表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/56

宿った奇跡


 まだ流れ続ける涙が、瑠璃姫の細い指先を濡らしていく。


「その手をここに」


 私は抱えていた鬼切丸と焔丸を膝の上に置き、そっと鞘をずらした。

 はじめて間近で見る刃は冴え冴えと輝いていた。

 私が刀を抜いた瞬間、秀一さんが身構えるのが視界の端で見えたけれど、彼はそのまま邪魔はしないでいてくれる。

 瑠璃姫はいつの間にか地面に座り私と同じ視線になっていた。


「こう?」


 不安そうに問いながら姫は慎重な手つきで刀身に触れた。

 指を濡らしていた涙が刀に移るのを確認し、私は言葉を続ける。


「姫、どうぞ願ってください。そして真帆さんを信じてください。真帆さんが高村さんの中の狼だけを切ることがきると信じてあげてください。その姫の願いが『奇跡』の力となるんです」

「そうしたら、真帆は泣かないですむ?」

「はい」


 私が言い切ると瑠璃姫はぎゅっと両手を組んで目を閉じた。

 ピンク色の唇が何かをつぶやき、長いまつ毛が震える。そのまつ毛の先にたまっていた涙がふとした拍子にこぼれて、鬼切丸の上に落ちた。


 ぽう。


 涙が落ちたところから光が生まれ、鬼切丸と焔丸を包み込んでいく。その光は数秒で消えてしまったけれど、私は刀に『奇跡』が宿ったことを確信した。

 鬼切丸と焔丸を鞘に納めると私は立ち上がる。


「ありがとうございます」

「どこへ行く?」


 加羅のところへ向かおうとした私を秀一さんが呼び止めた。


「真帆さんの所へ鬼切丸と焔丸を届けに行きます」

「危険だぞ。真帆のいる場所は戦場だ。それは俺が部下に運ばせよう」

「いいえ」


 片手をこちらに向けてそう言ってくれた秀一さんに私はきっぱりと首を振った。


「これは私がするべきことなんです。私がそうすることを選択したので」

「君はー」


 何かを言いかけて、秀一さんは口を閉じた。


「気をつけるんだぞ」

「はい、ありがとうございます」


 秀一さんが認めてくれたことが嬉しくて、私は深々と頭を下げた。


「あなたも行くべきなんじゃないですか、鬼頭将軍」

「バルコさん?」

「魔導師?」


 それまで黙って私たちを見ていたバルコさんが声をかけた。

 意外なことに、彼が声をかけたのは秀一さんに対してだった。


「戦場で最も必要とされるのは戦士でしょう? そしてあなたはこの国一番の戦士だ」

「俺は行かない」


 バルコさんの言葉に秀一さんはきっぱりと首を振った。


「俺は城を守らねばならない」

「狼人ならば、私が抑えましょう」

「お前が?」


 どうやって? と、秀一さんが問う前にバルコさんの足元に王宮の立体画像が浮き上がっていた。

 その画像のいくつかの場所で光が点滅している。


「いつこれを把握した?」


 その光が何を示しているのか、秀一さんにはわかったらしい。


「魔導師の能力とでも言っておきましょうか」


 剣呑な秀一さんの視線を軽く受け流しつつ、バルコさんは右手に持った杖を高々と上げた。


「我と契約せし精霊よ、戒めとなりて拘束せよ」


 呪文と共にバルコさんが杖を振り下ろすと、点滅していた光の色が赤から青に変わった。

 それと同時に秀一さんの首にかけられた通信機から声が響く。


『鬼頭将軍! 報告です』

「どうした?」

『暴れていた狼人どもが何かの力によって拘束され、床に縫い留められています』


 兵士からの報告にバルコさんは唇に笑みを乗せた。


「戦士たちがすべきは戦うこと。一介の魔導師である私にできるのはこの程度のことと、そして守ることくらいです」


 バルコさんが翻した左手のひらから光が生まれ、私がつけていた魔道護符に吸い込まれていく。

 少しだけ魔道護符が重くなったような気がして、私は刀を抱いていない方の手でそれに触れた。


「バルコさん」

「亜香里さん、どうぞ行ってください。私の魔術があなたを守ります。姫も、城も、あなたと真帆さんが戻ってくるまで、私が私の名にかけて守ってみせましょう」

「ありがとうございます!」


 バルコさん…いや、ガーファンクルの守りを得て私は駆け出した。


「お前はなぜそこまでする。他国人であるお前にここまでする理由はないはすだ」

「確かに、この国やあなたのためでないことは確かですね」


 加羅の背中に乗っているとき、秀一さんとバルコさんの会話が聞こえてきた。


「ならば…」

「亜香里さんは私にとって、女神なので」

「え?」


 大げさな表現に私はもう少しで加羅の背中から落ちそうになってしまった。

 秀一さんもめちゃくちゃ怪訝そうな顔で私とバルコさんを見比べている。

 ちょっと、やめてー。変なこと言わないで。

 私がそう叫ぼうとする前にバルコさんが軽く手を振った。

 そのとたん、加羅の身体がふわりと中に浮く。


「さあ亜香里さん、行ってください。そして鬼頭将軍、城は私が制圧しました。あなたのような戦士はここには必要ありません。あなたも行きなさい」


 有無を言わせないバルコさんの声に、秀一さんは鋭い舌打ちをした。

 それから城の結界をすり抜ける私を見上げる。


「亜香里! 真帆たちは太陽の塔の南西5kmのところにいる。それから、現場を確認したら俺も行く!」

「はい! お願いします」


 思わぬ援軍の約束に私は笑みを浮かべた。

 秀一さんが来てくれたら真帆さんたちの戦いはもっと楽になる。真帆さんが、高村さんを助けるのも早くできるかもしれない。


「加羅! 私を真帆さんのところへつれて行って」

『りょうかい!』


 加羅は私の願いに応え、全速力で崖を駆け下りた。




【魔術の重ね付け】

 一度付与した魔術に再度魔術を重ね付け、その作用を強化する高等魔術。

 魔導師の中でも一部の者しかできない。

 重ね付けと言っても当初の魔術式の隙間に新たな魔術式を書き込むため自分が施した魔術式でもそこに重ね付けをするのは最新の注意が必要となる。

 




鬼切丸と焔丸に奇跡が宿りました。

宿った奇跡を持って亜香里は真帆のもとへ向かいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ