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10話:迷宮へ

こんな拙い小説に足を運んでいただき、本当にありがとうございます。

ブックマークやいいね、評価がこんなに励みになるとは思っていませんでした。

期待を裏切らない作品に育てるため、これからも頑張って書いていきます。

読んでくださる皆さんのほんのわずかなオアシスになれれば幸いです。

 少し先に「迷宮」の入り口が見えた。


「あれが「迷宮」の入り口か。思ったよりしっかりした作りだな」

「兵士長、食料の買い込みはよろしいのでしょうか?」


 独り言をつぶやいていたら、兵站担当の小柄な兵士が声をかけてきた。


「かまわんよ。ずっと「迷宮」に潜っているわけではない。毎日戻るなら戦利品を運べるスペースを作っておいた方がよいだろう?」

「は、はぁ・・・」


 納得していない顔だな。地下1、2階など駆け出しの冒険者でもどうにかなる程度の魔物らしい。日帰りだと行けて地下3階まで。わたしの選抜した兵士達なら一人でもどうとでもなる。


「最低限必要な物だけでよい。地図は手に入れたな?」

「はい。一応地下5階までの物が売られていたので購入しておきました」


 大柄な工兵が答えた。平均的な兵士より大柄なわたしだが、さらに頭一つ分大きい男だ。はち切れそうな太い腕をしており、これで工兵だというのだから何の冗談かと思う。


 そういえばこの二人はメイド長のジニアからの推薦らしいが、使い物になるのか?


 まあいい、わたしとわたしの側近5人がいれば護衛は事足りる。

 この任務を終えればわたしはジプソフィーラ様の婿候補になれるだろう。


 わたしにも運が巡ってきた。

 しがない農家の三男に生まれたが、剣の腕を見込まれ兵士となった。野盗や盗賊討伐で功績をあげ、30歳前にして兵士長になれた。

 ナターレ領の人口はわずか2万人でそのうち男は4千人ほどしかいない。昨年まで続いた隣国との争いで大量の戦死者が出たためだ。

 戦争ではナターレ領からも最低限の治安維持兵を残し、ほぼすべての兵が出兵した。そしてほぼすべての兵が戻らなかった。

 ナターレ領をよく思わない貴族が軍に手を廻し、ナターレ領の兵士を最前線に送ったためだ。

 少ないながらも存在した騎士団は団長以下副団長、部隊長にいたるまで戦死しナターレ騎士団は実質解散となった。

 そしてトップにたったのが治安維持部隊隊長だった、このわたしだ。人数はわずか200人足らずなため肩書は兵士長だが、いずれは騎士団長と呼ばれることだろう。


 このナターレ領の現状は把握している。跡継ぎが娘一人なため婿養子をとるしかない。しかし領主様は他の貴族に乗っ取られることを危惧しておられる。ならば婿は貴族以外からとるしかない。

 幸いまだナターレは貴族としての格は低く、平民から婿を取るのも不可能ではない。豪商の息子や、若くして兵士長になった者、とかだ。


 今回の「迷宮」探索はジプソフィーラ様が神力を得るのが目的だが、当然魔物を狩った者がより多くの神力が得られる。そして恩恵を手に入れることができれば、わたしは名実ともにナターレ領最強になれるだろう。煩わしい冒険者共ではなく。ふははは。


「兵士長、何やら通りの向こうが騒がしいようですが?」

「なに?」


 大柄な工兵が声をかけてきた。せっかくいい気分に浸っていたのに邪魔がはいったな。目を細めて通りの向こうを眺める。どこのどいつだ邪魔するやつは。


「ロート!」


 ふいに横から声がかかった。


「ジプソフィーラ様!?なぜここに?」

「説明は後よ!今すぐ「迷宮」に入るわ!ついてきて!」

「え?あ、はっ!」


 ジプソフィーラ様と護衛の侍女二人が横を通り過ぎていく。


「お前たち、ジプソフィーラ様の前に!先にゆけ!」

「「はっ!」」


 一緒に買い出しに来ていた兵士二人を護衛に向かわせ、わたしは後ろを警戒する。

 いったい何が起こっているんだ?

 騒ぎの現場から四人の騎馬兵が飛び出してきた。あれは?リッチ侯爵家の紋章か?なぜこんなところに?

 わたしは恭しく片膝をついて近づいてくるのを待つ。騎馬兵たちは直前まで近づき歩みを止めた。


「なんだ貴様は!?」

「はっ、わたしはナターレ領兵士長のロート・モレッティと申します。リッチ侯爵家の方がこのような辺境に何の御用でしょうか?」


 相手はイライラしている様子だったが、わたしは出来るだけ威厳のある仕草で対応した。


「わたしが領兵の責任者ですのでお話を伺いますが?」


 両手を広げ寛大さを表す。



『貴君が責任者か、これは失礼した。ナターレにもこれほどの人物がいるとは。ぜひ話を聞いてもらいたい』

『わたしなどでよければ』



こんな感じか?


「小物だな、斬れ」

「はえ?」





「ロートが斬られたね」

「え!?」

「止まらないで、走って」

「きゃぁ!?」


 ソフィー様が止まりそうになったのでお尻を叩く。

 後ろから悲鳴が聞こえる。ロートが斬られたことに気づいた民衆が騒ぎ始めたみたいだ。


「プルーニャは先に中の安全確保」

「りょーかいニャ」


 地面に肉球のへこみが出来て兵士二人をあっさり追い越し、10mほど先の入り口にプルーニャが消えた。

 横に小麦粉を積んだ荷馬車があったので、ナイフで切り裂き思いっきり蹴飛ばした。辺りは小麦粉が舞い上がり視界を隠してくれる。


「なんだなんだ!?」

「ごめんねお代だよ」


 ボクは走り去りながら金貨を指ではじいた。空に舞い上がった金貨はゆっくり落ちてきて、荷馬車の持ち主の手のひらに収まった。

 ロートを斬った騎馬兵が迫ってきたが、先が見えないことに馬が怯え棹立ちになって止まる。


「ええい!なんだコレは!?」


 ソフィー様が「迷宮」に入ったのはちょうどその時だ。





 暫くして騎馬兵がようやく「迷宮」の入り口に到着した。

 兵士たちは迷宮の扉を閉ざし民衆に向け宣言する。


「聞け!今からこの「迷宮」は国王陛下の直轄となる!誰であろうとも立ち入ることは許されない!」

「そんな!中に入ってる連中は!?」

「だまれ!今からと言ったはずだ!中にいるものは直轄地に無断侵入した犯罪者となる!」

「なんてことだ・・・」

「そんな無茶な・・・」


「迷宮」が封鎖。その噂はすぐに国中を駆け巡るのであった。

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