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【恋愛 異世界】

紅い髪の魔女

作者: 小雨川蛙
掲載日:2022/03/24


昔、独りの小娘が。

ある日、親と喧嘩して。

大泣きしながら、外へ出て。

勢い、そのままに言いました。

「魔女の処へ行ってやる」

母さん、驚き、悲鳴あげ。

父さん、慌てて、追いかける。

されど、小娘の足は。

村一番の早さです。

必死に追いかける父さんの。

姿はすぐに消え失せて。

気づけば、声さえ届かない。

小娘、一瞬、躊躇うも。

足は何故か止まらない。

ただ、ただ、前へ走るだけ。

まるで何かに導かれ。

娘の足は止まらない。


昔話にありがちな。

荒唐無稽な物語。

数百年も昔から。

村の外れの森の中。

古いお屋敷が一つだけ。

ぽつんと寂しく建っている。

そこには遥か昔から。

独りの魔女が住んでいる。

夜呼ぶ、夕日の、色に似た。

紅い色の髪の毛を。

綺麗に結んだ魔女が住む。

だから、魔女を恐れた人間は。

森に決して入らない。

魔女を恐れて入らない。

しかし、当の小娘は。

勢いつけて、無謀にも。

森へあっさり入り込む。

しかし、娘の想うより。

森は遥かに危険です。

お日様真上に昇っても。

娘の足元暗いまま。

一歩足を踏み出せば。

たちまち足をすくわれて。

頭に大きなコブつくる。

コブの痛みで、段々と。

頭が落ち着き、取り戻す。

それでも娘は挫けない。

後ろを振り向きさえせずに。

じっと、そのまま考える。

やがて、娘はひらめいた。

両手、両足、地面につけて。

生まれたばかりの小鹿のように。

ふらふら、ふらふら、進みだす。

森の奥へと進みだす。


やがて、お屋敷、見えてきて。

気づけば、木の根もなくなって。

お日様邪魔する森の木も。

娘の周りにありません。

今や、娘はお屋敷の。

前に立っているのです。

娘は扉をノックします。

こん、こん、こん、とノックします。

わずかな、わずかな、あいだだけ。

娘はそこで待ちました。

やがて、どうぞ、と戸が開き。

中から、一人の妙齢の。

女が現れ言いました。

「初めまして、おかあさま」

礼儀正しくお辞儀され。

娘は混乱いたします。

娘を迎えたその人の。

髪は真っ赤な夕日のよう。

自分を迎えてくれたのは。

きっと、魔女に違いない。

娘は言葉が出せぬまま。

魔女をただただ見つめます。

魔女は微笑み言いました。

「どうぞお入りくださいな」

紅い髪の毛持つ魔女は。

喜び湛えた顔のまま。

娘を招き入れました。


案内されたお屋敷は。

実に掃除が行き届き。

埃一つありません。

しかし、これほど広いのに。

どれだけ辺りを見て見ても。

気配は魔女の一人だけ。

娘は客間に通されて。

少し待つよう言われます。

「お茶をご馳走いたします」

魔女は娘へ丁寧に。

頭を下げて消えました。

はてさて一人残された。

娘はすることもなくなり。

辺りをぼんやり見まわします。

ぐるぐる、ぐるぐる見回して。

娘はようやく気づきます。

大事に、大事に、額縁に。

入れられている、肖像画。

白い髪の毛を生やした。

気難しそうなおにいさん。

「お待たせしました、おかあさま」

戻ってきた魔女の言葉で。

娘は興味をなくします。


広いお屋敷の中で。

娘は魔女と二人きり。

おまけに目の前に居る魔女は。

不思議なほどに慇懃で。

恐ろし、恐ろし、恐ろし、と。

伝え聞いた魔女だけど。

これではまるで召使い。

娘は思わず尋ねます。

「あなたはほんとに魔女ですか」

魔女は微笑み首を振る。

「いいえ。私は魔法など、たった一つも使えません」

あまりにあっさり告げられた。

その言葉がこそが魔法のよう。

魔女は笑って言いました。

「私は皆さまと同じ。ただの人間に過ぎません」

紅茶を一口飲み込むと。

魔女は笑みを寂しげに、変えてぽつりと言いました。

「私はこのお屋敷の。たった一人の召使い」

掴み切れぬ現実を。

娘はどうにか握りしめ。

先の言葉を待ちました。

魔女は一瞬、時を止め。

一つ小さく息を吸い。

静かに、静かに、語ります。

「このお屋敷には昔から。魔法使いの一族が。代々住んでおりました」


魔女の語る一族の。

所業はまさに、悪魔のよう。

いいや、それは間違いなく。

昔話の魔女そのもの。

「その通りです。おかあさま」

魔女は苦笑しています。

きっと、娘が聞いていた。

恐ろし、恐ろし、物語。

おそらくその大元は。

魔法使いの一族の。

所業がそのまま伝わった。

きっと、そんなところだろう。

「数百年も昔です。私はその一族の。一人息子に助けられ。死ぬ運命を変えられて。こうして生きているのです」

魔女は語り続けます。

自分を救った魔法使い。

彼は一族でただ一人。

澄んだ心の持ち主で。

家族の仕打ちに耐え切れず。

心を痛めておりました。

「私の家族は一族に。嬲り殺しにされました。私もそのまま殺される。そう思った矢先に。主様が救ってくれました」

それは突発的なもの。

しかし、確かな行動で。

彼は気づけば同族を。

自らの手で殺めてた。

彼は呆然として。

助けた少女を見つめます。

夜呼ぶ、夕日の、色に似た。

紅い色の髪の毛を。

綺麗に結んだ少女。

彼はただただ見つめます。


「それがそのまま主様の。運命へと変わります」

娘の前に座る者。

紅い髪の毛を持った。

魔女は昔話を語ります。

自分を救った魔法使い。

そんな彼の運命を。

ただただ静かに語ります。

彼はその日の内に。

邪悪な一族と決別し。

彼らと戦う道を。

進むことを選びます。

少女も彼を支えます。

少女の村に居た。村人達も立ち上がり。

遂に邪悪な一族も。

報いを受ける時が来ます。

数年に及ぶ戦いの。

果てに彼らは勝利して。

村人たちは勝ち取った。

平和に心を撫でおろし。

ようやく手にした幸せに。

静かに、静かに浸ります。

しかし、彼の顔は暗く。

何故か、諦めに満ちた顔。

そのまま一族のお屋敷で。

たった一人過ごします。

「そこで私は一人で。このお屋敷へと来ました」

しかし、彼は少女を。

ただただ邪険に扱います。

それでも挫けぬ少女に。

やがて彼が折れました。

そのまま二人は暮らします。

「けれど、一年が経った頃。村から人間がやってきます」

彼女の口から語られる。

邪悪な一族の末路。

即ち、彼女が仕えてた。

大切な主の末路。

村の人間達は。

彼も邪悪な一族と。

気づき殺すと決めたのです。


彼はそうなることを。

どうやら悟っていたようです。

彼は少女に言いました。

『今すぐ、ここから逃げてくれ』

泣き出し、離れない少女に。

彼は尚も言いました。

『私は死ななければならない。それが果てしなく続く。一族の受ける罰なんだ』

しかし、それでも離れない。

彼はほとほと困り果て。

どうすれば良いかと聞きました。

「私は主様に言いました。共に罰を受けたいです」

娘は思わず、驚いて。

魔女をじっと見つめます。

紅い髪の毛を持った。

彼女は未だに生きています。

しかし、彼女の語る。

主はどこにも見えません。

魔女は静かに立ち上がり。

白い髪の毛のおにいさんの。

肖像画が入れられた。

額縁をじっと見つめます。

「主様はあのまま殺されて。今も罰を受けています。地獄の業火で身を焼かれ。一族の罰を受けています」

魔女は一度黙り込み。

やがて、息を吐き言いました。

「しかし、いずれ罪は消え。再びこの世に生まれます。主様は確かに言いました。戻って来ると言いました」

娘は暫し呆然と。

魔女を見つめていましたが。

遂に意を決し問いました。

「あなたの罰はなんですか?」

魔女は微笑み答えます。

「主様の最期の魔法。それは不老の魔法です。つまり、私は老いません」

娘は思わず息を飲み。

彼女の罰を知りました。

「主様を独りで待ち続ける。それが私の罰なのです」


全ての話を聞き終えて。

娘は魔女に見送られ。

お屋敷の外へと出ました。

娘は初めて見るように。

彼女をじっと見つめます。

紅い髪の毛を結んでいて。

歳をとることはないけれど。

彼女は魔女ではないのです。

娘にとってはあまりにも。

それは奇妙なのでした。

しかし、確かなことなのは。

娘は恐ろしい魔女の。

お屋敷から無傷で帰るのです。

娘は彼女へ礼をします。

「お茶をご馳走様でした」

「私もおかあさまに会えて。とても、とても幸せです」

娘は少し躊躇って。

彼女へ問いを投げかけます。

「あなたはなんで、おかあさまと、私を呼ぶのです?」

すると、彼女は微笑みます。

「最後の別れの前に。主様が私に言ったんです」

娘は彼女の顔が。

幸せに満ちているのに気づきます。

「ここに次に来る者は。私の母となる者だ」


あれから十数年が経ち。

娘は女性となりまして。

村の男と結ばれて。

一人の子供を生みました。

赤子だというのに白髪で。

話す言葉は大人びた。

そんな男の子なのでした。

ある日、その子は女性へと。

ぺこり頭を下げ、言いました。

「長くお世話になりました」

女性は頷き言いました。

「早く行っておあげなさい」

彼は静かに頷くと、そのまま歩き去りました。


やがて、深い森の中。

紅い髪の毛を結んだ。

魔女と呼ばれた一人の。

女が大泣きして言いました。

おかえりなさい、と言いました。

そんな彼女の体を。

遥かに小さな体で。

彼は受け止め言いました。

おまたせしたね、と言いました。

紅い髪の毛を持った。

魔女と言われた女は。

愛しい方の胸の中。

わんわん、わんわん、泣きました。



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