなら、地下10階層あたりまで行かないと苦戦しそうもありません。
まあ、地下7階に階層に会わない強敵がいるにはいますが。レベル70って・・・
「さあ次いくぞ!」
「はいはい」
わたしがいればある程度は問題ないですが、ワクチン製造で弱体化していますし油断はできませんね。
それから順調に階層を制覇し、地下3階で野営することにしました。
食事を済ませたマスターは焚火を見つめながらポツリと、
「オルテンシア、ありがとうな。やっと生きてるって実感が持てたよ」
「はい」
パチパチと薪のはぜる音だけが響きます。
「元の世界を見捨てた俺はひどい奴だと思うか?」
「わたしには判断できません。ただ、あの世界は後10年も持たなかったでしょう」
「妹は・・・諦めてなかったのに・・・俺は逃げ出した」
「おかげで妹様にはずいぶん嫌われてしまいました」
本当に・・・破壊されるかと思いました・・・マスターに真実を告げただけですのに。
「テラフォーミングマシンか・・・母さんが俺たちを産む前に、アカシック・レコードにアクセスして製造を始めて20年。製造が可能なのは分かったが・・・」
「博士が亡くなられた後もナノマシンがシステム構築を続けていますが、完成までおよそ1000年の月日は必要です。博士はミトコンドリアDNAに管理者権限をインストールされていましたので、あの時点で権限があったのはマスターと妹様だけ。コールドスリープで生きながらえても、ミトコンドリアのDNA情報は超低温に耐えられません。生きて、子孫に託すしかないのです」
ミトコンドリアは女系遺伝。マスターに例え子供ができたとしても、ミトコンドリア情報はお相手の女性のもの。管理者権限は引き継がれません。妹様のミトコンドリアしか権限は引き継がれないのです。
「男性の唯一の生き残りはマスターだけ。妹様との間に子供を設けるしかありませんでしたね」
「ゲロゲロゲロ・・・考えただけでも気分が悪くなる・・・」
体外受精でも拒否反応をおこされましたしね・・・
「過ぎたことはしょうがねえ、今はこの世界のことを考えよう!まだこの世界の人類に会ったことがねえんだぞ!まさか・・・ワニ頭が人類・・・ってことはないよな?・・・」
「何をもって人類と定義するかによりますが、上の町を作ったのはワニ頭ではありませんね。索敵には死んだ人は反応しませんから詳細は不明ですが」
「こんな未開の地にこれほどの町を作ったんだ。この世界の人類はすげえぜ。まあ元の世界からすれば廃材で作った町のようだけど・・・な」
現在の惑星や星の位置関係から割り出した結果は、およそヤマト歴3265年。あれから1000年以上経過しています。
大気中のナノマシン、魔物の中にあるナノマシン・・・テラフォーミングマシンは完成しています。
妹様は決断されたのですね・・・
マスターの部屋のゴミ箱から採取した・・・
「さながら、今の人類はゴミ箱から産まれたようなものですか・・・」
「おい!いくらなんでもそれはひどすぎないか?」
ピーピーピー。
「おや?」
「ん?どうしたオルテンシア?」
「索敵に異常な反応があります」
この下、地下4階を高速で移動する2つの反応と、それを追いかける反応が14。
「近いですね、直線距離で約100m。逃げる反応が2つ、追いかける反応14を検知」
「まさか!?魔物に追われている・・・人類・・・か?」
「届きますかね。【鑑定10】!」
【トゥリパーノ・ナターレ】
人族:男
年齢:16
レベル:28
状態:疲労
【ステッラ・デル・ヴィユノーク】
人族:女
管理者特性:あり
年齢:15
レベル:26
状態:負傷
!!
管理者特性持ち!?妹様とマスターの・・・子孫・・・
「人類を発見しました。魔物に追われているようです。1名負傷」
「助けに行くぞ!階段はどっちだ!?」
即座にマスターが立ち上がりました。背嚢を背負い木刀を腰に差して。
「階段を経由しては間に合いません」
右手を床に向け円を描くように、
「【光線3】」
床を円形に切り抜き下に飛び降ります。あ、マスターを忘れました。
「よしいくぞ!」
体力皆無だったマスターが、レベルが上がって5mの高さをものともせずに飛び降ります。
走るマスターを追いかけますがじりじり引き離されます。わたしより俊敏が高くなっています。わたしの弱体化はかなり深刻かもしれません。
先を行くマスターを頼もしく思うとともに、これからもお守りすることができるのか不安を感じました。
「あ、マスターこっちです」
「うぉいっ!先に言ってくれ!!」
右に曲がろうとしたマスターを引き留め、左に曲がります。
考え事をしている場合ではないですね。まずは二人を救出してからです。
「無事でいてくれっ!!」
横に並んだマスターをそっと見つめます。いつまでも一緒に。




