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短編3:ニンフェアのお母さん

「飛べええええええっ!!」


 ガクンとブレーキがかかった!内臓が体内で下に引っ張られひどい吐き気がした。それでもまだ落下している。もう地面まであと少しだ!止まれ止まれ!もっと魔力を絞り出せええええええっ!!ボクの願いが通じたのか身体が淡く発光し、魔力がみなぎる感じがした。それと同時に何かを授かった気がする。コレはっ!?


「止まれぇっ!!」


 ポタポタ


 ボクの顔を流れる汗と涙が3cm下の地面に落ちて吸い込まれて行く。


「と・・・止まった・・・はぁはぁ・・・」


 ドサッ


 地面に寝転んで空を見上げる。背中の羽を下敷きにしてしまい少し痛むけど精神的に疲れてしまって起き上がれない。


「「「ニンフェアァ!!」」」


 さっきもこの声で目が覚めることが出来た。エルサとイルヴァ、それにリオネッタ!?声を聞いたのは初めてかもしれない。3人のおかげで助かった。見捨てなくて良かった。涙が溢れてきた。10匹以上のゴブリンに襲われたのに全員生き残れたんだ。3人がボクの元に辿り着き倒れているボクを覗き込む。


「ニンフェア大丈夫!?」

「生きてるんだよね!?」

「ニンフェア、ありがとう・・・」

「生きてるよ。だから言ったろ?必ず助けてやるって」


 3人はボクに覆いかぶさって泣きじゃくる。正直言ってなんで倒せたのか分からないんだけどね。水車小屋がバラバラになってるところを見ると何か爆発があったみたいだけど、誰かが魔法でも打ち込んだのかな?爆発魔法か・・・すごいなぁ・・・ボクもいつか覚えられたらいいんだけど。


「ニンフェア!エルサ!イルヴァ!リオネッタ!」


 この声はプラトリーナ先生?チャットのヤツ孤児院まで逃げてったのか。近くの大人にしらせればいいのに。


「みんな無事!?」

「「「プラトリーナ先生!!」」」


 3人の女の子たちがプラトリーナ先生に抱きついていく。ボクも一緒に抱きつきたかったけどもう一歩も歩きたくなかった。


「プラトリーナ様!ゴブリンです。まだ息があるものがいるかもしれません。お下がりを」


 孤児院にいる時は護衛はついていないけど、先生が外に出ると必ず護衛がついて回っている。だってナターレのお姫様だから。


「ダメです。子供たちの安全を第一に。ニンフェア大丈夫?」

「プラトリーナ先生。ボク、みんなを守ったよ」

「ボク?」


 ボクをゆっくりと起こしてくれるプラトリーナ先生に笑顔を向ける。


「そう、がんばったわね。みんなを守ってくれてありがとう。でもね、ニンフェアのことも同じくらい大事なのよ。無茶はしないでね」


 プラトリーナ先生にやさしく抱きしめられた。やわらかくて暖かくてとってもいい匂いがした。


「お母さん・・・」


 思わずお母さんって言っちゃったけど、訂正するのも変だったのでそのまましがみついた。


「ニンフェア・・・」


 ボクを抱きしめるプラトリーナ先生の力が少し強くなった。さっきまでは無我夢中だったけど、あの爆発がなければボクは死んでいただろう。水車小屋しか倒せそうな場所がなかったから仕方ないけど、かなりの綱渡りだった。怖かった。今更ながらに死の恐怖が沸き起こって来る。


 ゲギャアアアッ!!


「ぐあっ!」

「ゴブリンが生きているぞ!!」

「ホブだ!囲め!!」


 気を失っていただけのゴブリンがいたみたいだ!ボクだってあの爆発で死んでないんだ。生きているゴブリンがいても不思議じゃない。


「プラトリーナ様はこちらに!」

「ニンフェア下がりましょう!」

「う、うん」


 3人の護衛がゴブリンの足止めをする間に2人の護衛がプラトリーナ先生を守りながら後退する。お姫様ならもっと護衛がいてもいい気がするけど、ナターレは人口が少なくて兵も足りないって聞いたことがある。


「コ、コイツ!強いぞ!!応援を!」


 このゴブリンは他のゴブリンとは違う。身体も二回りは大きく人間の大人よりも大きい。護衛ならそれなりの手練れだと思うけど三対一でも勝ち目がなさそうだ。


「しかし、プラトリーナ様の護衛が!・・・」

「行ってください!わたしなら大丈夫です!」

「わ、わかりました。援護する!」


 ゴブリンとボクたちの間に立ち塞がっていた護衛の残り2人もゴブリン討伐に動いた。そしてその時を見計らっていたかのように背後の小屋の瓦礫から一匹のゴブリンが這い出して来た。まだ生きてるゴブリンがいたのか!?護衛の5人はボクたちの正面で戦っている。ボクの周りにはプラトリーナ先生とエルサとイルヴァとリオネッタだけ。


 ボクがやるしかない!


「先生下がってて!」

「ニンフェア!危ないです!あなたこそ下がりなさい!」


 プラトリーナ先生はボクの手を引っ張って自らの背後に隠しゴブリンに立ちはだかった。先生は武器も持っていないしお腹には赤ちゃんがいる!絶対に助けないといけない!


「エルサ!イルヴァ!先生とリオネッタを連れて村に逃げて!お腹の子にもしものことがあったらっ!」

「ニンフェア!何を言うのですか!」


 ボクには攻撃魔法なんてないけど()()()()()()()()()()()()()。コレがきっと恩恵なんだ。ボクはゴブリンに向けて走り出し距離を詰める。もう少し、あとちょっと!この()()()()()があれば!!


「今だ!【縮地1】!」


 グンッ!


 ボクの身体は見えない力に押し出されて一瞬でゴブリンの目の前まで運ばれる。このままゴブリンを吹き飛ばして!・・・


「え?」


 目の前にはびっくりして、慌てて棍棒を振り上げるゴブリンの姿があった。そしてボクの身体はゴブリンの目の前で固まっている。一瞬で距離を詰める恩恵。ボクの頭に流れ込んだのはそれだった。高速で飛んで行きゴブリンを吹き飛ばせると思っていた。衝撃に備えて身体を硬くしていたのが仇になって急に動くことができない!勘違いしてた!高速で移動する恩恵ではなく、一瞬で位置が変わる恩恵だったのだ!目の前に棍棒が迫る。こんなのに殴られたら・・・


 ゴッ!


 ぐっ!!


 頭に衝撃を受けて身体が地面を転がっていく。身体を激しく打ち付け全身の打撲と殴られた頭の痛みで吐き気が込み上げてきた。


「うっ、おげえええっ・・・」


 視界がグラグラする。ゴブリンに近すぎたせいで棍棒の根元で殴られ即死を免れたようだ。額が切れたみたいで視界が赤く染まっていく。歪む視界にゴブリンの姿が映る。振り上げているのは棍棒か・・・もう避ける体力が残っていない。


「ニンフェア!!」


ゴッ!


 プラトリーナ先生!?え!?え!?ボクの目の前でプラトリーナ先生がゆっくりと倒れ込む。ピンク色の綺麗な髪が赤く染まっていく。先生がボクをかばって!?


 ゲギャギャ!


 再び棍棒を振り上げたゴブリンに向かって腰にぶら下げた鎌を引き抜き振りかぶる。ゴブリンまでおよそ3m、振り下ろして当たる距離じゃないが構わず振り下ろす。


「よくもぉおおおおっ!!」


 ブンッ!


「【縮地1】!!」


 一瞬でゴブリンの目の前に現れたボクは、振り下ろしかけた鎌をゴブリンの首に突き立てる。


 ゲギャア!!


 痛みにゴブリンが暴れて棍棒を無茶苦茶に振り回した。仕留められなかった!?鎌がゴブリンの首に突き刺さったままボクの手からすっぽ抜けた。武器がっ!?怒りに燃えた目で睨みつけられ身体が恐怖で固まる。ゴブリンも痛みに動きが鈍くなっているけど、ボクのような小娘一人殺すくらいわけないはずだ。空中に逃げれば助かるかもしれないけど、そうすればプラトリーナ先生が殺されてしまう。逃げるもんかっ!


「逃げるもんかっ!!」


 ボクは両手を広げてプラトリーナ先生を守る。ゴブリンが攻撃してきたら棍棒を掻い潜って首筋に噛みついてやる!!ボクの気迫にゴブリンが一歩後ずさりした。その時、ポンっと肩を叩かれた。え!?後ろから?誰が!?


「よくがんばったニャ。後は任せるニャ」


 ニャ!?ふわっとボクを飛び越えて目の前に着地した女の子には猫耳としっぽが生えていた。ボクと同じで人間じゃない!?


「それじゃバイバイニャ」


 シュッ!


 猫耳娘さんがナイフを投擲すると吸い込まれるようにゴブリンの額に突き刺さった。あっけなく崩れ落ちるゴブリン。あれだけ苦戦したのに・・・この猫耳娘さんはどれだけ強いんだ!?ボクの方へ歩いて来る猫耳娘さんはボクと大差ない年齢に見えた。


「怪我してるみたいだニャ【回復1】ニャ」


 猫耳娘さんが手をかざすと緑色の光が溢れ傷が塞がっていく。痛みもやわらいで少し頭痛がする程度になった。


「ありがとう猫耳さん!それよりプラトリーナ先生を!」


 先生の方を振り向くと先生が淡い光に包まれているのが見えた。神力を賜った!?血だらけだった髪が綺麗なピンク色に戻り怪我が癒えたみたいだ。


「先生!!」


 倒れたプラトリーナ先生の元に辿り着くと、先生が急に苦しみ始めた!


「先生!?どこか怪我を!?猫耳さん!さっきの光を先生にお願い!!」

「落ち着くニャ!これは怪我じゃないニャ!子供が生まれるのニャ!!」


 ええええええっ!!こ、こんな場所で!?急いで連れて帰らないと!ちょうどその時後ろから勝ち鬨が聞こえてきた。5人がかりでなんとかでっかいゴブリンを仕留めたらしい。彼らに運んでもらうしかない!


「エルサ!イルヴァ!孤児院に知らせに行って!先生が出産しそうだって!!」

「わ、わかったわ!エルサ行こう!」

「う、うん!リオネッタも!」


 3人を見送って先生を見るとおかしなことに気づいた。先生が何か呟いているのだ。


「まさか、そんな・・・世界は造られた物だったの!?わたしがその管理者・・・」


 造られた?管理者?痛みでうわごとを言ってるのだろうか?


「先生しっかりして!護衛の方!先生を運んで下さい!子供が産まれそうなんです!!」





「ニンフェア。どうしたニャ?ぼーっとして」

「ああ、プルーニャか。いや、ちょっと昔の事を思い出していてね」

「どうでもいいけどジーニャを落とさないでニャ?」

「大丈夫だよ」


 そう言えばあれがプルーニャとの出会いだったな。ソフィー様が産まれた日に出会ったんだった。色々あり過ぎて忘れちゃってたよ。


 安楽椅子に寝そべるボクの胸にはぐっすり眠る赤ちゃんがいた。黒髪の中から黒い猫耳がピンっと立っている。プルーニャの子か。なんだか不思議な感じだ。


 プラトリーナ先生は結局ソフィー様を産んで10日後にお亡くなりになった。ボクは孤児院にいたのでプラトリーナ先生の最期を知らない。最初はプラトリーナ先生の命を吸い取ったかのようなソフィー様に嫌悪の気持ちがあったけど、今はソフィー様にもプラトリーナ先生にも感謝の気持ちしかない。


「プラトリーナ様はソフィー様を抱くことができたのかな?・・・」

「ニンフェア・・・」


 影に入ってからプラトリーナ先生の死因は発狂死と聞かされた。あの時倒したゴブリンの経験値でレベルが上がり、【完全記録】を手に入れてしまったんだ。


「世界は造られた、管理者、世界を造ったのはアサガオ様か。管理者はその子孫。あれは【完全記録】を見たってことなんだろうな」

「プラトリーナ様は・・・」


 紅茶を運んできたプルーニャがボクの目の前にカップを置いてくれる。


「プラトリーナ様はソフィー様を愛おしそうに抱いていたニャ。抱きしめて泣いていたニャ」

「そっか・・・」


 ボクには母に抱きしめられた記憶はない。でもプラトリーナ先生に抱きしめられて幸せだった。ソフィー様は覚えてないだろうけど、プラトリーナ先生、お母さんが抱きしめてくれていたよって教えてあげようかな?


「ジーニャを抱っこしてくれてありがとニャ。代わるニャ」

「うん」


 ジーニャ君を横抱きにして立ち上がる。


 子供か・・・


 プルーニャに渡す前にもう一度だけジーニャ君をギュッと抱きしめた。


 その髪からは陽だまりの匂いがした。

また短編を書いたら投稿します。


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