13話:ルカ・デルーカ
あわわわ、ど、どどどどどうしましょう!?
「次はルカ君の番だニャ」
「わ、わたし、剣を扱ったことはないんですが・・・」
「兵士なんだよね?得意はなんなの?」
ボケたら怒られるかな・・・
「えっと、イノシシとハーブの煮込み料理とか?・・・」
ゴクッ、皆が喉を鳴らす音が聞こえました。
「そういえば外はそろそろ暗くなってる頃だね」
「晩御飯ニャ!」
ニンフェアさんとプルーニャさんが背嚢を降ろしてテキパキと準備を始める。
「ルカ君は兵站担当だから調理はまかせるよ。プルーニャの料理はマズイからね」
「にゃんだと!ニンフェアのほーがへたっぴなくせに!」
お二人は敷物を広げブーツを脱いでその上にちょこんと座ると、深皿を左手にスプーンを右手に持って最高の笑顔を見せる。
「あ、あの・・・今から作るので少々お時間を・・・」
「何か手伝うことはあるかい?」
アレクさんが手伝いを申し出てくださいました。
「ありがとうございます。ではこの鍋にお水を、プルーニャさんお願いできますか?」
「あいニャ」
プルーニャさんが【揚水の杖B】を取り出し水を出してくれます。アレクさんがそれを鍋にためていると地面が乾いていきます。ちょうどいいので乾いた地面に
「”火よ”」
ボッっと地面が燃え始めます。
「「「「えっ!?」」」」
「アレクさん鍋を直接その火の上に置いていただけますか?」
「え?あ、ああ」
わたしは背嚢からイノシシ肉のベーコンとハーブ、玉ねぎ、ジャガイモ、調味料などを取り出し、手早くジャガイモの皮を剥いていきます。一口大に切ったジャガイモを鍋に入れて玉ねぎ、ハーブも切って入れていきます。沸騰する寸前に火力を弱めしばらく煮込みます。その間にベーコンを切り浮いてきたアクを取り除く。すべての材料を入れ終え蓋をしてしばらく煮込みます。
「もう少しでできますからね~、どうしました?」
皆さんがキョトンとした顔でわたしを見ています。
「ル、ルカ君、”スキル”が使えるの?」
ニンフェアさんが聞いてきました。”スキル”?
「あ、ああ、恩恵のことですか?ええ、昨年の戦争に従軍していまして、兵站部隊は治療班も兼ねていました。直接戦いはしなかったのですが・・・言いにくいんですが・・・その、助からない兵士の介錯も何度もしまして・・・」
皆がじっと聞いています。
「そうすると何度か神力を得た感覚があったのですが、いつのまにか恩恵まで賜りまして」
「使い方は?」
「恩恵を賜った時に文言が頭に浮かびました」
「わたしとおんなじだニャ」
「恩恵を発現させたいとこを見て文言を唱えると火がでます」
わたしは後ろを振り返り3mほど先を見て
「”火よ”」
ボッとまた地面が燃える。
「あまり遠くには火をつけられませんけどね。戦争時は火葬用でした」
「それは、なんと申しましょうか・・・便利・・・ですね」
ジプソフィーラ様が言いにくそうに声をかけてくださいます。
「ありがとう・・・ございます?」
わたしの返事も曖昧だ。鍋の火を消し蓋を開ける。
「これは・・・使えるね」
ニンフェアさんがニヤリとしてお皿を差し出します。イヤな予感がします。
「どーゆーことニャ?」
プルーニャさんもわたしにお皿を差し出しながらニンフェアさんに聞く。
「2つ分かったことがあるモグ。1つ、これは攻撃に使える。モグモグ、あまり遠くは無理らしいけどモグ中距離武器にはなるね。モグモグ魔物に火をつけてもいいし、顔に火を浴びせてひるんだところを攻撃してもいいゴックン」
「な、なるほど・・・すみませんジプソフィーラ様、どうぞ」
「ありがとう」
ニンフェアさんは流石です。食い意地が張ってるだけではありません。剣を使えないわたしでも役に立てるかもしれない。ジプソフィーラ様より先によそった事を謝りながらお皿を手渡す。
「2つ、ルカ君の戦争時の体験からトドメを刺した者が”レベル”を上げやすい。ズズズズ、ぷふぁーこれなら魔物を瀕死にしてソフィー様にトドメをさしてもらえばモグモグ」
「にゃるほどモグ」
「ニンフェアもプルーニャもお行儀が悪いですわよ。しゃべるか食べるかどちらかになさい」
「「モグモグモグモグ、ゴックン。ズズズズ、モグモグ」」
「あ、アレクさんごめんなさい。どうぞ召し上がってください」
食べることに専念されたようですのでアレクさんにも料理を手渡す。
「ありがとう、うまそうだ」
アレクさんの笑顔はさわやかですけど、今日の笑顔は緑色です。
プルーニャさんの【揚水の杖B】で顔を洗いましょうね。
食後はジプソフィーラ様とプルーニャさんとわたしが、寝るように言われました。
見張りにニンフェアさんとアレクさんが起きています。
2交代で後ほどプルーニャさんとわたしです。
ジプソフィーラ様も見張りをするとおっしゃられましたが、「役に立たないから」とニンフェアさんに言われ、毛布を濡らして眠りについています。
深夜遅くアレクさんの声で目が覚めました。
「くっ、この!」
見るとアレクさんがちょうど芋虫を両断したところでした。
「ほら、一撃で倒さないから起こしちゃったよ」
「はぁ、はぁ。すみません」
ニンフェアさんがジャラジャラと魔石を手でもてあそびながら注意する。
「何匹ニャ?むにゃむにゃ・・・」
「5匹だね。数は一定じゃないみたいだ」
「ふわぁっ・・・ちょーどいーから交代するニャ」
「この分だと明け方にもう1回沸くかもね」
「りょーかいニャ、むにゃむにゃ」
ニンフェアさんはさっそくプルーニャさんの使っていた毛布にくるまると横になった。
アレクさんはわたしの毛布を使うみたい・・・
「んじゃあとよろしく。ほらアレク寝るよ」
「ちょっと、ぜぇ、ぜぇ・・・興奮して寝られそうにないんですが・・・」
「ルカ君の毛布で興奮してるの?毛布じゃ物足りないなら、直接ルカ君抱いて寝るかい?」
「んなっ!!」
「な、ななななな何言ってるんですかぁっ!」
ニンフェアさんのばかぁっ!!
「わ、わわわわたしたちはそ、そそそんなんじゃ!・・・」
「・・・冗談だったんだけど・・・んじゃおやすみ」
「ルカ君、その・・・」
「アレクさんも早く寝てください!!」
「は、はいっ!」
「・・・青春だにゃぁ・・・」
まったくニンフェアさんはっ!まったくまったく!
しばらくして3つの寝息が聞こえてきました。あれ?
ジプソフィーラ様はあれだけの騒ぎでも起きてきませんでした。




