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STRANGE  作者: おもち!
4/6

一日目、宿にて

速水(ハヤミ)と駅で分かれてから、俺は事前に貰った紙を取り出し、書いてある住所のもとへ向かい始める。

降りた駅の付近は都会感のある都会、と言った様子で噂に聞いたような商店街が立ち並んでいたが、進んでいく内にだんだん景色が変わる。

歩くこと二時間、そのうち十数分は路地裏を駆けてたどり着いた先は。


「なんだここ......」


背後に森、目の前に河、付近に街らしきものはおろか人工物の気配すら見られないところに佇む巨大な山荘であった。

山荘といえば大体一軒家かそれより少し小さいくらいのものを誰もが思い浮かべるだろうが、この山荘は一つの屋敷くらいある。

そういうコンセプトのホテルなのだろうか......

入り口には大きく【山荘】と書いてあり、それ以外に名前を見受けられない。

ドアらしきものに近づき、キィ、という軽快な音とともに扉を開ける。


「あのー......今日から二十泊二十一日で予約してた袋小路と」


「あら、ゆうちゃんが言ってた子?可愛らしいわね、高校生?」


「え、あ、はい。高校生です」


「さあさ、ゆうちゃんから話は聞いてるから。部屋案内するね」


おばちゃんのようなテンションで話しかけて来るのは20代前半と言った様子の女性。


「ちなみにゆうちゃんっていうのは」


「ゆうちゃんはゆうちゃんよ。祐司君って呼ばないと反応してくれないけど」


「あ、やっぱり三上さんのことなんですね」


ゆうちゃん、と呼ばれているのはどうやらここに俺を送り込んだ三上祐司で間違いないらしい。

後でゆうちゃんって散々にいじってやろう、どんな顔をするか今から楽しみだ。


「ちなみに三上さんからはなんて聞いてます?」


「ん〜?仲のいい友達が夏休み使って大阪に遊びに行くからよろしくーって」


「お、あの人にしてはかなり珍しく普通だ」


なんだ、最もらしい理由をつけれるじゃないか。

いつもこういったものに対してまともな文句をつけてこなかったから信用が欠片もなかったがどういう気の回しなのだろうか。


「にしてもよく来たね〜東京だっけ?」


「あ、はい。ちょっと都会の喧騒から一回離れたくて」


「あるあるだねー。うちに来る人は大体そんな感じだよ、今年は珍しく四グループも予約が来たけど」


「四グループ......それで回るものなんです?」


「まぁこの屋敷?ホテル?自体お金持ちの遊びというか税金対策みたいなので作られたらしいからね。私は一回の受付だから詳しい事情は分からないけど、儲ける必要はないんじゃない?」


「はぁ......なるほど?四グループってことは俺以外に三グループほどいるんですね」


「いるよ〜。まぁまだうち二グループは来てないけど。今いるのは君と右端の部屋のお客さんだけかな」


「うーん、それだと会うことはそうそうなさそうですね。さっきから歩いてるの左方面ですし」


「そんなことはないよ。だってここ、朝ごはんは全員で集まって取るもの」


「はぁ、そうだったんですか。知らなかった」


「ゆうちゃんさてはほとんど何も言ってないな〜?」


「ですね、何も聞かされてません」


「てことは私がゆうちゃんの彼女ってことも?」


「初耳で......って、えぇ!?三上さん彼女いたんですか!?」


「その様子だとゆうちゃんは惚気話の一つもしてないものと見た。仲のいい友人にくらい話してもいいのに......」


実際には仲のいい友人というよりも仕事の同僚なのだから仕方がない、と言いたいところだがあの男とはしばしば食事に行ったりだとか遊びに行ったりしている仲ではある。彼女の存在くらい教えてくれたって構わないじゃないか。


「いやぁ......なんていうか驚きですね。あとすごい遠距離だなって」


「そこはまぁこの時代よ。タブレット一つで毎日会えるからね、まぁゆうちゃんがいきなり東京に行くっていった時は反対したけど」


おそらくいきなり、というのは三上という男が自身の異常性を理解し、箱庭に捕獲、研究されたのちに箱庭に勤める選択肢を取った時だろう。

本人からしても辛い選択肢ではあったのかもしれないが、彼女をもう一つの世界の側に巻き込まないために東京に来たのだろうか。そういったところはなんだか漢らしいじゃないか。


「大変だったんですね......」


「過去は過去、今は今だからね〜。お互いが楽しくやれているならオールオッケーってやつよ」


「お互い信頼してるんですね」


「そうそう。さて、ここが君のお部屋だよ。広いでしょ」


「うわぁ......なんか、部屋一つで一つの山荘みたいですね」


「お、1人目の子と同じこと言ってる。私も初めて見たときは似たようなこと言ったけどね」


「そりゃ言いますよ、一部屋がこんなに大きいなんて誰も思わないですし」


広さ的にはまさしく山荘の一階部分、と呼べるほど広く、一人で使うには明らかに持て余す。

中には洗濯機と乾燥機まであり、キッチンが無いことを除けばここで暮らすことが余裕で出来そうだ。


「じゃあ荷物置いて、適当にくつろいでて〜。晩ご飯の時はまたそこのインターホンから呼ぶから」


「最新設備って感じですね。感動してます」


「この建物時代七年前に建てられたものだからねー。新築も新築よ」


「そりゃまた随分と最近ですね。ネットにも載ってないのは最近できたからなのかな」


「さぁ?ここの主の意向じゃない?ま、そんなわけでごゆっくり〜」


「ありがとうございます」


と、分かれをしてからスーツケースを下ろす。

そして、今更になって気がつく。


「名前、聞き忘れたな......」

ちなみにこのホテル、一泊二日から三十泊三十一日まで対応しています。

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