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9話:急展開

 5日後、子爵への昇爵の儀が執り行われる。査問会の翌日、一度領地に戻ろうとしたのだが財務大臣のリッチ侯爵に王宮に留め置かれた。

 影からの報告では今朝早くにリッチ侯爵の手のものがナターレに向かったそうだ。時間的な猶予を与えないつもりか・・・急いで影の1人にナターレに向かってもらったが間に合わないだろう。


 ソフィーはそろそろ出立予定の時間なのでリッチ侯爵の手の者には捕まらないだろうが、ジニアたちが心配だ。

 リッチ侯爵の目的はおそらく「迷宮」の閉鎖。そしてソフィーの身柄の拘束、といったところか・・・時間的猶予は1日しかない・・・

 引き渡しに3ヶ月はかけるつもりだったが、これほど早く動くと言うことは随分前から計画していたのだろう。

 ソフィーが間に合って迷宮に入っても一度出てしまえば二度と入れない。それどころか外にでたところで捕まってしまうだろう。そして難癖をつけてリッチ侯爵の息子をナターレ領主に・・・そこまではないとは思うが最悪の事態も考慮しておかなくては。


 日帰り予定なのでたった1日の探索でどれだけ”レベル”が上げられるものか・・・

 直接戦闘に参加しない者は中々”レベル”が上がらないと聞く。

 今回は諦めるしかないか・・・


「オルテンシア様、申し訳ありません・・・ソフィー、どうか無事で」




「あははははは」

「おかしいでしょう?」

「バラすにゃんてひどいニャ!ニンフェア!」


 旅も2日目、そろそろ「迷宮」のある迷宮の村に到着する頃です。安直な名前ですね。

 馬車の中は笑い(約一名泣き)に包まれ穏やかに過ぎていく。わたしとニンフェア、プルーニャはすっかり打ち解けあい、主にプルーニャの失敗談の話で盛り上がっています。

 ニンフェアやプルーニャは12歳のわたしより小柄で護衛なのに年下!?と思ったらお二人とも年上でした。プルーニャに至っては21歳とか!?そろそろ行き遅れの年齢ですがお相手はいないのでしょうか?・・・


「他にはどんなことがあるんですの?」


 そんなことを考えながらも楽しさに負けさらに話を促します。


「そーですね~2年前に旦那様から頂いた【揚水の杖B】というものがあるのですが、地面などに刺して杖の頭を捻ると、周りの水分を集めてどこでも飲み水がでてくるのです」

「へ~便利な杖があるのね~」

「ある時プルーニャが宿屋の中で使ってしまって、建物が砂になって崩壊してしまったのです」

「えええええええええええっ!!?」

「あ、あれはわざとじゃにゃくてだニャ!ちょっと湯あみがしたくて・・・」

「それでどうしたの!?」

「逃げました」

「悪党だわ!」

「プルーニャはすっぽんぽんでした」

「破廉恥だわ!」

「ニャアアアア!」


 プルーニャが顔を隠して悶えている。この事件は後にジニアにこっぴどく叱られて、宿屋の店主には賠償したそうです。ちょっとひどいお話しだったけど、これからこの2人と冒険ができると思うと楽しみで仕方がありません。


「お嬢様、迷宮の村が見えてまいりました。ご準備を」


 窓から外を見ると騎乗した兵士長のロートが恭しく頭を下げています。


「わかったわ。ありがとう」


 いよいよ「迷宮」に到着です。


 早速「迷宮」に入るのかと思いましたが、最後に食糧と「迷宮」産の武器防具など掘り出し物がないか調べるそうです。

 村で一番高級な宿を借り上げ、護衛に兵士5名を置いてロートと2名が宿を出ていきました。

 ニンフェアも杖を探したいそうで、プルーニャを護衛に残し音もなく消えました。

 わたしとプルーニャだけが2階の一室に入り。5名の兵士は酒場にもなっている1階で待機です。


 さて、わたしは何をしてすごしましょうか?

 プルーニャは荷物を降ろすと外套を脱いで、


「ぷふぁっ、暑かったニャ~」


 特徴的な耳としっぽがピクピクユラユラと動いています。モフりたいですね。

 プルーニャはおへその見えているタンクトップに袖のないジャケットを羽織り、足の付け根まで見える短いズボンを履いています。ジャケットにはポケットがたくさん付いており、小さなナイフやガラス製の細い瓶が納まっています。左腰にはショートソード、腰の後ろにはダガーの柄が見えている。他にも太ももにベルトを巻いておりそこにもダガーが1本。重そうですね。


「プルーニャは戦闘では何が得意なんですの?」

「わたしはコレだニャ」


 プルーニャは腰に差していたダガーを抜いてクルクル回し始めた。太もものベルトも外してもう1本回し始める。そして部屋の隅に置かれたポールランプに向けて投擲しました。2本とも見事にランプの柄を切り裂き、手のひらほどの柄が後ろに飛びました。落ちてきたランプはぴったり下の切り口に乗り何事もなかったかのように短いポールランプになりました。


「どうですかニャ♪」


 すごい腕ですけど・・・


「ダガーが壁に穴開けてますけど・・・弁償ですかね?」

「うわあああああん!黙っててニャ!」





「これは?」

「さあねぇ、魔力は帯びてるけど使い方がわからないんで」

「魔力を流してみてもいいかい?」

「勘弁してくだせぇ、爆発でもされたらたまったもんじゃねえ」


 う~ん。2年前まで迷宮の村と呼ばれたここは、今や迷宮の町と呼び方が変わっていた。

 ”鑑定”が使える人がいないため、剣や弓など直接確かめることができる武器防具以外は、ガラクタ市で扱われている。

 使用回数のある杖や魔道具の類は玉石混合で、手に入れた冒険者が何度か使ってから店売りする。

 そのため、たとえ効果が分かっていても残り使用回数1回などということもあり得るのだ。


「その割には高いんだよね。効果が分かってて役に立ちそうなのはコレだけか」


 攻撃を受けた時強力な不可視の盾を出してくれる腕輪。1回だけだとしてもソフィー様の命を守れるなら必要だ。腕輪だけを買うと次の店を探すことにした。

 通りを見回してそれらしいお店を探していると横の路地に気配が生まれた。


「ニンフェア、緊急事態だ・・・」


 声の主は同じ影の仲間で息を切らしている。余程急いで来たのだろう。

 ボクは路地を塞ぐように背中を向けて周りを警戒する。


「何があったんだい?」

「財務大臣のリッチ侯爵が旦那様から「迷宮」を奪った。ここを封鎖するつもりだ」


 なんてこった。独占か。


「猶予は?」

「ない。すでに町に入ってきてる」

「すぐにソフィー様を連れて「迷宮」に入る。時間稼ぎを」

「わかった」


 ボクは滑るように路地に入ると縮地で消える。

 宿屋に戻ってくると入口から入らず外から2階のソフィー様の部屋まで飛び、空中で縮地を発動させ一気に部屋の中に入った。その瞬間首筋にダガーの冷たい刃が当てられる。


「あぶにゃいニャ~、敵かと思ったニャ」

「ニンフェア!?」

「話は後です。今すぐに「迷宮」に入ります。外へ」

「わ、わかりました」


 プルーニャは無言で脱いでいた外套を着こむと背嚢を背負う。そのままソフィー様の手伝いを始めたのでボクは残りの護衛に声をかけに行く。


「は?今すぐ「迷宮」にだと?兵士長も戻ってきてないのだぞ・・・」


 ダメだ、こいつらと話している時間がない置いていく。

 プルーニャがソフィー様の手を引いて階段を駆け下りてきた。


「お、おい!ジプソフィーラ様をどうする気だ!?」

「さっきも言った。「迷宮」に入る。間に合うならついてこい」


 ボクが先導しプルーニャとソフィー様がついてくる。

 裏路地を抜け、干してある洗濯物を切り裂いて(ごめん)最短距離で「迷宮」を目指す。


 道の先でもめ事のようだ。身なりのいい4人の騎馬兵が立ち往生している。

 地面に大量のリンゴが転がり道を塞いでいたのだ。


「何をしている!早くリンゴをどけろ!」

「へ、へえ、申し訳ありません」


 ボクたちはその直前で裏路地に入り先を急ぐ。うまくやってくれたようだ。

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