4.パロキョアン・ゴスロリ・ブラック、参上
読んでいただきありがとうございます!
東京の片隅にある、のどかな公園。
夕方になると池の周りを散歩する人で賑わうけど、午前中は閑散としていて、人の姿は殆どない。
この公園は、パロキョアンと四天王がよく戦っている、聖地の一つでもある。
ここなら簡単にパロキョアンが出没して、わたしの戦力もすぐに測れるはず。
「さぁ、フェブ、ジュン。パロキョアンを呼び出して頂戴っ!」
わたしは公園で一番高い時計台の上に立ち、悪役女帝のように片手を突き出して声を張り上げた。
さっきから、何故かスコップで砂場を掘り続けているジュンは、わたしを見上げると、激しく手を横に振る。
「いやいやいや。パロキョアンは、呼び出しとかできないよ?
あいつら、こうしていると突然現れるから……出て来るまで、もう少し待ってて」
「えっ……そうなの?」
ジュン達――悪役四天王は、戦うのが趣味というぐらい、好戦的で、野蛮な人達だと思っていた。
それなのに、今は暴れる様子も無く、ただひたすら大人しく砂場を掘っている。
……何だか、調子が狂う。
「……ていうか。ジュンは、さっきから何をしているの?」
パロキョアンは、地球の守護者だから、地球に危機が訪れないと出動しない。
砂場を掘っていても、パロキョアンは現れない。
「何って……『光の国』への入口を探しているんだよ」
ジュンが何を言っているのか……理解ができない。
首を傾げると、ぐらりと時計台から落ちそうになって、慌ててバランスを取りなおす。
「……えぇと……?
わたし、パロキョアンを呼んで欲しいんだけど?」
公園の反対側でゴミ箱をひっくり返す……という謎めいた行動を続けているフェブが、ジュンをフォローする。
「ええ、今、パロキョアンを呼んでいますよ。
いつも『光の国』への入口を探していると、邪魔をしに現れるんですよ。
きっとそろそろ出ますから……もう少しお待ちくださいね。」
「…………うん?」
どうしよう……二人の話に追いつけない。
一体、どういうことなの……。
わたしは、悪役四天王……フェブとジュンを、建物を破壊したり、池の水を抜いたり、あらゆる破壊活動を好む、危ない奴らだと認識していた。
そんな危険人物から地球を守るため、わたしはパロキョアンを任命し、派遣した。
困ったことに……二人が野蛮には見えないし、破壊活動をしているようにも到底見えない。
本当に『光の国』の入口を探す事しか考えていないのだとしたら――。
あの破壊活動は……『光の国』の入口を探していただけ、という事になる。
嘘……四天王って、馬鹿なの?
二人の姿を遠目に眺めて、喉をごくりと鳴らした。
ジュンはスコップの手を止めると、柄に顎を乗せて休憩を始める。
「パロキョアン……入口探しを邪魔する奴ら……。
きっと『光の国』の門番なんだろうな」
「…………ぶっ」
二人から顔を背けて、静かに噴き出した。
……そもそも『光の国』への入口は、女王のわたしにしか開けない。
砂場に穴を掘ったり、ゴミ箱を漁ったところで、開くはずがない。
光の女王しか知らない事だから、二人が知らないのも仕方はないけど……。
フェブが、池に向かって片手を突き出す。
「確か、先日は、池の底を調べていたらパロキョアンが現れましたね。
ジュン、もう一度こっちを調べてみましょう」
フェブがクイと指を上げると、池の水がぽっかり宙に浮く。
「へぇ……フェブってすごいのね」
感嘆の声を漏らした瞬間――光の女王である、わたしの頭の中に、けたたましく警告音が鳴り響いた。
これは、地球に異変が発生した時に、光の女王とパロキョアンに伝わる警告音。
パロキョアンはこの警告音を頼りに、敵を探し、それらと戦う――。
……という仕組みにしていたのだけど。
今ので、完全に確信した。
この二人は入口を探すために、池の水を浮かせただけ……破壊活動からは程遠い。
『光の国』に戻ったら、根本的に色々と見直す必要があるわね。
いずれにせよ、今の警告音でパロキョアンがここに来る。
パロキョアンが現れたらすぐ戦えるように、わたしは既に戦闘モード。
同じく、パロキョアン姿に変身している。
『パロキョアン・イエロー』だとすぐに正体がバレそうなので、色はブラック。
衣装もゴスロリ風にアレンジして、魔法のステッキはアンブレラに改造した。
さらに、女王特権と前世の知識で、最強フォームまで強化済。
わたし一人だけ、最終形態の『スーパー☆パロキョアン』でスタンバイ。
普通のパロキョアンに、『スーパー☆パロキョアン』が負けるはずはない。
「そこまでよ!」
公園に凛とした声が響き渡る。
宙に浮いていた池の水が、風船のようにパチンと弾け――大きな水しぶきを上げて、虹と共に元の池へと流れ込む。
虹の向こうには、見覚えのある三人の影。
フェブは動じる事も無く、優雅に一礼をした。
「さぁ、神奈さんの、お手並み拝見です」
「ふふ。二人とも、しっかり見ていてね」
わたしはフェブとジュンに手を振ると、時計台からひらりと降り立った。
◇◇◇
現れたのは想像通り――パロキョアン・レッド、オレンジ、ブルーの三人。
レッドが代表して、啖呵を切る。
「大事な地球を守り抜く!魔女っ娘戦士パロキョアンは、あなたを絶対、許さないっ!」
レッドが決め台詞と共に、ビシリとわたしを指さした。
流石はレッド……『ミラクル☆パロキョアン』の主人公。
胡散臭い新しい敵が現れても、物怖じをしないのは素晴らしい。
わたしは腰に手を当てて、悪役らしく人生初の高笑いを披露する。
前世から、悪役女王を一度はやってみたかった。
「あーっははは!許されなくて、結構よ!」
やだ……高笑いって超気持ちいい。
生まれてこの方、女王として淑女たる振る舞いを押し付けられてきた分、実は鬱憤が溜まっていたのかもしれない。
レッドが、自らの魔法のステッキを高らかに空へと突き上げる。
「いくわよ……オレンジ、ブルー!」
「まかせて!」
「オーケー、レッド!」
オレンジとブルーも、自らのステッキを掲げて、レッドのステッキへ重ね合わせる。
「……それは、まさか、あの有名な技……」
これは『ミラクル☆パロキョアン』でも有名な必殺技。
三人が順に魔法の呪文を唱える事で、クリスタルの力を一点に集約させ、通常より数倍の攻撃を繰り出せる。
予想通り――まずは、レッドが高らかに呪文を唱え始める。
「パロ・パロ・パローン☆パロキョアン!今ここに、眠りし力……」
もちろん……呪文詠唱なんて待たない。
レッドの呪文を遮るように、アンブレラを大きく一振りする。
「イエロー・シャワー!!」
瞬間、クリスタルが、わたしの言霊に呼応する。
公園一帯に大量の稲妻が生み出され、雨のようにパロキョアンへと降り注ぐ。
これぞ、最終形態『スーパー☆パロキョアン・イエロー』の超必殺技。
女王特権で、呪文詠唱も不要にして、さらに威力は倍。
「きゃぁぁあっ……!」
雷をまともに受けたパロキョアンは、為す術もなく全員意識を失った――。
◇◇◇
ぶすぶすと、鈍い音がするパロキョアンを足で突いて、戦闘不能になった事を確認する。
死んではないけど……しばらく全員、再起不能ね。
フェブとジュンに向かって、片手を突き上げて勝利をアピールする。
「どうだった?見事な完全勝利っ!」
勝利を喜ぶわたしとは対照的に……二人の反応は鈍い。
フェブは顔を背けているから、その表情はわからないけど……ジュンは青褪めた顔で、焦げたパロキョアンを、不安気に見つめている。
「お前……ひ、酷いな?」
「え……な、何?」
ジュンが怯えた顔で、わたしを見る。
「な……なんで、呪文が終わるまで待ってあげないの……?
最低すぎだな……?」
「普通、呪文が始まったら、最後まで待ちますねぇ。……ふふ」
アニメを見ていて、長い呪文を待たずに攻撃すればいいのに、とは思っていたけど。
あれ……この人達、わざわざ、待ってあげていたんだ。
「……いやいやいや。
アンタ達……パロキョアンに勝つ気あるの?」
わたしの発言に、震えていたフェブが我慢しきれず噴き出した。
「ぶっふふ……あっはっは、神奈さんって、面白いですね。
そんな事、考えてもみませんでしたね」
「怖っ!お前、やっぱり怖っ!
俺達は『光の国』の入口が見つかれば、それでいいのっ!」
何それ、変な人達――。
わたしもフェブに釣られて笑っていると、ジュンはパロキョアンを人目に付かない木陰に運んであげていた。
『闇の国』って悪者軍団だと思っていたのだけど、そういう事でもないみたい。