【俺と彼女の悪い子計画】清楚可憐な完璧美少女がへそにピアスをしていた~完璧であることに疲れた彼女に不真面目陰キャな俺が悪い事を教えてみた~
「堀江くん、また授業をサボりましたね?」
「えと……白百合さん、近いんだけど?」
眉根を少し吊り上げた白百合朋絵がムッと頬を膨らませて詰め寄ってきた。
美人が怒った時特有の覇気は感じられない。むしろプリプリという擬音が似合いそうな可愛げがあるのは元の顔立ちが優しいせいだろうか。
昼休みの教室。
ガヤガヤと騒がしい教室に不似合いな白百合さんの声色。
重役出勤してきた俺と白百合さんに視線が一瞬にして集まるのを感じる。
無理もない。
かたやクラスで『完璧』と讃えられる清楚可憐な美少女。
かたや遅刻常習犯で不真面目陰キャな俺。
クラスカーストの頂点と底辺にいる人間が向き合っている状況。
ちょっとした異常事態だ。
「これで何回目ですか? あんまり遅刻ばかりしていると高校を留年しちゃいますよ」
「あはは……」
糾弾する、というよりかは本気で俺のことを心配していそうな感じがする。
だからこそ申し訳なさで胸が痛む。
こんな俺のことを心配してくれるなんて、白百合さんはどこまでいい人なんだろう。
「ねえ、朋絵。いいって放っておきなって」
「そうだよ、朋絵はちょっとお人よしすぎるって」
周りの女子たちが口々に割って入ってきた。
それでも白百合さんは、その大きく黒々とした瞳を淀ませることなく言う。
「私、学級委員長ですから。放ってはおけません!」
「は~、朋絵って意外と頑固なんだから……朋絵に余計な負担掛けないでよね」
「あはは……善処します」
曖昧に笑ってやりすごす。
悪いのは遅刻してきた俺なのだ、このくらいの非難は受けて然るべきだろう。
周りの女子たちに引きずられるようにして、まだ何か言いたげな白百合さんが離れていく。
お互いのためにもこれでいいのだ。
俺と白百合さんは住んでいる世界が違う。
百合の花と雑草が並んでいたら、誰だって雑草を引き抜くように。
俺は白百合さんの隣に立つべき人間ではない。
でも白百合さんはそんなことは気にしていないらしい。
きっと腹の奥底まで綺麗なのだろう。
そんなことを思いながら、俺は自分の席に突っ伏して寝る準備を始めた。
視線の先では白百合さんがやはり笑顔を絶やさずに誰にでも優しく振る舞っている。
「ほんと、白百合さんっていいよなぁ……」
「分かるわぁ……穢れを知らないって言うかさ、高嶺の花って言うかさ」
「ちょっと聞いたんだけど実家も近所では有名な名家なんだって」
「完璧過ぎる……」
近くの席の男子たちの他愛もない噂話を聞きながら俺は眠りについた。
◆◆ ◆
ふと体に優しい衝撃を感じた。
体を揺すられているらしい、とぼんやり察して体を起こす。
「白百合さん……?」
目の前には何故か白百合さんがいた。
白百合さんの席はここじゃなかったはず……。
きょろきょろと辺りを見渡すと、教室には白百合さんの他に誰もいなかった。
頭に疑問符が浮かぶ。
それを察したかのように白百合さんが口を開いた。
「次の時間、体育ですよ。堀江くんも早く用意してください」
「……俺はいいよ。それより俺なんか相手にしてたら白百合さんが遅刻しちゃうよ?」
「私は……体調が悪いので……今日は自習なんです」
そっと片手がお腹の辺りを隠すように動いたのを見逃さなかった。
──ああ、「そういう日」か。
下世話な勘繰り。
ただそれを口にしないだけの良識は俺にもあった。
「じゃあ、俺も自習にするか」
そう言って再び寝ようと、今度はさっきよりも強く体を揺すられた。
「ずる休みは……ダメです」
「デスヨネー」
これ以上白百合さんに迷惑をかけるわけにもいかないか。
俺は諦めて渋々体育の授業に参加するべく席を立ったのだが……。
びゅう、と。
その瞬間、突風が教室に舞い込んできて俺の机の上にあったプリントを巻き上げた。
「やべ」
反射的に口にして、宙に浮いたプリントに手を伸ばした。
だがしかし、伸ばした手はプリントの端を掠めただけで手には収まらなかった。
ひらひらと。
舞い踊るように不規則な動きで、プリントがどんどん巻き上げられていく──
「えいっ!」
はずだったプリントを白百合さんがしっかりとキャッチした。
長い黒髪をふわりとなびかせながら跳躍する様は見事。
そして、そのまま着地……文句なしの10点。
「はい、どうぞ」
そしてにこやかにプリントを俺に手渡してきたのだが……。
俺の意識は完全に【あるもの】に奪われていた。
「へそピアス……?」
見間違えかと思った。
でもそれ以外に考えられないのだ。
白百合さんが跳躍して手を伸ばした瞬間、めくれ上がるセーラー服。
チラリと覗くおへその部分に、【それ】は確かについていた。
清楚可憐な完璧美少女の白百合さんがへそにピアスを付けていた。
「見ましたね……」
我に返ると、顔を真っ赤にした白百合さんがいた。
両手でお腹の辺りをキュッと抱えて、うずくまるようにして瞳を潤ませている。
「ごめん、わざとじゃなかったんだ。見えちゃっただけで……」
「でも見えちゃったんですよね」
「はい……」
遅刻した俺を注意する時よりも、とげとげしい、刺してくるような視線。
よくよく考えればおかしいのではないか?
そもそもピアスなんていうのはオシャレの一種であって、見せてこそ意味があるものだろう。
なんで俺はピアスを見たことで糾弾されているんだ?
「いえ、むしろ見られたのが堀江くんで良かったのかもしれませんね……堀江くん、少し話を聞いてもらってもいいですか?」
「は、はぁ……」
「堀江くんって『悪い子』ですよね?」
「まあ遅刻常習犯だし……居眠りはするし……『悪い子』ではあると思うけど」
「そんな『悪い子』な堀江くんから見てどう思いました? おへそにピアスっていうのは」
「どうって……」
どう答えるのが正解なのかさっぱり分からない。
ただ妙に白百合さんが真剣な空気で聞いてくるものだから、はぐらかすのも違うか、と思えてくる。
「意外……って言うか、イメージと違うって言うか……」
「そうですか……! そうですよね!?」
「なんで嬉しそうなの……?」
分からない。
宇宙人と話している気分だ。
いや、それよりも奇妙な経験をしている気がする。
言葉は通じているはずなのに、会話が成立していないような……。
「みんな私のことを『良い子』だと思っているじゃないですか。親もそうです、皆私のことを『良い子』だと思って、『良い子』ならこうあるべき、って期待してくるんです」
「実際『良い子』だし、間違ってはないんじゃない?」
俺の何気ない言葉に白百合さんは苦笑する。
しまった、どうやら白百合さんにとって『良い子』というのは地雷ワードだったらしい。
「そんなことありませんよ、私は周囲の空気に逆らえない弱い子なんです。皆が作ってくれた『良い子』の仮面を壊す勇気がないだけなんです……。『良い子』の仮面を被り続けていたら、いつの間にか完璧と呼ばれるようになって……でも弱い私は完璧でいるのに疲れて……だから少し反抗しようと思ったんです、『悪い子』になるためにピアスを開けたんです」
なるほど、それでピアスを開けた、と。
「だからっていきなりおへそはないでしょ……普通耳とかさ」
「おへそが一番バレない場所かな……って思ったので」
「なんかズレてるなぁ……」
反抗の仕方が可愛らしいと言うか、思い切りがすごいと言うか……。
色んな意味で常人ではないらしい。
「でもそんなこと俺に話してよかったの? もうちょっと仲いい人とかに打ち明けた方が良かったんじゃ……」
「堀江くんだからこそ、話せたのかもしれません」
「と言うと?」
「堀江くんって全く人からの評価って気にしてませんよね?」
「まあね……」
「正直言うと羨ましいんです。誰にも縛られずに自分を貫いている堀江くんのことが」
ないものねだりというやつか。
俺だって白百合さんのことを羨ましいと思うし。
いつだって、自分の欲しい物は他人が持っている物らしい。
でもそうか、白百合さんは『悪い子』になりたいのか。
それは多分世間一般で言う悪い子とは違うみたいだけど。
要するに誰かの期待を裏切ることを悪い事だと思っているらしい。
なんとピュアな反抗期なのだろう。
無性に力になってあげたい、と思ってしまった。
無垢な白百合さんに清濁併せて教えてあげたいと思ってしまった。
だから俺は提案してみることにした。
「じゃあ、俺が白百合さんに色々悪い事を教えてあげようか?」
「本当ですか……?」
何故か目を輝かせる白百合さん。
こういう所がズレてるんだよなぁ……。
「是非、お願いします!」
「分かった。じゃあさ、今から遊びに行こうか」
「え?」
「学校をこのままサボってさ」
「いきなりそんなことを……?」
「『悪い子』になりたいんでしょ?」
まるで悪魔みたいだな、と思う。
見る人が見れば、今の俺は天使を堕天使へといざなう悪魔そのものだ。
学校をサボる、ということに強い抵抗感を持っているのか白百合さんは頭を抱えていた。
そりゃそうか、『良い子』なら学校をサボったりなんてしないだろうし。
白百合さんは悩み続けた。
悩み続けて、頭から湯気が出そうな雰囲気になっていた。
そして悩みぬいた末に、
「分かりました、サボりましょう」
俺の誘いに乗った。
「じゃあ、帰り支度して行こうか」
「……はい」
こうして俺たちはこっそりと平日の昼間の街へと繰り出したのだった。
◆◆ ◆
「ちょっと、堀江くん! それはスピード違反じゃないですか!?」
「いや、レースゲーにスピード違反とかないから!」
「うぅ……ズルいです」
しょぼくれた顔の白百合さんを横目に、俺は大差を付けてレースに勝利した。
ガンガンと景気のいい音楽が流れるゲームセンター、自然と声も大きくなる。
学校をサボった俺たちはそのままゲームセンターへと向かった。
白百合さん基準で『悪い子』がしそうなことを考えた結果だ。
初め学校をサボった罪悪感に押しつぶされそうになっていた白百合さんだったが、時間を経るに連れて少しずつ笑顔を見せ始めるようになっていた。
それどころかテンションが数段階くらい高くなって、ハイになっているような気さえする。
自分を縛るものから解放されたおかげかもしれない。
「堀江くん! 私、次はあれをやってみたいです!」
「クレーンゲームかぁ……いいんじゃない?」
ここのクレーンゲーム、アームが緩いんだよなぁ。
なんて興が覚めることは言わないでおいた。
「ゲームセンターってこんなに色々な遊びがあるんですね! 私……知りませんでした」
「その感じだとやっぱり来た事なかったんだ」
「はい、親がゲームセンターで遊ぶのは『悪い子』のやることだって言っていたので……」
「白百合さんはそれを忠実に守っていたわけね」
「はい、でも私今、悪い事をしています! これで『悪い子』になれますよね!?」
「あ……うん、白百合さん、『悪い子』だよ」
「っ~~~~!」
かつて見たことがないほど活き活きとした表情の白百合さん。
『悪い子』って言われて喜ぶとか、ピュア過ぎる。
きっと白百合さんは小さい頃からずっと、周りの期待に応え続ける『良い子』だったのだろう。
高校生になって、ようやく反抗期が来て、今初めて自分の意思で期待を裏切るような行為をしたわけだ。
嬉しくなるのも無理はない。
だって自分の意思で勝ち取った自由の味は格別だから。
なんて考えている間に、白百合さんはクレーンゲームをスタートさせていた。
クレーンの行く末を真剣な表情で見つめて、繊細な動きでレバーを操作している。
「完璧じゃん……」
アームは白百合さんが狙っているぬいぐるみの真上で制止し、そのままぬいぐるみをガッチリと掴んで……そして、すり抜けた。
「えぇ……何でですか!? 今の位置で完璧だったじゃないですか!?」
納得がいかない様子の白百合さん。
小さな子供のように拗ね始めた。
その様子が何とも微笑ましい。
だから、
「貸してごらん」
少しだけ『悪い子』の先輩として力を貸すことにした。
幸いぬいぐるみの位置は悪くない、これなら三回もあれば取れるはずだ。
一回目、俺はアームが開く力を利用してぬいぐるみを押し倒した。
「動きましたけど……やっぱり難しいみたいですね」
「ここからが本番だから、見てなって」
「……?」
二回目、倒れたぬいぐるみの隙間にアームをぶっ刺して、ぬいぐるみの位置を調整すると三回目でガッチリぬいぐるみを掴んだ。
白百合さんと同じように緩いアームのせいで、ぬいぐるみは大して持ち上がることなく落下したが、そこはもうゴールの真上。
自由落下したぬいぐるみは、そのまま景品取り出し口へと転がってきた。
「はいこれ、あげる」
「いいんですか……?」
「俺、そういうの興味ないし」
「ありがとうございます……このぬいぐるみ、ずっと大事にします!」
「いやそんな大袈裟な……」
そうは言ったが、白百合さんの目の輝かせ方を見ると、社交辞令じゃなくて本当に大事にしてくれそうな気がした。
◆ ◆ ◆
はしゃぎまわる白百合さんに連れられて。
俺たちはゲームセンターを日が暮れるまで遊び尽くした。
「今日はありがとうございました」
「いや、こっちこそ。いつも一人だから楽しかったよ」
「それじゃあ私、そろそろ帰らないと……両親に心配かけちゃいますから」
「また俺でよければ付き合うよ。白百合さんの『悪い子』計画」
俺は今日、白百合さんが完璧ではない普通の女の子だということが分かった。
──私、本当はこういう人間なんです。
そう言えたらきっと楽になれるのだろうが、根本的に良い子な彼女は周りの期待に応えようとして中々言い出せないのだろう。
それがストレスになって、反抗するためにへそピアスを開けるという結果になったのだと今の俺なら分かる。
これからはそんな素っ頓狂なことをしないように、白百合さんが『良い子』でいるためのガス抜きに協力してあげたい。
俺は心からそう思った──時だった。
白百合さんのスマホが鳴ったのは。
「朋絵! 貴女どこにいるの!」
ヒステリックな声が隣にいる俺にまで届いた。
どうやら白百合さんのお母さんらしい。
「学校から連絡が来たわよ! 貴女がまさか学校をサボるなんて……! 私がどんな気持ちで先生に謝ったと思っているの!? 私はあなたのことをそんな風に育てた覚えはありません!」
瞬間、白百合さんの表情が曇る。
ぷつりと。
何かが切れたような音が確かに聞こえた。
「……じゃあお母さんは本当は私がどんなことを考えていたのか知っているのですか?」
「そんなこと知りません! 貴女は貴女のやるべきことをしなければいけないの!」
「やるべきことって何ですか? お母さんの言いなりになることですか!?」
「……朋絵?」
「お母さんは私のことなんて全然見てくれていないじゃないですか! 私がどんな思いで、何を抱えていたのか全く知らない! お母さんは何一つ分かってない!」
「朋絵、貴女何を言っているの……?」
「もうお母さんなんて知りません! 私、家出します! 明日まで帰りません!」
力強く言い放って、白百合さんは一方的に電話を切った。
(明日には帰るんだ……)
こういうところが悪い子になりきれない所以なのだろう……。
白百合さんは肩を小刻みに震わせながら、肩を大きく上下させていた。
怒りと興奮で我を忘れているようだった。
「……お見苦しいところをお見せしました」
それでも一番にこんな言葉が出てくる辺り、根っからの善人なのだろう。
「大丈夫……少し休む?」
「できれば……ちょっと人の目を集め過ぎてしまいましたので……」
「あ~、まあ……そうね」
往来の真ん中で叫ぶようにまくし立てた白百合さんは、その容姿も相まって周囲の注目を集めていた。
隣にいる俺にも必然的に視線が刺さって気まずい思いをしていたところだ。
「じゃあさ、ここから近いし……一旦俺の家で休む?」
「いいのですか?」
「むしろ白百合さんが大丈夫なら」
「……と、言いますと?」
ダメだ、ピュア過ぎる。
そういう可能性のことを一切考えていないのだろうか?
獣みたいな男子だって、世の中にはたくさんいるのに。
何なら俺が獣かもしれないのに。
◆ ◆ ◆
「少しは落ち着いた?」
「……はい」
お茶を啜りながら、ほぅ、っと息を吐く白百合さん。
親に反抗してしまったことに対する興奮がまだ抜けないのか、未だにソワソワとしていた。
ぼろい六畳間に不釣り合いなほど上品な白百合さん。
なんだか申し訳なくなってくる。
「結局さ、家出はするの?」
「勢いで言ってしまいました……でも言ってしまった以上帰るわけにもいきませんし……」
「今ならまだ大丈夫じゃない?」
「それに……帰っても、冷静に話し合いなんてできそうにありませんので……」
「あ~、それはそうかも」
電話口で聞いた限りでもお互いが感情的になっているのが分かった。
これで対面してもロクな話し合いができないだろう。
お互いに熱を冷ます時間が必要だ。
「こんなことをお願いするのは申し訳ないのですが……」
「うん?」
「今日一日、私を家に泊めてくれませんか?」
「ブフォッ!?」
飲んでたお茶を吐き出してしまいそうになった。
白百合さんは自分が何を言っているのか分かっているのか……?
「私を……もっと悪い子にしてください!」
「それ他の男子には絶対言っちゃダメだよ!?」
素で言っているのか狙って言っているのか、たまに分からなくなる。
襲われても文句言えない状況だってこと……白百合さんは分かっているのか?
いや、分かっていないだろうな……。
白百合さんはどうやら悪運も強いらしい。
六畳間で二人きり。
普通の男子高校生なら我慢しろ、という方が難しいのだろうが……。
「ごめんなさい……図々しいお願いですよね」
「いや、いいよ。俺、今日の夜から朝まで家にいないから好きに使って」
「……え?」
手を出そうと思っても俺には出せない理由があった。
「俺さ、年誤魔化して深夜にバイトしてるんだ」
「どうしてそんなことを……?」
「親父と仲悪くて、高校入学をきっかけに家から逃げ出すように一人暮らしを始めたからさ。だからなるべく生活費は自分で稼ぐようにしてるんだ」
そう、今日俺は朝までバイトがある。
だから物理的に白百合さんに手を出そうと思っても出せないのだ。
「そんな、朝までバイトだなんて……もしかして遅刻していたのも、それが理由なんですか?」
「まあね、言い訳にはならないけど」
そう、言い訳にはならない。
こうなることを選んだのは俺自身なのだから。
だからこそ、白百合さんに伝えたいことがあった。
「白百合さんは、これからどうしたい? 今まで通り『良い子』でいたい?」
「私はもう『良い子』でいるのに疲れました。でも、本当の私をさらけ出して、皆の期待を裏切るのが……怖い……です」
「迷ってるんだね」
「はい……」
「でもね、大事なのは選ぶことだよ。選ばないと何も始まらない。俺は親と離れて暮らすことを選んで……色々苦労はしているけど後悔はしてないんだ。だから白百合さんも選んだ方がいいよ。『良い子』でいるのか、『悪い子』になるのか」
難しいことだ。
どっちを選んでもきっと難しい道が待っている。
でも人間には選ばなくちゃいけない時が来るんだ。
その時に「選ぶ」ことを放棄したら多分一生後悔する。
「もう一回聞くよ。白百合さんはどうしたい?」
わずかな逡巡の末、白百合さんはゆっくりと口を開いた。
「私は……私を縛るイメージの鎖から解き放たれたい……隠れてへそピアスをあけるだけじゃなくて、もっとちゃんと本当の私を見て欲しいです。そのためになら『悪い子』にだって……なります」
真っすぐに。
白百合さんの瞳は俺を見据えていた。
そこに迷いの色は見えない、確かな決意の炎が灯っていた。
なら俺も出来る限り白百合さんの気持ちに応えてあげないといけないな。
「じゃあさ、提案したいことがあるんだけど……」
俺は一つ、『悪い子』になるための提案をした。
◆ ◆ ◆
土日を挟んで月曜の朝。
教室はかつてないほどどよめきで満ちていた。
理由は簡単。
白百合さんが髪を染めたから。
真っ黒で艶めいた黒髪を校則違反ギリギリの茶髪に。
誰もが口々に噂をしている。
──意外だ。
──イメージと違う。
──これはこれでありかも。
賛否両論、様々な声がする。
いつも白百合さんと仲良くしている女子が問いかけた。
「どうしたのその髪……」
それを聞いて白百合さんは満面に笑みを浮かべながら答えるのだ。
「私、実は『悪い子』なんです」
と。
◆ ◆ ◆
──とある小さな式場。
神父さんの他に誰もいない、二人きりの結婚式。
「親には反対されてるけど、本当によかったの?」
俺はかつてないほど柔らかな笑みを浮かべる朋絵に問いかけた。
「はい、いいんです。たった一日でしたけど、あの日の境に私の人生は大きく変わりました。レールから少し脱線してしまったかもしれません。でもそれでいいんです。だって──私が選んだんですから……あなたと一緒にいたいって……」
「そっか。朋絵は『悪い子』だな」
「はい、私……『悪い子』です!」
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