16話:ニンフェアの悩みとソフィーの変化
「さて、どうしたものかな」
「ウサギでにゃいニャァ」
2年前に来た時にはてきとーに歩いて5階に向かっていたけど、ウサギはそこそこ出てきた気がする。たぶん10匹くらい倒して「お肉」が3,4個。
通路に出ないということはどこかにウサギが出る部屋があったはずだ。
食料は残り2日分、非常食はあるけど心もとないな。戻りながら部屋を探すしかないか。
「ニンフェア」
「え?あ、ソフィー様どうしたの?」
「戻りましょう。戻りながら部屋の探索をしてウサギを探しましょう」
「あ~うん。ボクもちょうどそれを考えていたとこだよ」
皆も食事の準備をしながら話を聞いている。
「そして二手に分かれましょう」
「「「「え?・・・」」」」
「プルーニャとニンフェアなら1人で狩ることも問題ないでしょう。接近特化のプルーニャと援護ができるルカ君、前後でのわたしの護衛が可能なニンフェアとアレク。プルーニャはこの階をすべて覚えているようですし、ニンフェアもそうでしょうけど一応アレクが地図も持っています。二手に分かれて部屋を探索して「お肉」を手に入れるか、夕食までにはこの階段で合流、でいかがでしょうか?」
確かに、その方法なら効率は2倍になるし4階ならたぶん問題ない。問題があるとしたらソフィー様の護衛が薄くなること、か。ボクが前衛をしてアレクに後ろの警戒をまかせる。アレクなら倒せないまでもボクが駆け付けるまで押しとどめる事は可能だ。いざとなれば”縮地2”もある。
「わかったよ。その方法でいこうか」
食事を取りながらソフィー様を観察する。数時間前からソフィー様の様子がおかしい。時々知らない人のように感じる。
ソフィー様は最初、「迷宮」のことはまかせる。と言っていたけど、初めて意見をしてきた。それも確信めいた話し方で最善の方法を提案してきた。いつものソフィー様なら「わたしはここで待ってる」とか言って困らせるとこだけど、ちゃんと護衛の立場も考慮している。
アレクとルカ君と談笑しながら食事をしているが、今はいつものソフィー様だ。そっとお尻を滑らせてプルーニャに近づく。
「プルーニャ、気づいてる?」
「ソフィー様のことかニャ?」
「うん」
「たぶん・・・特殊にゃ”スキル”を得たんじゃにゃい?」
「特殊な”スキル”・・・」
「ニンフェアも【縮地2】みたいに使い方が頭に浮かぶ”スキル”もあれば、もう一個の”スキル”みたいにゃ持ってるのはわかるけど使い道がわからにゃかったのもあるじゃにゃい」
「【剛腕1】だね。・・・実はここに来てもう一つ得ているんだけどね。そっちも意味不明だよ」
「実はわたしもニャ♪」
「ソフィー様がなんらかの”スキル”を得ていて、それで混乱しているかも・・・か・・・」
ソフィー様は生まれながらに特別な”スキル”を持っていたらしいし。ボクとは違う意味で特殊タイプなのかな?
「それじゃわたしたちは左から行くニャ」
「ルカ君、気を付けて」
「アレクさんも」
にゃんかアレクとルカ君がどんどん恋人同士っぽくにゃってるんだけど、アレクはルカ君のこと男の子だと思ってる・・・んだよニャ・・・
「ボクたちはこの部屋を見てから右に行くよ。アレク先に入って」
パタン。ニンフェアたちが部屋に入ったニャ。こっちも出発ニャ。
「ルカ君はできるだけ火は温存にゃ」
「はい」
「後ろの警戒だけして火は足止めのつもりで使ってニャ」
「わかりました」
2人だけになってルカ君が少し緊張してるみたいだけど、お姉さんにまかせるニャ♪
「ここも違いましたね」
「次行くニャ」
ルカ君が魔石を拾い集めながら言う。3部屋目も外れ、意外にいにゃいニャ。ここまでですごい量の魔石が集まってるけどあまり使い道がにゃいし・・・捨てて行こうかニャ・・・
「よいしょ」
ジャラララ。重そうだニャ。ルカ君の背嚢は元々空きがあったけどそろそろ魔石で一杯ににゃってきてる。
「ルカ君、魔石半分に分けようかニャ」
「え?」
「”スキル”で魔力を使うのはわたしとルカ君だけニャ、いざとゆー時のためにニャ」
「それはそうですが、今回の探索は任務できています。勝手に魔石を使ってもよろしいのでしょうか?」
確かに魔石は結構にゃ値段で売れるお宝だけど、使わにゃければ石ころと同じニャ。
「ソフィー様を無事におうちに返してあげるためニャ。旦那様も文句はいわにゃいニャ」
「そうですね、分かりました」
それからいくつか部屋を一掃して1時間がたつ頃ついに見つけたニャ。
「ウサギめっけニャ!」
他と違い少し大きにゃ部屋にウサギの群れがいたニャ。数はざっと14,5匹。これだけ狩れば「お肉」もいっぱいでるはずニャ。
わたしは両手にダガーを持つと一気に群れに突っ込んだニャ。両手で2匹のウサギを倒し、同時に蹴りで1匹を吹き飛ばす。蹴りの反動で逆側に飛んで目につくウサギを一撃で屠っていく。あ、ルカ君忘れてたニャ。
「速すぎて目がおいつかないです!」
わたしが暴れまわるせいでウサギはすべてわたしに向かってきていて、入り口付近にいるルカ君には目もくれてにゃい。結果オーライニャ。
それから間もなくウサギをすべて狩りつくしたニャ。
「でましたよ!「お肉」が5つも!」
「これでにゃんとか目途がたったかニャ?ニンフェアたちも見つけてればまだ探索が続けられるニャ」
ここまで真っすぐ来れば30分ってとこかニャ?しばらくここで狩りをしてればソフィー様も”レベル”20くらいまではいけそーだし、使えにゃかった”スキル”も使えるよーににゃるかニャ?
「最初の部屋以外ウサギでないね~」
「あそこで狩りをしていれば良かったんじゃないんですか?階段も目の前ですし」
アレクがもっともな事を言うけど数が足りない。
「あそこは1匹だけだったじゃないか?たぶん次に沸いても1匹か2匹だよ」
「そういうものなのですか?」
ボクとソフィー様とアレクは通路を歩きながら最初の部屋の話をしている。
「うん、部屋にでてくる魔物は部屋ごとにだいたいの数が決まってるのさ。アレクが昨日戦った芋虫の部屋、アレクの時は4匹、5匹でルカ君が戦った時は3匹だったよ」
「・・・部屋の大きさで数が決まっているのですね」
ソフィー様が何事か考え込んでいる。
「たぶんね」
「なるほど、確かに最初の部屋は狭かったですね。2匹沸いたらかなり手狭だ」
アレクが両手で「ポン」と手を打って納得したようだ。
「それで再び魔物が沸くのはだいたい6時間後くらいですね?」
「・・・そうだね。芋虫部屋は夕刻に倒して次が深夜、そして朝だからね」
なんだろう、ソフィー様が妙に冴えている気がするね。英才教育を受けているから頭はいいんだろうけど、「迷宮」に慣れてきたのかな?それともそーゆー”スキル”を得たのかな・・・
「ところで」
「ん?」
「ニンフェアさんは侍女?なのにどうしてそんなにお強いんですか?」
「あ~中々答えにくいことを聞いてくれるね」
アレクがついにこの質問をしてきた。まあ当然といえば当然だけどね。
「あ、すいません。何か事情がおありなんですね」
「アレクごめんなさい。ニンフェアはナターレ家の専属の護衛でね。詳しいことは言えないの」
ソフィー様が「影」のことを曖昧に濁して、専属護衛ということにしてしまった。
「いえ、そういうことであれば自分がどうこう言うことはありません。ただ、その強さの秘訣でもあれば教えてほしかっただけなので」
秘訣ね・・・ただの訓練の賜物だけど。
「ボクはそんなに強くないんだけどね。プルーニャのような才能はないし」
「しかし、実際ニンフェアさんは・・・」
アレクの言葉を遮って続ける。
「ボクは相手に気づかれる前に”縮地”で懐に入り一刺ししてるだけだよ。正面から戦うと勝てないから、卑怯な手を使ってるだけさ。どちらかと言うと暗殺術に近いのかな?」
「暗殺術・・・ですか」
アレクがヤバいことを聞いちゃったって顔をしてるね。
「あまり卑下しなくてもよいのではないですか?ニンフェアの縮地は間違いなく瞬間的にプルーニャの速度を上回っているのですから、その速度を活かした攻撃は立派な才能ですよ」
ソフィー様がフォローしてくれるけど本質はそこじゃないんだよ。褒めて欲しいのはそこじゃないんだ・・・
「ありがとうソフィー様・・・でもね・・・」
ボクの才能はスキルを持っていない脳力と魔力なんだよ・・・
ルカ君みたいな”スキル”をボクは持っていない・・・
それからしばらくして奇妙な場所にでた。
「これは・・・」
「今までの部屋とはちがいますね?」
「おかしいな・・・」
2年前に来た時に5階まではすべてマッピングした。ここは確か広いロビーだったはず。それなのにただの土壁ではなく、複雑な模様が彫り込まれた壁に、重厚な扉のある部屋が出来ていた。
「アレク、地図を」
「は、はい」
やはり、ここは廊下が交差するロビーだね。ソフィー様が壁と地面の間、天井の境を見つめて言った。
「なにか・・・条件がそろうと出現する部屋なのではないですか?」
「かも・・・しれないけど、危険すぎるね」
「アレク、わたしにも地図を見せてください」
「どうぞ」
ソフィー様が何か考え込んで、
「5階の地図も見せてください」
「5階ですか?少々お待ちください」
5階?アレクが背嚢にしまっている5階の地図を取り出した。ソフィー様はしばらく眺めた後、2枚の地図を重ねてランタン越しに見つめる。
「やはり、ニンフェアこちらに」
「はい」
ソフィー様が持つ地図を覗き込むと4階の地図越しに5階の地図が透けて見える。ロビーのあるこの真下の5階には不自然に何もない空間があった。
そういえば5階のマッピング中に、隠し部屋がありそうな空間だと思い色々探った所だ。結局見つからなかったのだが、まさか上にせりあがった?のだろうか・・・
「ここの探索は後にしましょう。まずはウサギ狩りを優先して、プルーニャ達と合流してから考えましょう」
「そう・・・ですね」
決定的だ。ソフィー様が変わった。
「ソフィー様、今朝から落ち着いているけど何かあったのかい?」
「そうですか?・・・そうですね、後でお話しします」




