125話:王宮騒然
あけましておめでとうございます。昨年末は新作の連載も開始いたしました。ご一読いただければ泣いて喜びます。それでは今年もよろしくお願いします。
お父様からわたしへの・・・「ジョウシャクノギシキ」?城借・・・じょうしゃく・・・譲爵!?
「ええええええええええええええええええっ!?」
しまった!声が出てしまいました。突然わたしが叫んだので陛下は目を丸くし、周りの貴族の方々からは「無礼な!」とか「所詮子供か」などと陰口が聞こえてきます。マズい!マズいです!!一体どうしたら・・・
「わっはっはっは!よいよい、成人前の子のしたことだ大目に見よ。初めての女性貴族になることに緊張しておるのだろう」
陛下が大笑いをされて場を和ませてくださいました。わたしは再び深くカーテシーをして陛下に感謝とお詫びをします。頭を下げた時チラッと横を見ると、今にもわたしを殺そうとするような視線に気づきました。最前列にいるということはこの方、いえ、コイツがリッチ侯爵なのですね・・・わたしを殺すよう命じた張本人。
わたしがヴァレリオ王子と婚約することによってコイツの策略はすべて潰えます。それどころかわたしに手を出したばかりに領都も破壊され、再建には数年単位の時間と金貨数十万枚が飛んでいくとか。
いい気味です。ニヤリ。
はっ!いけません!こんなことを考えていては。ナターレもこれから十数年は男性不足で危機は続くのです。敵を作ってはやりにくくなります。謙虚第一です!
はぁ、それにしてもわたしが貴族になるだなんて心の準備が出来てませんよ・・・お父様もそうならそうとはっきりおっしゃってくれればいいのに。すでに内政に関してはほとんどわたしが行っています。ヴァレリオ王子との婚約が決まる前から行っていたことです。誰と結婚するかも分かりませんでしたから、旦那様になる方に反対される前に既成事実を作ってしまおうと女性登用を進めたのです。ヴァレリオ王子との婚約が決まってからは女性登用に関してお願いしました。できればこのまま進めさせてもらいたいと。王子は意外にも「ジプソフィーラ嬢のなさりたいように」とおっしゃってくださいましたので、春には初の女性公務員が誕生する見込みです。王子はわたしが貴族になると、領主になるのを知っていたのですね・・・
あれ?そうなるとわたしと結婚する王子のメリットって?ナターレ領は王家のものにはなりませんし、王子は・・・王子じゃなくなる?それどころか貴族でもなくなって・・・あれれ??
「それでは!これより譲爵の証としてナターレ笏の譲渡を行います!」
はっ!いつの間にか儀式が進んでいました。考え事をするとその間の記憶がスポッと抜けてしまいます。悪い癖ですね・・・お父様がわたしの横まで進んできて陛下に向かって膝をつきます。すると執政官らしき方がさきほどお預けした支配の王笏(ダミー)をうやうやしく掲げて運んできました。
コレっていつの間にナターレ笏になったのでしょう・・・
お父様が支配の王笏(ダミー)を受け取り、両手で横にしてわたしに差し出します。
これを受け取ったらわたしが貴族に、ナターレ女子爵になるのですね。
馬鹿なっ!!なぜわたしの支配の王笏がここにあるのだっ!!あれで命令を出されたらハイエルフ共の襲撃が防がれてしまう!近衛兵に預けた支配の王笏がジプソフィーラめに渡されてしまう。近衛兵は陛下の直轄護衛兵・・・ということは、わたしの襲撃が陛下にバレているということかっ!?ジプソフィーラめに渡すということは、あ奴にわたしを討伐するように密かに命じている!?先ほど見せたニヤリとした横顔、やはりそうなのかっ!!そう思った時謁見の間の壁が破壊されハイエルフ共が侵入してきた。
ドゥンッ!!
「うわっ!!」
「なんだっ!?」
「へ、陛下をお守りしろっ!」
「衛兵!衛兵っ!!曲者だ!!」
謁見の間が混乱し衛兵とハイエルフ共の戦闘が始まった。入り口付近の貴族は扉から外に逃げ出し、他の貴族は護衛を前に出し壁際まで下がる。
部屋の真ん中で狼狽するジプソフィーラの姿が目に入った。その手には支配の王笏が握られている。取り返すなら今しかない!
「貴様たち!あの娘から王笏を奪えっ!」
「「はっ!」」
何も考えず命令に従えと命じておいた護衛の二人は、迷うことなくジプソフィーラめの所まで走って行きその手から支配の王笏を奪って戻ってくる。しまった。どうせなら殺して奪えと命じるべきだったか。
「貴様たち!あの娘を・・・」
「「ジプソフィーラ様!!」」
続けて命令しようとした時、入り口付近にいたナターレ子爵の護衛が駆け寄って来て、すぐさまジプソフィーラとナターレ子爵を逆の壁際まで下がらせる。ちっ、まあいい。支配の王笏さえ戻ってくればどうにでもなるわっ!!
「クリザンテーモ!フィオーレ様!お父様を安全な所に!アレクは!?」
「入り口付近が混乱しています!中に入れないのでしょう!とにかくここを動かないでください!」
何が起こったのでしょう!?突然壁が爆発して黒づくめの襲撃者が4、いえ5人浸入してきました!王宮の奥深く、謁見の間にまで入り込めるなんて誰かが手引きしたとしか・・・誰かじゃありませんね。リッチ侯爵です!先ほどわたしからナターレ笏を奪った男女がリッチ侯爵の元にいます。あんなダミーをどうするつもりなんでしょう?
黒づくめの5人は迷わず陛下と王子様のお1人を狙っています。近衛兵と近衛騎士団長さんが奮戦していますが襲撃者の方が強いです!なんとかやりあえているのは近衛騎士団長さんと軍務大臣さん?ですかね。近衛兵は時間稼ぎにもなっていません・・・この強さはまさか?・・・
近衛兵はすでに10人以上が床に倒れています。しかし、他の貴族の護衛の方は壁際で主人を守るだけで襲撃者に向かうものがいません。このままでは陛下が!?
「ぐあっ!」
「レオナルド王子!!」
狙われていた王子様のお1人が崩れ落ちました。わき腹から出血しています!もう迷っていられません!
「クリザンテーモ!フィオーレ様!陛下をお守りして!」
「しかしジプソフィーラ様の護衛が!?」
「わたしは・・・ヴァレリオ王子の元に行きます!」
周りを見回すと壁際にヴァレリオ王子と全身ローブの護衛の方が目に入りました。一応婚約者(予定)ですのでわたしも守っていただけるはずです。
最初に護衛はニンフェアとプルーニャにお願いする予定でした。しかしヴァレリオ王子が「ジプソフィーラ嬢が王宮に異人を連れて入るのは無理です」とおっしゃいました。ニンフェアたちはこの大陸にはいない種族なので、王宮に連れて行くと魔物と間違われる、と。悔しいですがお二人をそんな奇異の視線にさらさせるわけにはいきません。クリザンテーモさんたちも十分お強いので護衛は問題ありませんが、ニンフェアの雷撃で襲撃者の動きを止められれば・・・プルーニャの回復で王子様を助けてあげられれば・・・と、思わずにはいられません。
わたしがヴァレリオ王子の元に走って行くと、護衛をしていた全身ローブのお二人が王子の元を離れて襲撃者に向かっていきます。
「【雷撃2】!」
「【回復3】ニャ!」
ああっ!ニンフェア!プルーニャ!
お二人がヴァレリオ王子の護衛としていてくれました!
「ヴァレリオ王子!」
「ジプソフィーラ嬢!ご無事で!」
両手を広げてわたしを迎えてくれる王子の鳩尾に、全体重を乗せたパンチを打ち込みます!
「げふっ!」
「どーゆーことですかっ!!ニンフェアたちは連れて入れないって言ったじゃないですかっ!!」
片膝をついた王子の襟首を掴んで前後にブンブンと揺すります。王子は「ははは」と笑いながらこうのたまいました。
「ジプソフィーラ嬢は、と申し上げたでしょう。初めて謁見にのぞむ者は護衛もチェックされ室内にも入れません。アレク殿のようにね。でも元王子のわたしなら話は別です。さすがに姿を見せるわけにはいきませんが護衛としては超一級ですからね」
むぅ、頬を膨らませて抗議しますが今は良しとするしかありません。振り返って見ると近衛騎士団長さんも軍務大臣さんも傷だらけで床に膝をついています。戦っているのはニンフェアとプルーニャの二人のみ。相手は・・・やはりハイエルフでした。




