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そうして、いつもの朝日は堂々と昇る

作者: けゆの民

 

 祭りが終わった。

 最後の祭りが終わった。

 私にとって、最初で最後の恨ましくも、楽しめていたその祭りが終わった。


 この祭りが。年に一度起こる、夢のような地獄のような、そんな矛盾した祭り。


 そう、つまりは私はこの祭りが嫌いだったのだ。

皆で何も考えずに、わちゃわちゃと騒ぐだけのこの祭りが嫌いだった。

人間は考える葦だというのに、それを放棄してどうするのだろうか。

それならば、この祭りの参加者は人間性が朽ち果てた動物しかいないのではないのだろうか。


 そんなことを毎度毎度、この時間が訪れる度に思っていた。

でも、それでもいつも、思っていた。


 祭りが終わり、朝日を背に、喧騒逞しく存在していたその跡地を見るたびに。

私は、どうしようもない寂寥感に襲われていた。


 誰もいなくなり、混沌の象徴であった月は陰り、そして日常へと引き戻される朝日を見る度に、私は言葉に出来ない想いを胸に抱えていた。


 そんな、嫌で嫌でしょうがない祭りも今日で最後。

今日が、最後。

そういったほうが正確なのかもしれない。

それは私の意思ではなく、進み続け止まらない時間に流されていくが故に。


 人間とは、成長していく生物であるが故に。

花のような夢も、どこまでも青い空も、その井戸から出てみれば、何でもないありふれた景色を切り取ったものでしかないわけで。


 そんな、絶対に逆らえない私にとって、その祭りは最後だった。


 最後だったから、普段よりもやらなきゃいけないことも、やりたいことも、責任も自由も増えた。

だから、折角だから。

一応これまで積み上げてきたものがあるのだから、今までを無駄にしないためにも全てやりきろう。


 そんな打算的な思いで、私は最後の祭りへと取り組んだ。

嫌いで、いやいや取り組んでいたものを、真面目に分析してみた。

途中でなんども、私らしくない行動をして、周りの人に驚かれたこともあったかもしれない。


 ああ、そういえば準備のために徹夜で色々と考えていたら、次の日、何もかもが手につかなかったこともあったな。


 でも、それでも。

その全ては、既になくなってしまった。


 あれだけ準備したイベントも、皆で考えた会場設営も、全部片付けられてしまった。

それはまるで、遊びの時間が終わったおもちゃ箱のようで。

それはまるで、大人になるにつれ狭まっていた子供の一欠片を閉ざされたようで。


 ともかく、私は最後の祭りを終えた。


 終わった後の寂寥感はいつものように、確かにあって。

なんとなく、永遠にこの雰囲気を噛み締めたいと思ってしまうのだけれど、それでも世界は回り、恐るべき日常は確かに迫ってくる。


 その荒波に揉まれて、流されて、辿り着いた先にその非日常の破片が残っているかはわからない。

この記憶が、この状態のまま保存されているのかもわからない。


 だから、私はこのカラフルで暖かな想い出が想い出であるうちに、その形を保っているうちに、未来の私へのタイムカプセルとしてこの想いを綴る。


 結局のところ、私はこの祭りが嫌いではなかったのかもしれない。


 毎回の寂寥感は、またもう一度やりたいという意思だったのかもしれない。

 

 でも、でももう手遅れなんだ。


 時間はどうしようもなく流れ、無情なそれは私をどこかへと押し流していく。


 さあ、朝日が昇って日常が訪れる。


 この想いが風化する、その前に最後の一言を、最後の想いを書き残そう。


 そうして、私はこの想いを忘れ去ろう。


 そう、私は──────





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