サラリーマンイーター
下駄箱を開けると、蛙の亡骸が上履きに入っていた。それからクスクスという笑い声と、バタバタと階段を駆けのぼる音がした。
いつからワタシが標的になったのかは覚えていない。ただひとつ分かることはイジメられている事実だけだ。
八つ裂きになった教科書が机から出てくる。何が面白いのでしょうか、ほくそえむクラスメートたちと見てみぬフリに慣れてしまった教師。
ワタシの両親も例外ではない。登校拒否は許さないと、放り出されて玄関に鍵をかけられる。こんな腐りきった世界ならいっそ、
「ぶち壊してやろうってか」
誰もいないはずの屋上にワタシは人影を探す。
「誰なの?」
「お前が望むなら、叶えてやらんでもない」
頭上の貯水タンクでたなびいていたボロ布がふわりと宙に舞う。黒いマントは空洞で、大きなカボチャが天辺についている。
「さあ願いを言えよ」
カボチャの口がカタカタ鳴った。ワタシは震える唇を開いて、
「ワタシを、く、苦しめる者に、罰を」
と言葉を振り絞った。するとカボチャはニヤリと笑って屋上から飛び降りた。教室目掛けて猛スピードで滑空し、
「きゃあ」
「ぐわ」
たくさんの悲鳴や、何かが砕ける音が漏れてくる。
ワタシは急いで教室へ向かった。
「終わったよ」
真っ赤に染まったカボチャが、鮮血を滴らせて佇んでいた。
ワタシが黙っていると、
「オレはマンイーター。仕事をするのもタダじゃない。月給は安いんだ。お前には報酬を頂こう」
そう言ってマンイーターはワタシの右手にそっと触れた。
「うわあっ!」
ベッドから転げ落ちたボクは、背中に汗をびっしょりとかいていた。窓から夕陽が射し込んでいる。
「な、何だ。夢か」
心臓を落ち着かせようと冷蔵庫を開けるが、飲み物がない。仕方なくコンビニに向かうことにした。
玄関を出て友達に電話をかける。
「あ、もしもし。聞いてくれ、変な夢でさ。いきなり教室にカボチャが来てみんな殺したんだ」
「それはこんなヤツかい?」
振り返ると黒い布が道端に落ちている。なぜか友達の電話が赤くなって側に置いてある。
ふいに電信柱の影からクラスメートが姿を現した。ボクらがイジメていた女の子だった。
「残りはこの子。風邪で休んでたこと、すっかり忘れてたわ」
彼女の全身が露になる。
「み、右手はどうしたんだよ」
ボクは恐ろしさのあまり腰が抜けて立てない。
「報酬は払ったのだから、お願いね」
「任せろよ。戦慄におののく人間に勝る食事はないからねえ」
黒マントが宙に浮いた。
サラリー マンイーター
notサラリーマン イーター




