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2話:オルテンシア

 残存エネルギー3.5%

 稼働可能時間250h

 ボディ損傷率58%

 自動修復機能・・・反応なし


 ・・・再起動します・・・


「あ、目が覚めました?」


 起動すると目の前にステッラがいました。標準時間で438,000時間は経過しているはずですが、最後に会った時より若返っています。というか幼い。ナノマシンを使ったのでしょうか?


「・・・ステッラ、お久しぶりです」

「あ~、わたしはジプソフィーラ・ディ・ナターレ。ステッラはわたしのおばあ様の御名前よ。そんなに似ているのかしら?」


 違いました。孫娘でした。そういえば亡くなられていたのでしたね・・・最後に会ってから50年近く経過していますが、わたしのライブラリにあるステッラとうり二つです。さて、わたしが人間ではないことはもうバレているでしょうね。切断された右腕の包帯が取り換えられていますし・・・わたしのことをどう説明すればよいか。トゥリパーノからの手紙を見せた方が早そうですね。


「失礼しましたジプソフィーラ・ディ・ナターレ様。よく似ておいでです」


 挨拶をするために身体を起こそうとしましたが腰関節からオイルが噴き出しました。真っ白いシーツに濁った黄色いオイルの染みが広がっていきます。


「ダメよ無理しちゃ!寝てていいから」


 ジプソフィーラ様がわたしの肩と背中を抑えて寝かせてくれます。仕方ないので横たわったまま挨拶をしましょう。


「わたしはオルテンシアと申します。ステッラ、トゥリパーノとは元冒険者仲間でした。トゥリパーノにこれを渡していただけますか?」

「・・・ごめんなさい。おじい様もおばあ様もすでにお亡くなりになってしまったの」


 カサッ・・・


 手に持った手紙が震える。そう・・・ですか。人の命は短いものですね。マスターが亡くなり、ステッラとトゥリパーノもいなくなった。マスターのおっしゃっていた天国という所に逝かれたのですね。わたしの身体もあまり長くはもちません。わたしが壊れても同じ所に逝けるのでしょうか。


「そうですか・・・」

「あの、このお手紙、お父様にお渡ししてもよろしいでしょうか?」


 お父様という方がステッラとトゥリパーノの実の息子なのか義理の息子なのかわかりませんが、この際どちらでも構わないですね。


「お任せします。ジプソフィーラ・ディ・ナターレ様」

「わたしのことはソフィーと呼んでくださいませ」


 控えめな花のような笑顔ですね。





「ふぅ・・・」


 お父様が読んでいた手紙を封筒にしまい、顔をあげ大きく息を吐きました。

 うれしいような悲しいような複雑な顔をしておいでだわ。


「ソフィーはもうこの手紙を読んだのかい?」

「いえ、許可もないのに勝手に読むわけには」

「読んでみるといい」


 お父様はそう言ってわたしに手紙を差し出しました。


 封筒にはA級冒険者オルテンシアへ、と書いてあり値段の張る緊急の印も押されています。

 差出人はトゥリパーノ・ディ・ナターレ。おじい様の出した手紙です。

 消印は1年前、おじい様が亡くなる直前のようです。

 ・・・ん?A級冒険者!?

 オルテンシア様ってそんなにお強い人なのですか!?A級の冒険者さんなんてナターレには1人もいません・・・迷宮に来ている他領の冒険者さんでさえ、2人か3人くらいしかいないはず・・・です・・・


 そんな人におじい様が出した手紙って・・・


『親愛なるオルテンシアへ

 君は今でも元気に活動しているのだろうか?

 あいつが逝ってからもうすぐ50年になるな。

 3年前にステッラもわたしを置いて先に逝ってしまったよ。

 ステッラは最後まで君に詫びていた。君のマスターを助けられなくてすまない、と。

 あいつの頼みとはいえ、君もわたしなんかを助けるために右腕を失い、そのためにあいつを助けにいけなかった。

 ほんとに申し訳なく思う。

 償いになるとは思えないが、1つ手伝えるかもしれないことがある。


 あいつの夢を叶えるために、君を()()させてほしい。


 驚いてるかな?あいつと君の出自は分からないが、君が人間ではないことは知っているよ。

 うわさに聞く迷宮産の魔道具なのか、あいつの特殊技術なのか。それは分からないがね。


 わたしの孫娘に会ってくれないか。

 孫娘の”スキル”ならきっと君を治せるはずだ。

 わたしももう長くない。老い先短いじじいの最後の頼みと思ってどうかナターレに来てくれ。


 ステッラには怒られるから言えなかったが、わたしは君にあこがれていた。

 最期に一目。


 トゥリパーノ・ディ・ナターレ』



「おじい様・・・どこから突っ込んだらいいのかわからないわ!!」

「はしたないよソフィー」


 ははは、と乾いた笑いのあと軽く注意された。


「だってお父様!これってどういうことですの!?50年!?オルテンシア様はどう見ても20代、人間じゃないことは解かりましたけど、お父様はお名前を知ってらしたけどお会いしたことが?それにわたしの”スキル”って?」


 一度に言われても困るのは分かっていますが、聞きたいことが山のようにあってわたしも混乱しています。


「あ~どこから話せばいいかな、わたしもオルテンシア様にお会いしたのは初めてだよ」

「だって、最初にお父様は・・」


 そう、お父様はオルテンシア様の名前を知ってらっしゃいました。お会いしたことがないのに知っているのでしょうか?


「まあ、落ち着きなさい。ソフィーのおじい様から聞いていたんだよ。昔冒険者だったこともその時の仲間だったオルテンシア様のことも。初めて見たときにおじい様の話通りだったからすぐに解かったよ。右腕を失った凄腕の戦闘メイドさんのことだってね。」


 戦闘メイド?聞いたことのない単語の組み合わせです・・・およそ二つが結び付きません。


「あまり詳しく聞いたわけじゃないけど、おじい様とおばあ様は昔、他国の迷宮攻略中にオルテンシア様とそのご主人様に助けられたらしくてね、その手紙に書いてある通りさ。その時にマスターと呼ばれていたオルテンシア様のご主人様が亡くなられたんだ。抜け殻のようになったオルテンシア様を国にお連れしようとしたらしいんだけど、固辞されて旅にでられたらしい。」


 それが、50年前のことなの?


「・・・それからどうしたのですか?」

「それだけ」

「・・・えええええええええええええええええええええっ!!?」

「いや、さすがにそれから一度も会ってないらしいから、わたしも知らないよ」


 ひどい梯子外しだわ!その後が気になるのにっ!わたしの”スキル”の話はどうなっているのですか!


「じゃ、じゃあわたしの”スキル”って?」

「さあ?聞いてないよ」

「・・・えええええええええええええええええええええっ!!?」

「はしたないよソフィー」


 さっぱり解からないわ。何から考えたらいいのかも分からない。おじい様はわたしの何を知ってらしたのでしょうか?”スキル”・・・聞きなれない言葉です。他国の言葉でしょうか?帝国語?連合国共通語でしょうか?わたしの”スキル”でオルテンシア様を治す・・・意味不明ですがその答えは。


 そう、すべてはオルテンシア様が知ってらっしゃいますね。


「お父様、オルテンシア様に直接伺いましょう!」



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