7.三代前女王、ルンナ様(前)
『光の国』の象徴とも言える、黄色い大きなクリスタル。
――あのクリスタルは、三代前の女王ルンナ様が創ったものだ、と。
母様が死ぬ直前に、そっと教えてくれた。
わたしも母様も、女王としての魔力は無いに等しく、殆どがクリスタル頼み。
ルンナ様は、そんなクリスタルを創れるくらい、歴代でも強い魔力を持った女王だった。
ルンナ様は祖母様の姉にあたり、若くして亡くなっているので、直接会った事はない。
でも、アニメで何度か、ルンナ様の回想シーンを見た事があるので、前世の知識でその容姿はよく知っていた。
とても綺麗で、まさに『才色兼備』という言葉が相応しい女王様。
ただ、ルンナ様の回想シーンは、アニメのストーリー上、何も関係ない場面で、唐突に出てくるものばかりだった。
だから……ルンナ様は『ミラクル☆パロキョアン』では、謎の存在とされている。
謎繋がりで、カイの謎バッドエンドとルンナ様は、何かしらの関係があるのでは……という考察が複数存在していたけど、残念ながら決定打はなく、その関連性は不明。
そんな中……全ての考察や関連本で、ルンナ様について、共通して確信していた事がある。
わたしは『闇の国』に無事入れたら、謎バッドエンド解明に向けた取っ掛かりとして、まずはルンナ様を調べるつもりでいた――。
◇◇◇
目が覚めると……まだ夜明け前のようで、窓の外は薄暗い。
目の前には、気持ちよさそうに寝息を立てる、ラナの姿。
ラナの寝相は、すこぶる悪い。
服が乱れて、豊満な胸が露わになっている。
――昨晩。
わたしは、ラナを引きずって、何とか部屋まで連れて戻った。
ラナをベッドに放り投げて、やっと一日が終わった……と、自分の部屋に戻ろうとした時、事件は起きた。
突如、背後からラナに羽交い絞めにされて、わたしはベッドへと引きずり込まれた。
その時のラナの姿が、恐怖映画に出てくる化物のようで、腹の底から絶叫したのだけど……もちろん、誰も助けに来る事はない。
わたしは一瞬でラナの抱き枕と化し……諦めて、一緒に寝た――。
薄明かりの中、ラナの角にそっと触れてみる。
ラナの角は、先の方は硬くてゴツゴツしているけど、根元の方は血管が通っているようで、温かい。
角に触られるのがくすぐったいのか、ラナがクスクスと笑いながら目を覚ました。
「うふふ。おはよう、神奈ちゃん」
ラナは大きく背伸びをして、のっそりと上半身を起こす。
「あ……ごめんね。起こしちゃったわね」
わたしもベッドから出ると、全身を思い切り伸ばし――欠伸混じりに、部屋の小窓を開けて回る。
部屋が呼吸をするように、淀んでいた空気が外へと流れ出し、新鮮な空気が入って来る。
『闇の国』は、太陽が小さくて月が大きいので、一日中薄暗い。
まだ夜明け前かと思っていたけど、既に空には小さな太陽が顔を出していた。
ラナはベッドの縁に座り、桃色の靄からホットミルクのマグカップを二つ取り出すと、一つわたしに差し出した。
マグカップを受け取って、ラナの横に座る。
ラナはもう一度大きく欠伸をして、わたしの肩にもたれ掛かる。
「うふふ。やっぱり、女の子がいてくれると嬉しいですわ」
ラナは、昨日も同じ事を言っていた。
この王宮には、わたしとラナ以外に、おそらく女性はいない。
女の子を恋しがるという事は、ここではない――違う所にいたのだろう。
「ラナは、王宮に来る前はどこにいたの?」
わたしの質問に、ラナはうーんと首を傾げる。
「さぁ……わたくし、ここに来るまでの事は、殆ど覚えていませんのよ」
はぐらかされたのか、アルコールで記憶が飛んでいるのか。
はっきりとした答えは出てこなかった。
正直、その返答は……一番困る。
今後、いつラナと二人で話せる機会が訪れるのかは、分からない。
出来るなら、今ここで全てを確認したい。
交渉はあまり得意じゃない。
わたしは、直球勝負に全てを賭ける。
「ねぇ、ラナ……。
『光の国』にいた、ルンナ様っていう女王様、知ってる?」
ラナは、わたしの言葉に息を飲むと――手に持っていたマグカップを、床にごろりと落とした。
「し……しりししし……しり、しりませんわね」
よし。よかった。
ラナは、とても素直な人だ。
考察や関連本が、共通してルンナ様について確信していた事。
……それは『ラナが、ルンナ様』という説。
だって、回想シーンのルンナ様の容姿は、殆どラナなんだもの。
違いは角の有無と髪の色ぐらいだし、この説は間違いないと信じていた。
……そうなると、ルンナ様が敵陣の『闇の国』で、四天王ラナとして活躍している、という事になる。
これは、あまりにも不自然。
ラナが、カイの謎バッドエンドの鍵を握っていても、おかしくはない。
ラナは震える手で拾ったマグカップを握りしめると……目に涙を溜めて、わたしを覗き込む。
「うぅぅ、神奈ちゃん、わたくし、違いますの。
ルンナなんて……ルンナなんて、聞いた事、ありませんのよ?」
あれ。これ、もしかして。
わたし、ラナにまで怖がられたかも。
わたしにとって、クリスタルは何より大切な魔力の源。
ルンナ様とは、そのクリスタルを与えてくれた女神に近い。
そんな女神を怖がらせるなんて……とんでもない。
「ああ、ラナ、違うのよ……何もしないから、安心して?
わたし、本当は光の女王で、カンナって言うの。
ルンナ様の……ラナの親族なのよ?ほら、これも見て?」
わたしは焦って、早口で自分の正体を暴露した。
さらに、証拠としてパロキョアンへ変身するための――光の魔力に満ちたブレスレットを見せる。
「えっ……!?」
ラナはマグカップをもう一度落とすと、目を大きく開けた。
いつもはふんわりとした桃色の髪の毛が、驚いて逆立っている。
「そんな……もしかして……神奈ちゃん。
わたくしの、孫……でしたのね!?」
ラナは、自分がルンナ様であることを、否定しなかった。
震える手を伸ばして、わたしの頬に触れる。
ラナの警戒が解かれた事に、ほっと安堵の息をもらす。
「いや、ルンナ様は結婚もしてないし、子供も生んでないわね。
わたしは、ルンナ様の、妹の、孫、ですよ」
ラナは「なるほど」と、両手をパンと叩いた。
なるほど……ルンナ様は、天然系でしたか。
読んでいただきありがとうございます!
隙を見て夕方ぐらいに後半登録予定です。