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123話:支配の王笏

 ボクは今”魔の森”の遥か上空を飛翔魔法で飛んでいる。ナターレを飛び立ってまだ30分ほどだ。

 このペースなら1時間もあれば王都に着くだろう。

 今までのボクの飛行速度だと王都まで5、6時間かかっていたけど短距離転移と組み合わせることによって恐ろしく移動速度が速くなった。

 短距離転移は目視出来る所に転移できる魔法だ。地上だとどうしても障害物で転移距離に限界があったけど、上空で使用することで数kmから数十kmの転移が可能になった。


「こんな簡単な事に気づかなかったなんて・・・」


 いや、違うか。同時に二つの魔法が使える程、脳力と魔力が上がったおかげなのだろうね。


「譲爵の儀式か・・・旦那様も頑張ったね。まさかソフィー様が子爵になるだなんて夢にも思わなかったよ」


 フリージア王国どころか大陸初の女性貴族の誕生だね。

 ソフィー様は帝国の女王の姪孫てっそんらしいし、他に継承者がいなければ帝国の女王になることもあるのかな?どうなるんだろう?

 帝国がナターレ子爵領になるのか、ナターレが帝国領になるのか・・・どちらにしても継承しちゃうとヤバいことになりそうだ。


「ソフィー様の苦労はまだまだ続きそうだね。ボクも頑張らないと!」


 ”魔の森”を抜けて平地が見えた時、街道から遠く離れた地上に展開する部隊が見えた。あれは・・・野盗?・・・妙だね?全員バラバラの装備でまるで野盗のようだけど整然と隊列を整えている。どこかの軍の偽装くさいな。

 ”魔の森”の出口で展開する偽装部隊。明後日までに王都に向かわなければならないソフィー様。足止め部隊ということか。またリッチ侯爵あたりかな?

 くっくっく。ボクが役に立てる機会だね。殲滅してもいいけど、そうするとこちらが気づいてることがバレてしまう。となれば。


「君たちはそこでソフィー様が来ると思ってのんびり待ってってよね。ソフィー様はボクの転移魔法でひとっ飛びさ!」





 バンッ!!


「まさかっ!まさかっ!ジプソフィーラめが生きているとはっ!?」


 机を叩いてリッチ侯爵が激昂している。どうしてこうなった・・・

 迷宮を奪うことには成功した。その後フラヴィオ様がエリート部隊を率いてナターレに行き、ジプソフィーラを妻にしてナターレを奪う予定だった。ところがエリート部隊のエドアルド中尉はゴブリン・ロードに殺され、ロレンツォ大尉もワーキャットに敗北した。フラヴィオ様は一応ゴブリン・ロードに殺されたことになっているが実際はただのゴブリンにやられたようだ。

 わたしが率いた2連隊はコカトリスをはじめとした魔物集団に壊滅させられ、”魔の森”の街道確保の名目で他の貴族家の力を削ごうと送り込んだ11,000名の部隊は無傷で帰って来た。

 しかも森を焼き払おうとした部隊もなぜか全員再起不能で発見され失敗した。


 そして・・・ハイエルフによるジプソフィーラの暗殺も失敗し、とどめとばかりにタートルドラゴンによるリッチ侯爵領の襲撃。この襲撃で4万人分の食糧が失われ、ナターレ子爵領から支援を受ける羽目にもなった・・・

 まだ領内の被害試算はでていないが、タートルドラゴンが破壊した領都と領城の再建費用は莫大なものになるだろう。リッチ侯爵家が傾くほどの・・・


「あやつだけは殺さねば!ワシの気が済まぬ!!」


 すでにジプソフィーラを殺す意味はないと言うのに、復讐に目的を見失っておられる。

 今ジプソフィーラが死んでもヴァレリオ王子がナターレ子爵の養子になり、リッチ侯爵には何の利益もない。それどころか動けば動くほど裏でリッチ侯爵が暗躍していたことが露見する可能性が高くなる。


 潮時か・・・


 先代の侯爵様にはお世話になったが、息子のリッチ侯爵への義理立てもここまでのようだ。


「リッチ侯爵、もうお止めになった方がよろしいのでは?すでにジプソフィーラを殺すメリットはありません。それより領内の安定を図るべきかと」


 最後の忠告だ。これでわたしの役目も終わりにしよう。どこかの田舎にでも行って畑でも耕して暮らすかな。


「そうか・・・フォンターナ!貴様、裏切っていたな!」

「なっ!?」


 リッチ侯爵は何を言って!?ドンッ!・・・急に背中に衝撃を受けた。背後に誰か!?

 胸を見下ろすと身体から血に濡れた刀身が生えていた。なんとか首を後ろに向けると美しい娘が肩越しに見える・・・


「ま、さか・・・ハイエル・・・フ?・・・」

「くっくっく、暗殺に使ったハイエルフはコレに抵抗したハイエルフ族の王女だ。父でもあやつだけは隷属の首輪で支配するしかなかったらしいが、他のハイエルフ共はこの()()()()()で従えているのだよ」


 何を言って?・・・胸から刃が引き抜かれ、わたしは地面に崩れ落ちた。


「こうなっては仕方ない。計画が前倒しになるがリッチ王国建国のために兵を挙げるとしよう!」


 馬鹿げている・・・そんなことのためにわたしは働いていたのか・・・侯爵様・・・あなたは立派な方でしたが、息子の教育は落第だったようですね・・・





 ニンフェア殿が転移魔法で戻って来ました。出発からわずか2時間ほどです。飛翔魔法を使ったとはいえこんな短時間で王都までの往復を果たすとは驚異的ですね。こっそり【検索】を行ってみるとニンフェア殿のスキルは18個、護衛で残ったプルーニャ殿も19個のスキルを持っています。宮廷魔術士殿でも12個しか持っていないと言うのに・・・ジプソフィーラ嬢はいい配下を持っていますね。


「ただいまソフィー様。安全な転移先を探す方が時間かかったよ」

「ありがとうございますニンフェア。これで少し時間に余裕ができましたわ」


 ニンフェア殿が見つけた安全な転移先というのは王都にあるわたしの屋敷でした。王位継承権を放棄して城伯になったわたしが城外に買った屋敷です。まだ清掃や庭の手入れも手つかずで執事に管理を頼んでおいたのですが、わたしの名前で屋敷の人員募集をかけていたのでニンフェア殿が気づいたようです。


「まだジプソフィーラ嬢をお招きする状態にはない屋敷なのですが、仕方ありませんね」

「それと報告が一つあってね。”魔の森”の出口で・・・」


 ニンフェア殿の報告はわたしが調べた情報と一致しています。地上を馬車で移動すれば間違いなく襲撃されますが、ニンフェア殿の転移を使えば問題なく王都に行けるでしょう。【転移】スキルを持っている人はフリージア王国でも片手で足りる程しかいません。【飛翔】スキルなど王宮でも持っている者はいないのです。ジプソフィーラ嬢はどこでこんな貴重な人材を見つけてきたのでしょうか?





「そういえばお嬢様、ステッキはどういたしましょう?」

「ステッキ?」


 ステッキとは爵位を持つ貴族がいつも持ち歩く、あのステッキのことでしょうか?貴族の社交界に出席したことはありませんが女性も持つものなのでしょうか?


「そうか、それを忘れていたね・・・今から発注したのでは間に合わないね、どうするか・・・」


 お父様も困っています。儀式には必要みたいですね。ステッキ、ステッキね~・・・あれは、使えますかね?


「お父様、迷宮で手に入れた物にステッキのようなものがあるのですが、それでもよろしいのでしょうか?」


 ジニアに部屋のクローゼットの中にあるステッキのようなアイテムを持ってきてもらいました。


「お嬢様こちらでしょうか?」

「そう、それです。ありがとうジニア。お父様こちらでいかがですか?」


 何の効果もないニセモノですが見栄えはすごくいい気がします。全体が白くステッキの頭の部分にはバラのような花が咲いていて、その中にガーゴイルの石像が嵌っています。ステッキ部分にはバラから伸びた蔓とガーゴイルの尻尾が螺旋のように絡まった複雑な装飾です。ガーゴイルのお宝の一つであるこの()()()()()(ダミー)ならいいのではないでしょうか?


「おお、いいじゃないか。ソフィーに良く似合ってるよ」

「これは・・・素晴らしい装飾のステッキですね。これなら問題ないでしょう。しかし、どこかで見たことがあるような?」


 ヴァレリオ王子も問題ないと言ってくださいました。王子が問題ないと言うなら間違いないですね。ドレスもジニアが見繕ってくれましたし、ステッキも問題なし。後は「()()()()()」を無事終えるだけですね。


 翌日ヴァレリオ王子と護衛としてプルーニャが先発して転移で王都に向かいました。そして儀式当日の朝、わたしとお父様にジニア、護衛としてクリザンテーモさんとフィオーレ様とアレク、そしてニンフェアが王都に向かいます。


 さてさて、憂鬱なヴァレリオ王子との婚約の儀式の始まりです。

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