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8話:査問会

「それでは行ってまいりますねジニア」

「お嬢様忘れ物はないですか?回復ポーションはもちました?毛布は?プルーニャ調教電撃ムチの使い方は覚えましたか?」

「ジ、ジニア、皆がみているわよ」

「にゃんか不穏にゃ言葉を聞いたニャ・・・」


 あわててジニアの口を塞ぐ。ほんとに心配性なんだから・・・


「大丈夫よ、それよりお父様はまだ戻られないの?」

「はい、未だお戻りには・・・」


 お父様は三日前に王都からの急な呼び出しで出かけたままです。王都までは片道一日ほどなので早ければ今朝にも戻ってこれたのですけど。


「残念ですけどそろそろ行きませんと」

「お嬢様、くれぐれもお気をつけて。ニンフェア、プルーニャ、命に換えてもお嬢様をお守りしなさい」

「ア、アイアイサー・・・」

「りょ、了解だニャ・・・」


 ジニアが目だけ二人に向けて命令した。目が光ってたんですけど・・・ギラッって・・・


 馬車の扉が閉まりゆっくり動き出す。わたしは小さな窓からジニアに手を振って「迷宮」に向け出発したのでした。「迷宮」までは王都とは反対の南に約一日。途中の村で一泊して明日のお昼頃到着予定です。


 馬車の中にはわたしと、護衛兼侍女として乗り込んでいるニンフェアとプルーニャの三人。

 侍女なのに全身黒いローブに身を包み顔も半分隠している。怪しいことこの上ない・・・

 兵士たちは訝しんでいるようでしたけど、女性であるわたしの身辺警護役は女性にしか務まらないので納得してくれたようです。

 一度挨拶しただけの、ほぼ初対面の人と狭い馬車内で一緒にいると緊張してしまいます。


「あ、あの、護衛よろしくお願いいたしますね。ニンフェア、プルーニャ」

「まかせておいてニャ、ソフィー様!」

「おまかせくださいソフィー様、ボクが守ってみせるよ」


 オルテンシア様がおっしゃるには二人ともB級相当の強さらしく、兵士長のロートより強いみたい。

 ちなみにわたしはF級以下で農民より弱いらしいです・・・安全第一、目標生き残ること!

 早く”レベル”を上げないと、暗殺者にやられるどころか転んで頭を打って死にかねません。

 お二人の強さが・・・


「・・・うらやましいですね」

「ん?なにがニャ?」


 声がでていたようです・・・


「あの、いえ、わたしは強くならなければいけないのですが、お二人の強さがうらやましくて」

「ボクからしたらお貴族様であるソフィー様の方がうらやましいよ」

「そうだにゃ~いつもキレイにゃドレス着てるし夜はぐっすり眠れるし」

「あっ・・・」


 そうでした。お二人はわたしを守るために日々過ごしているというのに・・・失言でした・・・


「その、ごめんなさい。そんなつもりではなかったのですが・・・」

「別に怒っているわけじゃないよ。ボクたちとは立場が違うのだし。・・・ソフィー様にそんな顔をさせたとジニア様にばれたら殺されちゃうよ・・・」

「あのお仕置きはもうイヤニャ、勘弁ニャ・・・」


 ジニアったら一体何をやったのでしょう・・・プルーニャの怯え方が尋常ではありません。


「ボクたちに気を遣う必要はないよ。ソフィー様は命に換えても守るし、御用があればなんでも言いつけてくれていいから、プルーニャに」

「わたしだけニャ!?」

「プルーニャ調教電撃ムチはそのために用意したんだからね」

「あれ用意したのニンフェアにゃの!?」

「ぷっ、あははははは」


 おかしくなってしまいました。何を緊張していたのでしょうわたしったら。なかなか人見知りは治りませんね。


「肩の力は抜けたかい?ソフィー様」

「ええ、ありがとうニンフェア」

「ソフィー様、電撃ムチは勘弁ニャ・・・」

「ふふ、使わないから安心して」

「よかったニャ~」


 プルーニャはフニャフニャになって椅子からずり落ちました。なんとなく二人の関係がわかって楽しくなってきました。わたしも早くこの二人と仲良くなりたいな。馬車の旅は始まったばかりです。到着するまでに親睦を深めませんと。





 まさかこのような手でくるとはね。


「開墾永年私財法はあくまで開墾した土地の所有権を認めるもの。発見した「迷宮」の所有権は当然国王陛下のものである!」

「ナターレ辺境男爵は陛下の「迷宮」を私物化するおつもりですかな?」


 呼び出された王宮でわたしは査問会にかけられていた。曰く、「迷宮」を陛下に返却せよ、と。

 謁見の間に居並ぶ貴族どもはここぞとばかりに非難を浴びせてくる。急成長する我が家が妬ましいのだろう。


「恐れながら陛下、義父がナターレの地を開墾した時、”魔の森”以南を領地と定められたはず。周辺で採れる森の恵みや鉱山は所有権が認められているのでは?」

「ふむ、どうなんじゃ財務大臣」


 陛下に問いかけてみたものの、財務大臣のリカルド・ネル・リッチ侯爵に丸投げしているところを見ると、これは陛下のお考えではなく腐った大臣どもの甘言のようだ。


「確かに自然の恵みや天然資源はそうでしょう。しかし「迷宮」は明らかに作られた物。建造物です。しかも周辺とおっしゃられるがナターレの中心エリカの町から1日の距離とか?エリカの町からこのフリージア王国王都までも1日。まさかナターレ辺境男爵は王都までもナターレ領とでも言うおつもりですかな?」


 話しをすり替えている。発見したのは領民であり、周辺の森を切り開いて村を作ったのも領民だ。「迷宮」の()()()がいない限りナターレ領のもので問題ないはず。

 この大陸で4つしかない貴重な資源庫である「迷宮」。王に献上したところで財務大臣、リッチ侯爵が管理するのだろう。下種がっ!


 発言しようとすると、陛下が手を軽く上げてわたしと財務大臣を制する。


「どうじゃろうナターレ辺境男爵よ、これまでの功績は認めるものである。正式に子爵に取り立ててやるゆえ、「迷宮」を王都直轄地としてはくれぬか?」

「へ、陛下!昇爵させるなどと!」


 これは提案ではなく命令だ。陛下の提案を断ることはできない。ここで断ればナターレ領は取り潰され、わたしの首もとぶことだろう。


「陛下の温情痛み入ります。わたくしパパーヴェロ・ディ・ナターレは陛下の忠実な臣下でございます。喜んで「迷宮」を陛下に献上いたします。しかしながら「迷宮」周辺は町になっておりますゆえ、王都直轄地とするならば住民の説明や移住等、しばしお時間をいただければ、と」

「おおそうか、すまぬなナターレ子爵。そうじゃな、細かいことは財務大臣とすり合わせてくれ。大儀である」


 わたしは頭を下げながら奥歯を噛みしめる。急いで領地に戻り対策を立てねば。

 まずお触れを出し「迷宮」が王都直轄地になったことを広める。一般冒険者の入場を止め、その間にソフィーたちに「迷宮」に入ってもらう。

 迷宮の町は接収されてしまうだろうから、商工会や冒険者ギルドと移住や補償の話し合い、説得に・・・どこまで引き渡し期間を引き延ばせるか・・・2か月、いや3か月はいけるか・・・そこまでになんとか。


 今後は陛下の許可なく「迷宮」に入れなくなるかもしれない。

 おそらく財務大臣に止められるだろう。

「迷宮」が閉鎖される前にソフィーが”レベル”をあげることができればよいのだが・・・

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