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STRANGE  作者: おもち!
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運命の出会い

プルルルルルル

ガチャ


「もしもし、どなた?」


「もしもし、こちら(カラ)。大阪について無事ホテルにもついたぞ、()()()()()


ゴフッ、と通話越しに咳き込む音が明確に聞こえて来る。


「君ね、それどこで......いや香奈(カナ)が言ったのか」


「あぁ、あのお姉さん香奈さんっていうのか。名前を教えてくれてありがとう」


「初対面の人の名前を聞き忘れる癖は直したほうがいいなって僕は思う」


「はいはい、いつか直すよ。そのうち、きっと、いずれか」


「はぁ......まぁいいや、そこ結構広いでしょ」


「広いな。部屋だけで山荘一階部分くらいは余裕でありそうだ」


「そこ基本的に出入り口が入ったところしかないから任務に出る時は見られないように気をつけてね」


「ん?窓があるからそこから出ればいいんじゃないか?」


「そこ締め切られてるから。部屋の中の気温はエアコンで調整できるし、換気扇くらいはあるけど人が出られるような出口は部屋にはないよ」


「なるほどな......それで、今回の入り口はどこだ?」


「さぁ?」


「さぁってどういう事だよ。大型異常空間が発生してるならそれこそ入り口は大量にありそうだが」


「だってまだ発生してないもの。多分後二日か三日以内には出現すると思うけど」


「あーそういえばそうだったな。今回は発生してる現場に来てるんじゃなかった、ついいつもの癖で」


「じゃ、発生したらこっちから緊急連絡入れるから。ばいばーい」


「それじゃ、ゆうちゃん」


「君帰ってきた時に覚悟しなよ」


プッと電話を切り、部屋から外を眺める。

日がいい具合に暮れ、夕焼けの光が河に反射して幻想的な空間が生まれている。

都会では見ることがなかった綺麗な景色に見惚れていると、暫くしてジリリ、という音が無音の部屋に響き渡る。


「お夕飯できましたよ〜」


「あ、分かりました。今行きます」


会話機能が付いているのか分からないがついつい答えてしまう。

部屋の扉を開け、一直線に続く長い廊下を中央方面に歩き続ける。

歩き続けること約五分、ようやく中央の食堂?らしき箇所に辿り着いた。


「廊下長っ......」


「あ、きたきた。あそこにメニュー表があるから注文して、受け取ったら向こうの席に座ってね」


「はい、ありがとうございます」


とメニュー表らしき一覧をペラリ、ペラリとめくり食べたいものを探す。

正直どれもこれも美味しそうなのだが、こうもいっぱいあると折角だし好物を食べたくなる。

三ページほどめくったところに目的のものはあり、そのまま注文をする場所に向かう。

注文は発券式となっているようで、現金式では無いようだ。

おそらくは食費としてホテルに既に払っているものだと思われるが。

『カツカレー』のボタンを押す。

しかし、券がなかなか出てこない。

どころか、本来あるべき券が出て来る場所が存在していない。

うーん?と頭を捻らせていると、隣のカウンターらしき場所からウィンっという音と共にカツカレーが出てきた。

こういったところまで最新式らしい。

いや、こういった形状のものは数年前によく置いてあったうどん自販機やバーガー自販機を思い出すが。

トレーと共にカツカレーを受け取り、指定された席の元へ向かう。

その席の対面には既に人がおり、おそらくは俺より前に来たという一グループ目のお客さんなのだろう。

一グループ、二グループとは言っているがどちらも一人のようだ。なんだか少し親近感が湧く。

対面の席に座り、挨拶は交わしておいた方がいいだろうと会釈をして軽く声をかける。


「こんばんは、今日からここで......」


「どうなさいましたか?」


サラリーマン風の格好、糸目、ピシッと整った七三分けに長身で手足が細長い。

俺はこの男を知っている。


「......いえ、大丈夫です。今日からここで宿泊します、雲海と申します。よろしくお願いします」


「えぇ、よろしくお願いします。古井(フルイ)蓼蜜(タデミツ)と申します」


細長い手を握手と言わんばかりにこっちに伸ばして来る。正直手を取りたくないが、こっちの存在がバレても困る。俺は手を取ることにした。

手を取り、軽く握手を交わす。


「......雲海さん、でしたか」


「......はい」


「私と以前どこかで会ったことが?」


「ナイデス」


「異常空間α」


突然小声で呟かれたそれにぽーかーふぇいす(笑)が崩れる。

異常空間α。七年前の災害を大量に起こした異常空間の名前である。

そしてこいつとはその時に出会い、その後度々別の異常空間でも鉢合わせている。

つまりは同業者だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()


「呼び方を改めましょうか、(カラ)さん。いやぁ、とんだ不幸です」


「そりゃお互い様だよ、歩く銀行(バンカー)


「ここならひっそりと今回の件に挑めると思ったんですがね......」


「まぁ、ここに来てるってことはアレ目的だよな」


互いに互いで言葉を隠しながら、どちらも巨大異常空間目当てで来ている事を把握する。


「まぁここで話すのも良くないですから、私の部屋に来ませんか?ゆっくりと久しぶりに話をしましょう」


「ここじゃ話しにくいしな......分かった、食い終わったら行こう」


歩く銀行(バンカー)、もとい蓼蜜は牛丼を食べ終わるのと大体同じタイミングでカツカレーを食べ終わる。

返却、と書いてある場所にトレーと食器を返し、そのまま蓼蜜と共に蓼蜜の部屋に向かう。


「あら、もう仲良くなったのかしら......」


電話を終え帰ってきた香奈は、二人の間柄など知る由もなく。

一瞬で打ち解けて同じ部屋で話すようになった、というようにしか見えなかった。


場所は移り、蓼蜜の部屋にてソファに腰をかける。


「さて、なんで歩く銀行(バンカー)さんがいるんですかね......」


「敬語が似合わないですね、(カラ)さんは。にしても狐の仮面の下はこうなっていたのですか......」


「仮面つけてないからバレないだろって思ったんだけどなぁ......なんで手の形と声だけで特定出来んだ、怖すぎるだろ」


「まぁそこは職業柄。今まで出会った全員の名前やそれに伴う五感のどれかは記憶してますので」


「相変わらずの超人だなぁ......それでなんでここに?」


(カラ)さんと同じですよ、大阪に発生する巨大異常空間に伴って発生する『商品』を回収してこいとサイクリーから下されまして」


サイクリー、『株式会社サイクリー』である。

箱庭同様に異常物体の回収を行なっている民間会社だが、その本質は大きく箱庭と異なる。

C.C(株式会社サイクリー)の理念は【回収、販売、利益】の三つ。

異常物体の事を『商品』と呼び、異常物体の事を知っている金持ち達に売りつけるというのがこの企業のやっている事である。

また、その性質上異常物体の秘匿には協力的で、本人達曰く「希少価値が高ければ商品価値が上がる、ですよ」とのこと。

しかし異常物体を世に出していることに変わりはないのでがっつり箱庭との敵対組織である。


「おぉ、随分とペラペラ喋るんだな。俺が巨大異常空間について知らなかったらどうする気だったんだ」


「まさか、知らなきゃこんなところに来ませんから。なにせ箱庭本部があなたを今この件以外で派遣、なんて有り得ないですしね」


「ふぅん......?物知りげな顔だな」


「ええ、知ってますから。イロイロと」


「じゃあ一つ聞いていいか?」


「聞くだけでしたら、ご自由に」


「他団体はC.Cだけか?」


「まさか。(カラ)さんだってそんなこと思ってないでしょう。そうですねぇ......昔の同僚のよしみで教えるなら『異壊師団』は来ている、とだけ言っておきましょうか」


「なにが同僚のよしみだ、そこと箱庭をぶつけたいだけだろうが」


「バレましたか」


「露骨すぎる」


異壊師団、『日本治安維持独立団体:異壊師団』である。

日本、とあるが国家組織とは全く関係がない。

端的に言うなら「異常物体絶対殺すマン」の集団である。その性質のせいで他団体全てと敵対している。

ついでに構成員が全員狂人であるため関わりたくもない。


「はぁ......マジか、しかしそれなら今回の任務は相当荒れそうだな......生きて帰れるかどうか」


(カラ)さんが弱気になるとは珍しい。あなたなら四肢をもがれても地面を這いずって生還しそうですけどね」


「なんだそりゃ、ゴキブリじゃないんだぞ俺は」


「そのくらい生命力がある、と言うだけのことですよ。さて、久しぶりに楽しく会話もできましたし、夜も暮れてきました。お開きとしましょう」


「あぁ、そうだな。じゃあ、任務で会う時は敵同士で」


手を振り、別れる。

しばらくぶりに過去の友人と話すのは楽しいものだ。

たとえそれが今敵対している相手であっても。

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