表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/63

1.光の女王と、薄い本

「あなたに、『光の力』を授けましょう」



 ――神聖な、女王の間。



 『光の国』の女王である、わたしの凛とした声が響き渡り……目の前で青髪の女の子が、跪き、恭しく一礼をする。


 その後ろには、赤髪と、橙髪の女の子。

 嬉しそうに目を輝かせる二人は、既に光の力を与えられている魔法戦士。


 目の前の――青髪の子は、彼女達の推薦で、今から三人目の魔法戦士となる。



 彼女達に向かって、片手を伸ばす。


「魔女っ娘戦士『パロキョアン』よ。

 その聖なる力で、この国を――そして、地球を………………んんん?」



 ――あれ……。

 この光景……どこかで見た事がある。


 沸き起こる既視感に、胸がざわついた。



 『すらりと伸びた、白く細い腕』

 『跪く、赤・青・橙の……派手な髪色の女の子達』


 『光の女王の片手越しに見る、パロキョアン三人組』



「……ぅっ」


 ――突如として、雷に打たれたような強い衝撃と、猛烈な嘔吐感に襲われた。



 でも……今は、神聖な儀式の途中。

 光の女王であるわたしが、体調を崩すわけにはいかない。



 吐き気を押さえ、凛とした姿勢で三人を見据え直す。


 幸いな事に、三人ともわたしの異変には、気づいていない。

 しっかりしないと……。



 ――わたしの意志とは関係なく……。

 どこからともなく、魂の根幹を揺さぶるような――軽快な音楽が、脳内に膨れ上がる。



『パロっパロっ パロっパロキョアンっ♪』



 一度聴いたら忘れられない。


 むしろ、うっかりと口ずさんでしまうような。

 中毒性が高く、計算され尽くした電波的メロディ。



 毎週日曜の朝というパワーワードを彷彿とさせる、このメロディ……。

 ……魂に染みついているのだけど、何の音楽か想い出せない。



『魔女っ娘☆戦士っ♪(ふぉう) ミラクル☆パロキョア~ンっ♪』



「…………ぶふっ」


 ……危なっ、噴き出す所だった。


 全身から、嫌な汗が滲み出た。



 吐き気と絶叫したい気持ちを抑えて――女王スマイルを崩さずに。

 さっさと儀式を終わらせると、彼女達を『地球』へと戻す。



 ぐるりと辺りを見渡し、誰も居ない事を確認すると……全力で息を吸い込んで――。


「うわぁぁぁっ!?

 なんで……『ミラクル☆パロキョアン』の世界に――!?」


 絶叫すると、その場で意識を失ったのでした。


◇◇◇


『ミラクル☆パロキョアン』


 毎週日曜朝に放映されていた、幼女向けアニメシリーズ。

 社会現象を巻き起こした、超人気アニメ、とも言う。



 そのストーリーは、単純明快。


 普通の女の子が、別世界『光の国』の女王から力を与えられ、『パロキョアン』という魔女っ娘戦士に変身し、悪の敵に立ち向かう――。



 その『ミラクル☆パロキョアン』の広告ポスターに使われていた有名なカットが、今の『光の女王の片手越しに見る、パロキョアン三人組』だった。



 ――そう。わたしは……日本で働く、普通の社会人。


 通勤ラッシュを抜けて、改札口へ向かうエスカレーターで、『ミラクル☆パロキョアン』のポスターを、毎朝、横目で眺めていた。


 この子達みたいに、特別な力が欲しい。働きたくない、と。

 そのポスターに何度も願ったから、あのシーンはよく覚えている。



(今……夢で、わたしが光の女王になっていた……?

 でも、どちらかと言うと……)



 ――この話には、残念な続きがある。


 ポスターが気になって、アニメを見始めたのだけど……わたしは速攻で、悪役四天王BLの沼に落ちた。

 ……長年封印していた、同人活動も再開させた。



 アニメの最終回では、ラスボス君を中心とした社会現象が巻き起こり……わたしも、その影響で、ラスボス君推しに心変わりをしたのだけど――。


 結局、同人活動は悪役四天王カプで続けた。



(だから……夢を見るとしても、悪役側なのよね)



 仕事が繁忙期を迎える中、寝る時間を惜しんで『薄い本』をひたすら描いていた。


 参考図書として、通販サイトで生々しいハードな写真集も購入した。

 その写真集を片手に、盛り上がりシーンを、夜な夜な描いて………………。



(……あれ、その後どうした……?)



 瞬間、ゾクリ、とした。


 その先の、記憶がない。


 もしかして……。



(まさか、あのシーンを描いている途中に……死んだ……?)



 様子を見に来た、職場の同僚。

 鍵を開けに来た、大家さん。

 検分にきた、警察の人。


 呼び出された、家族。



 やばい写真集を片手に、とんでもないシーンを描いている途中の、わたしが発見された――。


◇◇◇


「やめてぁぁあああああっ!?」


 生まれて初めて、自分の叫び声に驚いて目が覚めた。


 寝汗も動悸も息切れもすごいけど、何より自分の最新状況を確認したい。

 上半身を起こし、周囲をぐるりと見渡した。



 白いレースが美しい、天蓋付きのベッド。

 雲を切り取ったかのような、ふわふわの布団。


 日本の都会で社会人が暮らす、狭苦しいワンルームには見えない。

 ……ここは『光の国』。


 光の女王の、寝室。


「ふふ。よかった……今のが、夢なのね?」


 いや……絶対違う。

 どう考えても、ここは『ミラクル☆パロキョアン』の世界。


 おそらく、あれは、夢ではない。

 ハードな写真集を片手に、『薄い本』を描きながら、孤独に息絶えた女が……わたしの前世。


 下手したら、ニュースサイトで紹介されて、一躍有名人になったかも。

 通販サイトで、あのハードな写真集がバカ売れしていたらどうしよう。



 ……終わった。


 転生しているから、死んだという事なのだろうけど。

 できる事なら、もう一度死にたい。


 今すぐ、甦った全ての記憶を抹消したい。



「――カンナ様!大丈夫ですか!?」


 青褪めた顔で……息を切らして寝室に飛び込んで来たのは、わたしの忠実な側近。

 名前を、シスという。


 紫色の長い髪を頭上でお団子にまとめて、すらりと身長の高い彼女は、切れ長の瞳がとても印象深い。


 シスは将来『パロキョアン・パープル』として、その力に目覚める事になる。

 最後に仲間になるキャラだから、パロキョアンの中では一番戦闘能力も高い。



「昨日も、儀式直後に倒れられて……もしや、どこか体調でも……?」


 シスの顔に、『不吉な前兆ではないか』という不安が浮かんで見える。

 ……大丈夫。わたしの前世以上に、不吉な事はない。


「心配ないわ。わたしはこの通り元気よ。

 大丈夫……下がりなさい」


 落ち着いた様子で笑顔を見せると……シスは安堵したように一礼をして、部屋から出て行った。



「あぶな……前世の記憶、厄介だわ……」


 シスはお姉様キャラで、目つきが悪い事もあり、子供ウケが悪かった。

 グッズの大半は、半額シールが貼られてワゴンに並んでいた。


 前世の記憶があるというのは、難しい。

 きっとこの先、わたしはシスを見る度に、半額シールを思い出す……。


◇◇◇


 シスの気配が消えた事を確認して……。

 姿見の前に移動して、自分の姿を確認してみる。



 鏡の中に現れたのは、ボサボサ頭の日本人ではない。

 金髪ツインテールに、碧の瞳の、気が強そうな女の子。



 ……怖っ。

 寝起きなのに、髪型がしっかりツインテールなんですけど。


 冷静に考えると、これは恐怖だわ。



 鏡にそっと触れると、わたしの動きに併せて、鏡の中のツインテールも動く。

 この姿が、今のわたし。


 光の国の女王、カンナ。

 近い将来、わたしも『パロキョアン・イエロー』として、その力に目覚める事になる。



 ――パロキョアンは、赤・橙・青・黄・紫の、五人組。

 今はまだ、『赤・橙・青』が揃った所で、ストーリー上だと、超序盤。


 この先、話が進むと、わたしとシスが、イエローとパープルとして、その力に目覚めていくのだけど……。

 変身とか魔法のステッキとか、ちょっと恥ずかしい。



 神様、できれば……聖女か悪役令嬢に生まれ変わりたかったです。

気軽に楽しく読んでいただければと思います!

全34話予定、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ