表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/166

幕間16話:ドーピング

 空気が変わりました。


 転移は無事成功し、また別の迷宮なのは間違いなさそうです。


 しかし何でしょう、この張りつめた空気は。


「よし!今度こそ歯ごたえのあるボスを頼むぜ!」


 マスターが扉に向かって歩きます。嫌な()()がします。わたしには予知機能などないはずですが。


「マスター!!」


 わたしは大声を上げてマスターを呼び戻します。


「んあ?オルテンシア?ああ、そうだったな。先にボス部屋の中を鑑定してもらっとかないとな」


 鑑定をするのをためらいます。しかしこの部屋から出てボスを倒さないと「魔法陣」は使えません。


 進むしかありません・・・


「【鑑定(バリュータジオーネ)10】・・・」

「どうだ?オルテンシア。少しは歯ごたえのあるボスか?」


【ドラゴンロード・ココドリーロ】

 20階層ボスドラゴンロード:オス

 年齢:7

 種族特性:炎のブレス

 レベル:200

 状態:睡眠

 力 :SS

 体力:S

 俊敏:C

 器用:F

 英知:S

 脳力:S

 魔力:SSS

 スキル:魔法耐性4、物理耐性2、浮遊2、自己回復2


 ・・・なぜ、こんな強力な魔物が・・・


「マスター、真面目なお話をします」

「ん?」

「ボスとはわたしだけで戦います」


 昨日と同じですね。マスターの顔つきが変わりました。しかしそれはほんの一瞬で、眼を閉じてため息をつきました。


「強力な魔物なんだな」

「・・・はい」

「勝算は?」

「わたしは負けません」


 わたしは俯いて答えました。


「オルテンシア、俺の目を見ろ」


 マスターが一歩前に出て目の前30cmにまで近づいてきました。わたしよりまだ10cmほど背の低いマスターですが、1、2年もすればわたしを追い越すことでしょう。


「ウソは無しだ。勝算は?」

「・・・45%・・・です」


 わたしが万全な状態ならば勝ち目もあります。しかし、自己修復機能が停止している今、長引くと勝ち目はありません。


「俺が参戦したら?」

「ダメです!あのドラゴンロードにはマスターでは!・・・」

「ドラゴンロードか・・・それで、俺が参戦した場合の勝率は?」


 マスターは死なせるわけにはいきません!絶対に戦わせるわけには・・・

 わたしが無言になったのを見てマスターが苦笑しました。


「まあ、オルテンシアに比べれば俺なんて大したことはないのは分かる。足手まといになるかもしれない。でもな、お前が死んだらどのみち俺たち3人でドラゴンロードと戦わなきゃならなくなる。それなら1%でも2%でも勝率が上がるなら、オルテンシアと一緒に戦わせてくれ」

「・・・」


 どちらが正解なのでしょう・・・


 わたしがボロボロになろうと勝てばマスターたちは助かります。しかし、わたしが負ければマスターたちは確実に死にます。


 それなら少しでも可能性が高い方に賭けるべきなのでしょうか?・・・


「・・・48%です」

「おお、俺が3%もの戦力になるのか!これでも少しは強くなったんだな」


 マスターが喜んでいます。これから死ぬかもしれないのに、なぜそんな笑顔になれるのでしょう?・・・


「俺が参戦したらもう少し上がるかな?」

「わ、わたしもです!」


 トゥリパーノとステッラも参戦するようです。以前のお二人なら何の役にも立たないところでしたが、昨日のレプラコーンのボス戦でかなりレベルが上がっています。


「51%です・・・」

「二人でマスター一人分か、まあしゃーねーな」

「それでも、勝率の方が高くなりましたよ!」


 本当に、これでいいのでしょうか?・・・


「オルテンシアお前、俺のことが好きか?」

「なっ!?」


 マスターは急に何を言い出すのでしょうか!!

 わたしはアンドロイドです!そんな感情なんて・・・なんて・・・体温が急上昇します。急いで冷却しないと!


「昔のお前は感情のないアンドロイドだったが、こっちに来てからはどんどん人間ぽくなってきたな。今じゃ普通の人間にしか見えないよ」


 マスターに恋していることがバレたのでしょうか・・・わたしは故障してしまったのでしょうか・・・


「オルテンシア」


 マスターがわたしの頭を両手で挟みグイっと引き寄せ抱きしめました。


「俺のことが好きなら、俺を一人にするなよ。俺だけ置いて死ぬことは許さない」

「マ、マスター・・・」


 マスターの声が、耳元で聞こえます!思考回路がショートしました。何が起こっているのでしょう!?

 こういう時はどうすればいいのか、わたしの両手の置き場がなくて空中を彷徨います。


「ステッラ」

「トゥリパーノ・・・」


 二人の声が聞こえたのでチラッとそちらを見ると、抱き合ってキスをしていました!


「お前だけは守ってやる、って言いたいとこなんだが・・・相手がドラゴンロードじゃ守れそうもないな。だから、死ぬときは一緒だぜ」

「うん。ずっと一緒にいる」


 ステッラの手がトゥリパーノの背中にまわっています。こうすればいいのでしょうか。

 わたしもステッラの真似をしてマスターを抱きしめました。

 そして・・・キ・・・キスをすれば、いいのでしょうか?・・・その時頬にマスターの唇が触れました。


「二人とも生き残ったら、今度は唇にしてやるよ」


 !!頭が沸騰したようです!生き残らねば!なんとしても生き残る為には手段を選んでいられません!!

 わたしにできることを、違法な手段ですがこの世界に以前の法律なんて関係ありません!体内でナノマシンが高速で薬物を生成し始めます!


「マスター、わたしからのお返しです」

「ん?」


 カプッ


「んぎゃあああああああああああ!!」


 少し痛むかもしれませんが我慢してください。マスターの首筋に噛みついて牙から薬剤とナノマシンを注入します。前の世界では違法だったドーピング薬剤です!筋力上昇!思考力上昇!柔軟性上昇!精神安定!身体に負担がかかりすぎますから、20分経ったらナノマシンに中和剤を散布させましょう。


 魔物の蔓延る世界です。身体強化をするこの技術はまだ残っているかもしれませんね。


 差し詰め「付与魔術」と言ったところですか?


 これで、マスターの生存率が少しでもあがりますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ