5.悪役四天王、勢ぞろい(前)
『闇の国』、王宮――。
パロキョアンを倒したわたし達は、闇の王宮に戻ってきていた。
以前芋虫状態で捕まっていた広間とは一変して、厳かな雰囲気の空間。
女王の間とよく似た造りで、闇の王であるカイに謁見するための広間らしい。
玉座にゆったりと腰掛けるカイの前で、フェブとジュンが跪き、わたしの戦力と戦況について報告をしている。
わたしは……というと。
フェブ達の後ろに突っ立って、カイの審判を待っていた。
本命会社の採用通知を待つレベルの緊張感。
これでお祈りをされたら、全てが詰む。
二人からの報告を受けるカイは、ただ無表情に頷くだけ。
これは圧迫面接の練習か何かですか……。
一通り報告を終え、フェブが言葉を締めくくる。
「――……というわけで、卑怯極まりないですが……戦力にはなります」
報告の間、わたしはずっと卑怯者扱いされていた。
せめて狡猾とか知恵者とか、別の表現にしてくれればいいのに。
『性格に難あり』で、不採用になったら立ち直れない。
「そうだな……」
カイが口を開きかけた、その時――。
何かに気付いて言葉を止めると、わたしの後ろを見て目を細める。
カイの視線の先……背後から、しわがれた声がする。
「儂は反対ですな。
……どこの者とも分からぬ者を、配下になど」
瞬間、背筋がゾクリとした。
この声は、やばい。
わたしの想像が正しければ、できる限り遭遇したくなかった人物が、後ろにいる。
静まり返った広間に、引きずるような足音が響き渡る。
そいつは、わたしを無視して横を通り過ぎると、カイの前で立ち止まった。
――現れたのは、予想通り……仙人のような、長い木の杖を手にした、小さな老人。
頭は禿げているのに、眉毛と髭は白くてフサフサ。目も口も隠れていて、その表情は一切わからない。
四天王の一人、グラス爺。
グラス爺はわたしを一瞥して、鼻でふんと笑う。
「ふん、なんと不吉な相が出ておる顔よ」
「おじいさんの顔には、不気味な相が出ていますね?」
カチンとして、口が滑った。
慌てて手で口を塞いだけど、グラス爺の顔が沸騰したように真っ赤になる。
――このグラス爺、とても気難しい人で、『ミラクル☆パロキョアン』でも一番の不人気キャラ。
子供が怖がって泣くという苦情から、お菓子のおまけシール以外でグッズも見た事ない。
「なんと礼儀も知らぬ、下劣な者め。
カイ様の配下となりたくば、新参としての立場をわきまえんか!」
グラス爺が怒鳴り、長い杖をわたしに向かって振りかざす。
「お……お待ちください、グラス爺!」
フェブが、グラス爺を止めようと立ち上がった――その時。
「あらあら。先に彼女へ暴言を吐いたのは、グラス爺ではありませんの?」
柔らかい鈴のような女性の声が響き――同時に、桃色の靄が広間一帯に立ち込めた。
「わわ……何!?」
靄は、わたしの目の前で徐々に渦を巻き、次第に色濃く、塊となり……最終的に、人の形を成した。
靄が晴れると、そこに……サキュバスのような女性が現れる。
その顔を見るなり、グラス爺の髭が不自然に揺れた。
「ふん、貴様か……」
「うふふ。もし古参が偉いというのなら……。
ここで一番偉いのは、フェブ君ですわよね?」
腰までふんわりと伸びた桃色の髪に、羊のような角。
さらには、豊満な身体を持った、美しい女性。
彼女は、四天王最後の一人。
名前を、ラナという。
アニメでも綺麗な人だとは思ってはいたけど、実物は遥かに美人。
ラナは角をくるくると触り、グラス爺を威嚇する。
「あらあら。グラス爺は女性が苦手でしたのね?
戦力が必要という時期に……心の狭い御仁ですわ」
グラス爺は頬を引き攣らせ、口を開きかけたけど……首を振ると、杖を床に突いた。
「ふん、好きにするがいいわ。
……汚らわしい」
グラス爺は吐き捨てるように言うと、溶けるように姿を消した。
◇◇◇
グラス爺の姿が見えなくなると、フェブとジュンが安堵の息を漏らす。
わたしも正直ほっとした。この先、グラス爺にはなるべく関わらないようにしよう。
ラナは、わたしを見て優しく微笑むと、カイに向き直る。
「カイ様。グラス爺はともかく、わたくしは賛成ですわよ」
これで四天王の内、グラス爺以外は全員味方になった。
……かなり嬉しいかも。
カイが、わたしを見て頷く。
「ああ。問題ないだろう」
内定……頂きました!
これで、カイの側で色々と調べられる。
最高笑顔のハッピーエンドに向けて、やっと一歩を踏み出せた。
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